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常軌を逸した模擬戦を目撃

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「強力な魔物と相対する事で、そうせざるを得ない部分もあったとは思うがのう……じゃが、意思を持って使うのならそれでは駄目じゃ。味方すら巻き込むじゃろう。それは、こうしてワシに話しているリクが一番よくわかっておるじゃろう?」
「そう、ですね……実際、巻き込みそうどころかほとんど巻き込んだようなものですけど」

 飛ばしたアルケニーの巨体が、ソフィー達に当たっていたらちょっとした怪我では済まなかったかもしれない。
 それこそ、俺が振るう剣や魔法が、すぐ近くにいる誰か……モニカさんとかに当たってしまったら。
 魔法は今使えないし、使う時は最低限味方に当たらないように気を付けているうえ、今まではそうならなかった。
 けどこれから先絶対にあり得ないって事もないからね。

「リクの近くで戦うというのは大変じゃのう。これは、モニカ達にもよくよく言っておかねばならんか……」

 そう言って、アマリーラさん達の説得をしているモニカさん達の方へと視線を向ける、エアラハールさん。
 そちらでは、渋っている様子のアマリーラさんとリネルトさんが窺える……モニカさん達の旗色は悪いようだ。
 ん? モニカさんが何か言った瞬間、ガバッとアマリーラさんがこちらを見たね。
 さっき何か勝算というか説得材料がありそうな話をしていたし、多分それなんだろう……俺を見る理由はわからないけど。

「ふむ、あの様子だとリクの話でもしたか。モニカはその辺りをよく見てわかっておるようじゃの。いずれ陥落すると見た」
「俺の話……?」
「アマリーラやリネルト、獣人二人の行動の動機を考えればおのずとわかるじゃろ? 大体ワシが予想していた通りじゃな。特にモニカは、他の二人と違って距離を取って戦うのに向いておるから、それくらいはわかるようにちゃんと観察しておかねばの」
「そんなことまで考えて、二人を説得したらと言ったんですね」

 さすがと言うべきか、経験と年の功なのかもしれない。
 エアラハールさんは、アマリーラさん達を説得させるというのにも意味があったみたいだ。
 しかし、感心している俺の前でエアラハールさんは後頭部をポリポリとかき、視線を明後日の方向へ。

「……という事を今考えた。三人には内緒じゃぞ?」
「せっかく感心したし、尊敬もしそうだったんですけど……」
「い、いや、モニカが周囲の観察を怠らないように、というのは本当じゃぞ? 魔法や槍を使って戦うというのは、常に一定以上の距離を取って周囲には気を配っておかねばならんからの」
「まぁ、そういう事にしておきます」

 言い訳するように焦ってそう言うエアラハールさんだけど、なんというか白々しい感じがして、完全に信じきれないのは表に出さないようにしておこう。
 剣で戦う俺やソフィーと違って、距離を取って戦うモニカさんがエアラハールさんの言う通りなのは納得だし、これまでも一歩引いて戦っているのを見ているから。
 フィネさんも斧を投げたりして遠くから攻撃する事もあるけど、一定の距離を保って戦うわけじゃないしな。
 ……アマリーラさん達を説得する事が、どう繋がるのかまでは俺にはよくわからないけど、さっき取ってつけたように言ったらしいエアラハールさんの言葉が、全部間違いじゃないと思っておいた方が良いかもしれないね。

「は、話しを戻すぞ。それでリクの事じゃが……ワシには手に負えかねるのう」
「え?」

 マックスさんやヴェンツェルさんの師匠で、確かな技術に裏打ちされたエアラハールさんならと思ったんだけど……。

「剣の技術、というだけなら確かにワシも教えられる。状況が状況じゃ、ワシが教えられる事は教えるつもりじゃよ。しかしのう、リクの力は強力過ぎてそれだけでは済まされない気がしてならんのじゃ。あと、モニカ達の事もあるからの」
「な、成る程……」

 強力過ぎるから、という部分とかは俺にはよくわからないけど、でもアマリーラさん達の協力を得られたとしても、やはりエアラハールさんに俺まで頼るのは難しいか。
 だからといって、モニカさん達より俺を優先してくれなんて言えないしなぁ。

「そこでじゃ、リク。お主もモニカ達と同じように協力者が必要だと、ワシは考える」
「協力者ですか?」
「うむ。リクに技術を教えられる、かつワシ以上に剣が扱える者がの」
「えーっと、エアラハールさん以上というと……?」

 もしかして、別の誰か……AランクとかSランクとかの、エアラハールさんが冒険者だった頃の知り合いとかで、教えてくれる人や協力してくれる人がいるんだろうか?

「ほれ、あっちにおるじゃろ。あれは一目見るだけでワシには無理じゃ……」

 そう言って、モニカさん達とは別の方を示すエアラハールさん。
 あっちって確か、兵士さん達が訓練をしている場所のはず……? と思ったけど、視線を向けてすぐにエアラハールさんが呆れ混じりだった理由がわかった。

「ユノと、ロジーナ……ですか」

 ユノとロジーナは、何があったのかお互い剣を持って激しく打ち合っていた。
 多分持っているのは木剣だろうけど……それでも戦う余波で訓練場の床が抉れたり、ワイバーンの鎧よりよっぽど頑丈そうな壁が傷ついたりしている。
 ちなみに多分というのは、動きが速すぎてユノ達が持っているのが剣の形をしているだろうくらいしかわからず、はっきりと見えたわけじゃないからだ。

 ちゃんとした剣なら、刃の輝きとかが見えてもおかしくないけど、それがないからおそらく木剣だと思うってところだね。
 ただまぁ、木剣で床を抉ったり壁を傷つけたりなんてどうやってやるのかわからないけど。
 ……魔力を通した物なら可能、なのかな?

「ワシでさえ、目で追うのも一苦労じゃ。慣れていないと、何が起こっておるのかまたわからんじゃろうの」
「俺も、ほとんどわかりませんけど……一応、剣を打ち合っているというくらいはなんとなくですかね」
「マシな方じゃの。ほれ、兵士達を見てみるのじゃ。ポカンとしておるじゃろう? あれはなんとなく音などからやり合っているというのはわかっても、見えてはおらんの。ワシ達は、距離がある分見えやすいというのもあるじゃろうが……」

 俺も、近くだったら何が行われているかわからないかもしれない。
 なんて思いつつ、兵士さん達の方を見ると本当に何が起こっているのかわからない、という様子の人達が見えた。
 まぁ驚きとか唖然とかっていう表情の人もいるけど。

 そんな兵士さん達の中に混じって、レッタさんエルサを抱いてロジーナに声援を送っているようだけど……レッタさんには見えているんだろうか?
 あの人は、見えているとか関係なくロジーナが何かをやっていたら、それだけで喜ぶし応援もするかな。
 エルサの方はユノに声援を……送ってはいないな、欠伸をしているから退屈しているか眠たいようだ。

 多分エルサにはユノ達の動きが見えてわかっているんだろう。
 視力がいいとかではなく、エルサが動じていないどころかつまらなさそうにしているのはそういう事なんだろうと思う。
 ……早くキューが食べたいとか考えていないと思いたい――。

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