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緊急参戦?のエアラハールさん

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「実戦に勝る経験はないのじゃぞ? あと、あれとはなんじゃあれとは。悠長にじっくり鍛えておく猶予はないのじゃろ?」
「まぁ、それはそうですけど」

 確かに、地道に無理せず少しずつ鍛えるのは戦争までの時間が許さないだろうから、実戦でというのもわからなくはないけどね。
 まぁモニカさん達もやる気のようだし、アマリーラさんなんて自分が訓練するわけではないのに、少しはない気が荒いようだから、俺が特に何かを言う事はできないし必要もないか。
 俺なんかが口出ししてもあまり意味はないしね。

「さて、モニカ、ソフィー、フィネよ」
「「「はい!」」」
「お主達にはまず連携する事を学んでもらう。まぁワシが言わんでもわかっておるじゃろうし、既にある程度はできておるじゃろうがの」

 エルサの背中に乗ったまま、エアラハールさんがモニカさん達に体を向けて話し始めた。
 モニカさん達はそれぞれ、持っている武器を片手で握りながら頭に刻むように真剣な面持ちで聞いている。

「それぞれの個人の技というのは、ワシが教えるし本来はそちらが先なのじゃろうが……今回は順序立て教えている猶予はない。短期間で成長せねばならんわけじゃ」

 一触即発、と言う程ではないけどアテトリア王国が戦争準備をしているし、帝国側は言わずもがなだろう。
 数日でと言うわけではないだろうけど、近いうちに開戦するのはもう避けられないし、一から学んでいる時間もないと予想できる。
 魔物もそうだけど、各地で人間を使った破壊工作までしておいて、このまま何も起こらず終息するなんてほぼあり得ないだろうからね。

「お主達は数多くの魔物、人と戦う事になるじゃろう。もちろん多いのは味方もそうじゃがな。で、普段の冒険者のように魔物だけを相手にするのではなく、戦場で多くの敵や味方が入り乱れて戦う。当然同士討ちなんてものは避けなくてはならん。そのための連携でもある」

 エアラハールさんの言葉に、深く頷くモニカさん達。
 遠距離で弓矢や魔法を打ち合っているだけならまだしも、直接ぶつかれば敵味方の判断は瞬時にしなければいけないだろう。
 考えてみれば、同じ人間同士の戦いだと魔物との戦いとは違って、間違って味方に刃を向けてしまう事だってあり得るのか……。
 
「今回の相手は魔物じゃが、お互いの武器が届く範囲で付かず離れずの距離を保って戦ってもらうぞ。それぞれの武器、魔法に見方を巻き込む事なく魔物を倒して見せるのじゃ」
「「「はい!」」」
「なに、やれと言ってすぐに魔物の集団へと飛び込ませるような、非情な師匠ではないつもりじゃ。まずは手本を見せるかの。アマリーラ殿、リネルト殿」
「任せなさい。リネルトと背中合わせ、肩を並べて……様々な状況で戦ってきた。その経験をリク様に見てもらう!」
「いや、俺じゃなくてモニカさん達に……って、聞いてないか」

 エアラハールさんに呼び掛けられたアマリーラさん達は、尻尾を揺らしながら意気込んでいる様子。
 意識はエアラハールさんやモニカさん達、それに地上の魔物に向いているらしく、俺がつぶやいた言葉には反応してくれない。
 ちょっと寂しいけど、モニカさん達の訓練だし真剣だから仕方ないよね。

「ただぁ、私とアマリーラさんだけでなく、もう一人いたら楽ができるんですけどねぇ? 私達を巻き込んだ責任、取ってくれますかぁエアラハールさん?」
「む……美女に責任と言われると、やぶさかではない気持ちになるが、ワシは指導のためにここに……」
「戦いを見せるだけなら、ここにいなくてもお手本になるのが、一番の始動じゃありませんかぁ?」
「それはそうじゃが……むむぅ、これでは割に合わんの。リクには報酬の交渉もせねば……このままじゃワシ、リク達の専属指導員じゃのう……」

 リネルトさんが、少しだけ上目遣いになりながら言うのにたじたじの様子のエアラハールさん。
 ちょっとだけ、エアラハールさんの両手が不自然に動こうとしているみたいだけど、脅された事を思い出したのか実際にリネルトさんに伸びる事はなかった。
 それはともかく、女性に求められるのは弱いのか、リネルトさんがそれを見抜いて利用しているのか……エアラハールさんの参戦が決まった。
 本人は、エルサに乗ったまま観察して悠々としているつもりだったみたいだけど。

 俺達が戻って来るまでは、兵士さん達の訓練を見ていてくれたみたいだし、その分の報酬は姉さんというか国からもらっていたようだから、専属とまでは言えないと思うけど……。
 あと、今回の訓練をお願いするにあたって、エアラハールさんに依然払ったお金だけでなく、追加も支払う事になっている。
 どうせなら、このままクランが始動したら所属してくれた人達の指導もして欲しいかな? と思ったりするけど、それは後々の交渉次第ってところかな。
 そうなると完全に専属みたいになるとは思うし、それなりの報酬は約束しないといけないだろうけど。

「老人にあまり無理はさせるでないぞ?」
「わかっていますよぉ。私やアマリーラさんだけでは、フォローしきれない部分をお願いしますぅ。基本的には張り切っているアマリーラさんが動くでしょうし、私達はその援護くらいでしょうけどぉ」
「うむ、任せろ!」

 意気揚々と胸を張るアマリーラさんを、ため息混じりに見つつ、エアラハールさんは持ってきていた自分の剣を抜いて確認。
 本気でただ見ているだけなのなら、武器を持って来る必要はないはずだけど……持ってきているという事は、最初から何かしら戦いを見せる気があったのかもしれない。
 常在戦場とは言わないまでも、元冒険者として念のため持ってきていただけとかかもだけど。

「さて、ワシが参加する事が決まったのは仕方ないとして……適当な魔物に近付いてくれるかの?」
「わかりました。――エルサ、頼むよ」
「了解したのだわー」

 遠くで見ていても魔物は倒せないし、近付かないと詳細な魔物の種族などもわからないからね。
 ……大きめの魔物は、遠目でもなんとなくどんな種族かわかるけど。
 エアラハールさんに言われて、エルサにお願いし、さらに南西方面に向かってもらう。

「あ、できるだけ楽そうな魔物だとありがたいのじゃが……」
「エアラハールさん、それじゃ手本にならないと思います」

 などと、移動を開始したエルサの背中でエアラハールさんの呟きに突っ込みながら、魔物の集団の一つにへと近づいた。

「この辺りでいいかな。少し止まっていてくれるかエルサ?」
「あいあいなのだわー」

 バサッバサッと複数の翼をはためかせて滞空するエルサ。
 ワイバーン達は、完全に静止したような状態で空に留まるのは難しく短時間しかできず、移動しながら空に留まるのが多いのに対し、エルサは楽々と空中に留まっていられるのは魔力とかが関係しているんだろう。
 多分、実際に翼をはためかせなくても空を移動できるし、滞空もできると思う。
 あれって、実際には空を飛ぶための翼というより、魔力が蓄えられたものらしいから……だから、魔力を多く蓄えている時は翼が増えるんだそうだ――。


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