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リクの近くにいれば安心らしい

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「ング、ング……なかなかやるな……。ぶまび、ぎぐぼものごごどでがーぎんがだだらぶっでごどばま」
「伯父様、何を喋っているのかわかりません。まずは口の中の物を飲み込んでから話してください」

 口いっぱいに頬張った料理をモグモグと咀嚼しながら話すヴェンツェルさんだが、カーリンさんが注意した通り何を言っているのかよくわからない。
 かろうじて、カーリンさんの名前を口にしたような? というのがわかるくらいだ。

「んく……ふぅ。すまんすまん。つまり、リク殿の所でカーリンが働くという事だな」
「そ、そうですね」

 口の中の物を飲み込んで言い直すヴェンツェルさん……というか、カーリンさんから注意されてからも口に詰め込んだ料理も一緒に、嚥下(えんか)したみたいだけど、噛まなくて大丈夫だろうか?
 ヴェンツェルさんは、胃を始めとした内臓まで筋肉でできているから問題ない、という事はないだろうけど。

「クランの話は聞いているが、成る程な。リク殿の所にいるのなら、私も安心だ。リク殿にちょっかいを出すような輩は……世の中どんな奴がいるかわからないから、絶対ないとは言い切れないが、ほとんどいないだろうからな」

 まぁ、そんな事する人はいないだろう、と思ってもその予想を悪い意味で裏切るのも人間だからね。
 クズ皇帝もそうだけど、世の中とんでもない自分だけの理屈で行動する人っていうのはいるもんだ。
 逆に、とんでもなくお人好しな行動をする人間もいるらしいから、ある意味バランスが取れているのかもしれないけど。

「それに、リク殿がいるのならカーリンを守ってもらえるだろうし、そんじょそこらの奴が束になっても……いや、国が敵に回っても安心できるくらいだからな」
「さすがに国はちょっと……」
「何を言っている、ヒュドラー三体、レムレース二体……いや、森にもいたから三体か? ともかく、それだけの魔物を単独で倒せる人物を、国一つや二つでどうにかなんぞできんぞ。どちらか一体で、下手をすれば複数の街が壊滅するくらいだ。センテに迫った魔物は、それくらいのものだという事だ。リク殿がいなければ、この国は破壊尽くされていてもおかしくなかったぞ」
「それは……えぇと、大袈裟……とも言えないのがなんとも」

 実際、ヒュドラー三体だけでも結構な物、では済まない戦力だ。
 それに加えてレムレースも複数……どれだけ俺に対してぶつけてきているんだレッタさん、と思わなくもないが、それだけ本気だったって事だろう。
 逆に言えば、帝国の魔物戦力の頂点だったみたいだから、今回の事で向こうの戦力をかなり削ぐ事ができたとも言えるから、悪い事ばかりではないけども。
 レッタさん曰く、レムレースは核で復元とかではなくレッタさんの魔力誘導という特殊能力がないと、ただ破壊を撒き散らすだけで味方になんてできないらしいし。

 ヒュドラーも、あれだけの魔物だから核その物が貴重であり、三体分も使ったうえに回収すらできずに消滅しているようだから、帝国にはもう余剰分なんてないだろうとの事だ。
 まぁ、消滅させたのは俺なんだけど。
 ちなみに、もし核があるとしても一個あればというくらいで、本来のヒュドラーの棲息場所が火山なため、核の回収するにも多大な犠牲を払う必要があるから、新しく入手するのはほぼ絶望的だとか。
 レッタさんがいれば、魔力誘導を使ってヒュドラーを引きずり出したりなど、ある程度犠牲を抑えつつ回収する手もあるらしいし、元々それで取って来た物らしいけど。

 ただ、魔物戦力が減った帝国が、レッタさんが離れた今さらに戦力を減らして回収する地力や根性があるかと言われたら首を振る、ともレッタさんが言っていた。
 だからまぁ、センテで起こったのと同じ事はもう起きないし、レムレースは自然発生以外可能性がなく、ヒュドラーはいても一体程度といったところだ。
 もしヒュドラーを出して来たら、俺が白い剣でサクッと倒せばいいと思っている。
 ……場所によっては、俺が駆け付けるまでに大きな被害をもたらされるかもしれないけど、対抗策がないよりはいい。

 ともあれ、思考がかなり逸れたけど俺相手に国が一つ二つって話だったね。
 ヒュドラーやレムレースを単独でと考えると、その魔物が野放しになっていた状況を推測すると、ヴェンツェルさんの言い方も間違っていないのかもしれない。
 本当に、帝国以外の国を相手にするような事はするつもりはないし、したいとも思わないけど。
 魔物みたいに、ただ襲い掛かって来るだけならまだしも、大量の人や組織、国を一人で相手にするなんて面倒以外の何物でもないからね。

 なんて考える俺は、人間の枠から外れまくっている気がしたけど……ともかく、大勢の人が相手なら搦め手とかあるわけで、魔物とはまた違った怖さがあるから。
 うん、絶対に帝国以外を敵に回すような事はしないように気を付けよう。
 帝国はまぁ、俺単独ではなくアテトリア王国が味方にいてくれるし、俺も許せない部分があるし覚悟は決めているけど。

「まぁそんなリク殿の近くにいるのは、私も安心だ。王都ならばいつでも会いに行けるしな」
「さすがに、ヴェンツェルさんが気軽に王城から出て、というのはどうかと思いますけど……」
「なに、陛下に奏上すれば可能だろう。リク殿が関わっているのなら、尚更な」

 なんだろう、ヴェンツェルさんにそう言われて、姉さんも一緒に来る様子が簡単に頭に浮かんでしまった。
 実際には、王城を抜け出そうとする二人が、ハーロルトさんとヒルダさんによって引きずられて戻されるのが関の山な気はするけど。
 まぁ戦争となれば、国と足並みをそろえる必要があると思うから、一度や二度くらいはいい……のかな?

 ベリエスさんやヤンさんが、シュットラウルさんやマルクスさんと会議をしていたような感じで。
 ……それくらいなら王城でもできるか。

「はぁ……伯父様、リク様のクランであり、冒険者の集いなのですから国の重鎮である伯父様が気軽に来るのは駄目でしょうに……」

 溜め息を吐くカーリンさんだけど、本当に嫌がっている雰囲気は感じないので、なんだかんだと様子を見に来てくれるヴェンツェルさんを嫌っているわけではないみたいだ。
 過保護過ぎるのがちょっと……とか恥ずかしいとか、そんな感じなのかもしれないな。

「まぁそう言うなカーリン。これからの事を考えると、リク殿とは密に話し合いを重ねねばならんからな」
「これから……ですか?」
「その、なんだ……私からは何も言えないが、必要な事だ」
「そう、ですか」

 言葉を濁したヴェンツェルさんに、カーリンさんは納得いかなそうながらも頷く。
 将軍という、軍部のトップであるヴェンツェルさんだから、話せない事もあると知っているんだろう。
 濁した内容はおそらく、帝国に関してとか戦争に関してだと思われる。
 一部の人は知っているけど、まだ広く知らされているわけじゃないからね……ある程度俺が話しているから知っている、もしくは察している部分もあるマックスさんやマリーさん。

 それからリリーフラワーのメンバーを除いても、ルディさんやカテリーネさんとか他の従業員さんもいるからね――。


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