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それぞれが重要な役割
しおりを挟む「リネルトさんがですか? 全体を見ている役割のエアラハールさんが、一番重要だとばかり……」
「視野を広げてみる役割と言うのは確かに重要じゃ。じゃが、そこからの指示を受けて忠実に動けるか、または予想外であっても対処できるか、が重要で、そして難しいんじゃよ」
司令塔役が重要、というのは多分大体の人はわかると思う。
だから俺もエアラハールさんの役目、つまりモニカさんの位置が一番大事だと思い込んでいたけど、エアラハールさんとしてはそうではないらしい。
確かに、広い視野で全体を見渡して指示を出しても、それを実行できなかったら意味がないし、予想外のできごとに対処できなければ、下手をすると駒を失ってしまう可能性もある……のかな。
「じゃから、そこはモニカ達三人の中で一番経験が豊富であり、実力を持っているフィネが担うというわけじゃ」
「は、はい!」
エアラハールさんから指名、というか視線と言葉を受けて緊張気味に頷くフィネさん。
三人の中では、冒険者としての経験が長いのはもちろんながら、騎士としての訓練も受けているうえ、実力も元々Bランクだったのもあってモニカさん達より上だ。
モニカさんやソフィーも訓練やこれまでの戦いを経て、大きな差があると言う程ではなくなっているとは思うけどね。
でも経験の差というのは、簡単に埋められる物じゃない。
そう考えると、確かにフィネさんが一番予想外の事にも対処できそうで、重要な役割を任せるのに適しているのか。
「まぁ一番重要な役割とは言ったが、モニカの方ももちろん重要じゃ。全体を見通す役割である以上、常に冷静に判断する必要がある。指示が最善ではなくとも適切でなければ、一瞬で瓦解するじゃろう」
「はい……」
「魔物だろうと人だろうと、相手がなんであろうと戦いでの失敗は命を失う事に繋がる。まぁ色々と言いたい事はあるが……どの役目も重要であり、全員が全力で挑まねばならぬという事じゃな。もちろん、戦いが長期化する可能性も考慮して、力を出す時抜く時などの判断は必要じゃろうがの。誰だって、全力で戦い続ける事はできん」
要は、どの役割が特別重要というわけではなく、全員がそれぞれの役目を全うしてこそ連携は成り立つと言いたいんだろうね。
あと当然ながら、全速力で走り続ける事なんてできないわけで、ペース配分とかも大事だとも。
最初から全力で挑んで短時間で決着をつけるか、相手の出方を探りながら戦い、力を温存しつつ長期戦をするかの判断なども必要ってわけだ。
俺なんて、ほとんどいつも全力……一応やり過ぎないように加減はしているつもりだけど、ペース配分とかは特に考えていなかったからなぁ。
モニカさん達への話ではあるけど、俺も勉強になる。
まぁ、ペース配分しようにも思うようにいかないのが今の俺なんだけども。
「個人での力量を高め、状況での判断を瞬時にする感覚を研ぎ澄ませる。大袈裟かもしれんが、それが冒険者ランクでいう所のAランクじゃ。どうやっても辿り着けん者もおるが、辿り着いた者は決して自分を、仲間を高める努力を怠っている者はおらん。……Aランクに昇格した後、調子に乗って疎かになる者はいるがのう。じゃが、そこに至るまでに努力は不可欠じゃ……一部、というかリクを除いての。あと、ユノとロジーナもか……あちらの二人は、冒険者ではないからランク付けはされておらんが」
「そこで、俺達を出すのはちょっと……」
ユノやロジーナはともかく、俺も努力していないわけじゃない……と思う。
マックスさんに教えられ、エラハールさんに引き継がれて一応は訓練をしていたわけだし。
それがエアラハールさんの言う努力……血の滲むような努力かと言われると、真っ直ぐ頷けないかもしれないけど。
「「「……」」」
モニカさん、ソフィー、フィネさんの三人は、エアラハールさんの話を真剣な表情で黙って聞いている。
大事な事だから当然だろうけど、言葉を発しないというよりは聞いた事を頭に、心に刻んでいるといった感じにも見えるね。
聞いてみると、特別な事は言っていないしモニカさん達も考えたり、他で聞いた事がある内容でもあると思うけど……実際にあれだけの戦いをした後に言われると説得力が凄いから。
「リク達の場合は、努力せずともAランクをすっ飛ばしてSランクすら霞むくらいじゃからの。まぁリクはまだまだ未熟な部分があるが……完成されていないという意味では、伸びしろはまだまだあるじゃろ? ワシに剣を当てられておらんしの」
「まぁそれは確かにそうですけどね……」
だからこそ、エアラハールさんにもっと技術を磨くための訓練をお願いしたわけだからね。
でも魔法が使えない今の俺は、さっきのエアラハールさんやアマリーラさん達の戦いを見てからだと、Sランクが霞むなんて事はないんじゃないかなと思ったり。
見合うように、努力しなきゃな。
「リクの事は置いておいてじゃ、アマリーラ、リネルトの方は先の戦いどうじゃったかの?」
「目の前の敵を叩き潰す、リク様の敵はさらに念入りに叩き潰す。それしか考えていなかったぞ」
「アマリーラさんは、複雑な事を考えそうに見えて、実際は単純ですからねぇ。よく言えば一本気、悪く言えば視野狭窄ってところですからぁ」
エアラハールさんが、一緒に戦った二人に意見を求めるけど……アマリーラさんは、特に何も考えていないような、答えになっていない返答だった。
いや、ある意味考えているんだろうけど。
というかリネルトさんも結構辛辣だね、色々と苦労があるんだろうし、それはレッタさんと話しをした前後とかで垣間見えていたけども。
「あ、ある意味、それで正解なのかもしれの。そのためのワシやリネルトの動きや役割だったのじゃし……」
さすがに予想の斜め上だったのか、ちょっと戸惑った様子のエアラハールさん。
「最前衛のアマリーラ……モニカ達の場合はソフィーの役割に当たるが、何も気にせず思う存分に剣を振るわせるというのも、大事な事じゃ、うむ」
「……なんだか取ってつけたような感じになっていますが?」
「き、気のせいじゃ。ちゃんとそう考えてワシも戦っておったぞ」
そうエアラハールさんが主張するんだから、そう言う事にしておこう。
反応から見るに、アマリーラさんの考えまではさすがに読めていなかったんだろうけど……いや、俺も同じだけどね。
まさか、あれだけ豪快な戦いをしておいて敵を叩き潰すくらいしか考えていなかったなんて、思わないよね、俺の事はともかくとして。
だからこそ、豪快にミタウルスを斬り裂いて弾き飛ばす事ができたのかもしれない……つまり、戦う事そのものに全力を注げたというところか。
いい意味で受け取ればだけどね。
リネルトさんは困った顔をしているから、直して欲しいとも思っていそうだ。
ともかく、敵に一番近く有効な攻撃を与えられる可能性の高い、最前衛のソフィーが思いっきり戦えるようにするのも後ろにいる人たちの役割でもあるというのはまぁ、間違いではないんだろう。
俺とモニカさんが協力したアルケニーとの戦いでも、そんな感じだったし……思う存分やり過ぎて、ソフィー達には怒られたけども――。
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