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ようやく解除できた隔離結界
しおりを挟むシュットラウルさんの大変さは領主貴族としての大変さなので、俺にできる事はあまりないからどうしても他人事のような感想になってしまうのは仕方ないのかもしれない。
ただ、完全に壊滅した村というのはほぼないらしく、建物への被害は大きくても人的被害は予想より少ないらしい、というのが現時点でわかって来たのは朗報だろう。
予想より少ないだけで、ないわけじゃないから素直に喜びづらくはあるけども。
「さて……いつもの結界を解く感じでいいんだよね? 今は魔法を使えないけど」
センテ西門を出てすぐの場所で、隔離結界に触れながらエルサに聞く。
隔離結界の外側は既に凍りが融けていて、ヘルサルへと繋がっているんだけど、このままじゃ通れない。
「それでいいはずなのだわ。リクの魔法である事には変わりないのだから、解除が別の方法になったりはしないはずなのだわ」
センテとヘルサルが繋がり、周辺の氷も近くは融かす事ができたとなれば、必要なくなるのがセンテ全体を覆っていた隔離結界。
街の防御面という意味ではそのままの方がいいんだろうけど、西門と南門が使えないため、わざわざ迂回して東門の方まで来る必要がある。
それは手間だし、そもそも隔離結界自体が過剰だという事で解除する事になった。
これまでずっと、氷に囲まれてたセンテを冷気から守ってくれていたけど、解氷作業が進んでくれたおかげでもう街の中が寒くなる事はなさそうだし。
ちなみに魔法が使えなくなってからも、ずっと俺から魔力供給されて維持されていたんだけど、さすがに俺がセンテから大きく離れてしまえば維持できるだけの魔力供給ができないいので、結局は解かないといけないわけだ。
魔法の規模が大きいからだろう、ヘルサルに行くくらいの距離なら関係なく俺から魔力が流れていたけど。
……常時魔力が維持のために流れているせいで、レムレースと戦った時の魔力が少し危なくなったりもしたんだけども。
「それじゃやってみるよ。ん……っと。うん、成功したみたいだね。少し風が気持ちいい」
「ただ魔法を解除するだけ、魔力供給を止めるだけとも言えるのだから、成功も失敗もないのだわー」
意識して、いつも結界を解く時のように力を抜く感覚。
すぐに手に触れていた隔離結界の感触が消え、センテを包んでいた膜のような物が全て消えた。
それと共に、少しだけ冷たい空気が風に乗って流れて来る。
隔離結界内はちょっとだけハウス効果が出ていたのか、少し汗ばむくらいの暖かさだったけど、熱が覚まされて行くようで気持ちがいい。
まだ残っている凍った大地からの冷気も、少しだけ風の冷たさに影響しているのかもしれない。
「ふぅ……ともあれこれで、完全にセンテは解放だね。閉じ込めたのは俺だけど……」
なんとなく、溜まっていた何かを出すように溜め息を吐き、呟きながら振り返る。
隔離結界自体は、必要だったかはともかくやったのは俺だからね……ちょっと肩の荷が下りた気分なのかもしれない。
そして振り返った先、西門付近には兵士さんや冒険者さんだけでなく、街の人達も大勢いて、俺が解除する瞬間を見て盛り上がっていた。
皆も、閉塞からの解放感を感じているのかもしれないね――。
「リク殿、ここまでの協力助かった。リク殿がいなければ、今頃このセンテは……いや、ここだけでなくヘルサルやその周辺。アテトリア王国国も危うかっただろう。本当に感謝している。そして、復興の助力にも」
「リク様のおかげで、ようやく目途が付きました。まぁまだやる事は山積みですが、先に備えて私やヴェンツェル様も直にセンテやヘルサルを離れるでしょう。一部の兵は残しておきますが……シュットラウル様もおっしゃっているように、リク様がいなければ国そのものが危ぶまれました。復興も、もっと遅れていたでしょう。ありがとうございます、リク様はまさしくこの国の英雄です」
「えーっと、はい……」
隔離結界を解除した翌日、シュットラウルさんとマルクスさんから庁舎に呼ばれて、部屋に入っていくつか話をした後、何故かこうして二人に感謝の言葉を述べられ、揃って頭を下げられた。
何故かも何も、俺がそろそろセンテを離れて王都に……という話になったから、改めてって事なんだけども。
一部、特に隔離結界とセンテ周辺が氷に閉ざされたのは俺のせいだったりするんだけどね。
でも、状況的に否定するのもシュットラウルさん達の面目を潰しかねないと思い、一応頷いて感謝を受け取っておく。
センテの代官さんを始めとした街の管理をする人達、それから侯爵家の執事さんや侯爵軍と王軍の隊長格の人達が揃っていたから。
全員、シュットラウルさん達が頭を下げたのに追従するように、俺に向かって頭を下げている。
というか、センテの代官さんを久しぶりに見た気がするなぁ……確か、農地のハウス化のためにセンテに来て、シュットラウルさんと初めて会った時以来かな?
ずっとセンテで、シュットラウルさんの近くで街に関するあれこれをやってくれていたんだろうけど、あまり話す機会がなかったなぁと今更ながらに思う。
まぁ実際、話す事ってあまりないのかもしれないけど。
なんて考えつつ、全員の感謝を受け取り気恥ずかしくなるような称賛を受けた。
「それでリク殿、センテはもう我々だけでなんとかなるが……いつ頃王都へ戻るのだ?」
少し経って、シュットラウルさんとマルクスさん、それから俺以外の人達が退室した後、シュットラウルさんからそう聞かれた。
「そうですね……明日、はちょっと急ぎすぎだと思うので、二日後か三日後くらいでしょうか」
毎日色々と、エルサやリーバーに乗って文字通り飛び回っていたから、少しくらいはのんびりしたい。
疲れとかはほとんどないけど、急いで王都に戻らなきゃという状況でもないし、一日か二日くらいは休んでも構わないと思う。
……遅くなれば遅くなるだけ、往生に戻った時姉さんに色々言われる事が多くなる気がしなくもないけど。
「それでしたら、センテの街を見て回ってやって下さい。皆、リク様に感謝したい者達ばかりだと思いますので」
「いえそんな……感謝されたいわけでもないんですけど」
「だが、民はそれを望んでいる。リク殿に救われた兵や冒険者などもな。まぁ無理にとは言わんが、感謝をしたい、礼を尽くしたいという感情もまた、発散する機会がないとな。なに、皆リク殿の事を手厚く歓迎してくれるはずだ」
「……わかりました。少しだけなら」
ここまで言われるのなら、一応街を見て回ってセンテの人達と交流するのもいいのかもしれない。
一切街に顔を見せないわけじゃなくて、これまでも街中を歩いていたりはしたんだけど、ここ最近はほとんど宿と東門の往復ばかりだったからね。
初めてセンテに来た時知り合った人達とか、どうしているのか様子を見てみたい気もするし……一応、無事にセンテにいる事は確認しているけど。
「あとリク様……先に渡しておきますが、これを陛下に」
「これは?」
マルクスさんから、小包くらいの大きさの木箱を渡された。
持ってみると、結構軽いので中に物が詰まっているという程でもないみたいだ――。
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