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契約書類の確認
しおりを挟む「……ふぅむ」
「ふんふん。今のところ、特に指摘するような所はないみたいね」
「そうだねー」
と、モニカさんとちょっとした会話を挟みながら、それぞれで書類を確認していく。
二人で一緒に同じのを確認していたら時間がかかるし窮屈なので、束の書類を半分に分けて、確認が終わったらもう片方に渡して確認する、という作業だ。
二重チェックみたいな状況になっているけど、エレノールさんを信頼していないというわけではない。
というか、エレノールさんの方もこういった確認に俺がモニカさんを連れてきた事に対し、好感を持っている様子だった。
「リク様と近しい人物ではありますが、第三者の確認というのは必要ですからね。特に、こういったお金が絡み、不備があれば後々揉める原因になりかねない事柄に関しましては。私も急いで作った物でもありますので、少々リク様寄りの内容になっているのを否定できません。本来は中立であるべきなのですが……」
なんて言っていたけど、これらの書類……三十枚以上ある書類を、昨日あれから作れただけでも単純に凄いと思う。
ある程度は、冒険者ギルドに元々あった決まりとか、書類形式なんかも参考にしているとしてもだ。
しかもパソコンやプリンターなどもないから、全部手書きになるわけで……俺だったら、良くても四、五枚で挫折しそうだなぁ。
「すみません、こことここなんですけど……」
「そこはですね……。はい、修正を……。そちらは……」
「そうですね、わかりました」
などなど、俺は特に問題ないと思った項目をモニカさんが指摘し、エレノールさんが修正、または説明して納得する、というのを何度か繰り返す場面もあった。
さすがに、一日で用意した物だけあって全てが完全というものではなかったようだ。
モニカさんに来てもらって良かった……話を聞いている限り、大きな問題ではないけど俺だけだったら、よく考えずにそのまま通していたと思う。
ちなみにモニカさんは、獅子亭にいた時マリーさんに付いて、よくこういう契約関係の話や交渉を経験していたらしい。
頼りきりで申し訳ないけど、すごく頼もしい。
俺なんて、できる事と言えば重箱の隅をつつく感じでエレノールさんに悪いけど、ちょっとした誤字脱字っぽいのを発見して指摘する程度しかできなかったから。
社会経験のない学生だった俺には、ちょっと荷が重かったかな。
ちなみにちなみに、誤字と言っても文字は日本語ではなくこの世界独自の文字なので、本当に間違っているのかわからないどころか、何故問題なく読めるのか疑問に思えるほどだけど、それはともかく。
なんとなく、文章が繋がっていないように読めたり、文字が抜けているように読めたからできた事だ。
例えば「資金の用途は必ず別途記述する必要が~」という部分では「資金の用は必ず別途記る必要が~」と、いくつかの脱字があったり「別途記述るる内容ぐ記載すた物を~」と読めてしまって、「す」が「る」になっていたり「を」が「ぐ」、「し」が「す」になっていたりしていた。
指摘した時、エレノールさんは恥ずかしそうに俯いて謝っていたけど……急いで作ったんだから、そういった見落としがあるのも仕方ないのかもね。
もしかしたら眠気に襲われた時もあったのかもしれない、一部の文字の先が数センチほど不自然にニョロっと伸びていたから。
……文字を書きながら寝落ちしかけている時って、ペン先が滑って変な戦になっちゃったりするよねぇ、なんて確認しながら頭の中で少し笑ってしまった。
まぁ、契約文書でもあるから、そういった間違いは許されずもっとちゃんと確認しておかなければいけないだろう、という考えもあるかもしれないけど。
「確認が終わりましたら、こちらに……」
体感で二時間程だろうか……誤字脱字やモニカさんからの指摘で、エレノールさんが修正しつつ全ての確認を終えた後、契約書類のような物、というかその物に署名と捺印を促される。
捺印というか、血判だけどね……この世界だとハンコとかはないみたいだ。
家紋を持つ貴族が封蝋などを使う事はあるみたいだけど、俺には家紋とかないからね、冒険者はそういうものらしくもあるけど。
ただ指の先をナイフを使って自分で切るのは、慣れないから少し勇気が必要だった。
痛みとしてはチクッとする程度で、大した事はなくて一安心。
注射の方が痛いかもしれないくらいだった。
「確かに、確認致しました。ではリク様、ギルドカードを」
「はい」
契約書類には、俺だけではなくエレノールさんの署名と血判も押され、締結。
ギルドカードの方にも、何かやる事があるらしく請われるままにエレノールさんへと差し出す。
俺からギルドカードを受け取ったエレノールさんが、少しだけ退室。
その間にと、お茶も入れてもらったのでモニカさんと一息吐く。
「はぁ……ん~……! ちょっと、体が固まっちゃったかな」
「ふふ、リクさんはこういうのに慣れてなさそうだから、仕方ないわ」
肩こりがと言う程ではないけど、固まった体をほぐそうと伸びをしていると、モニカさんに笑われてしまった。
「まぁね。一切ないというわけではないけど、ほとんど経験がないって言っていいくらいだよ」
日本にいた時、両親を亡くして姉さんも亡くし、俺一人になってからは全部自分でやらなきゃいけなかった。
多少は、遠い親戚らしい人も手伝ってくれたけど、仕方なくという感じだったからね。
だから契約というか、そういうのをした事がないわけではないけど、割と促されるままで隅から隅まで規約を確認してというのはなかったし、ずっと集中して文字を見ていたから、少し疲れた。
「ふふ、リクさんの苦手な事を見つけちゃったかな?」
「ははは、確かに苦手と言われればそうなのかも……ほとんど初めての事だから、自覚はないけど」
まぁ、畏まった契約や交渉をするよりかは、体を動かしていた方がわかりやすくて楽だっていうのはあるかも。
つくづく、モニカさんが一緒にいてくれて良かったと思う。
それからは、エレノールさんが戻って来るまでの少しの間、契約した内容についての話になった。
契約は、基本的に俺だけでなく第三者……つまりエレノールさんやその協力者さんが、口座からお金を引き出す事ができるように、というものなんだけど。
基本的に銀行口座のようなお金を預けたり引き出せたりできるのは、Cランク冒険者一人につき一つ、自動的に作られていてギルドカードに紐づいている。
だから特別にもう一つの口座を作るための内容が、俺に対する部分の大半だったりした。
お金を預けるシステムってだけで、別に利子とかはないし定期的な引き落としとか、振り込みなどもないわけで、複数の口座を作る必要性そのものがないからね。
それで、残りの内容……というか書類の大半が、エレノールさん達に対する注意事項とか規約だった。
書類三十枚以上に、びっしりとあれだけ書かれる内容があるのかと、驚いたりもしたけど――。
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