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獣人は大体感覚派
しおりを挟む「と、とにかくじゃ。リネルトの方はどうかの? そちらならもう少し建設的な意見が聞けそうじゃと期待しておるんじゃが……」
その言い方だと、アマリーラさんの意見は建設的じゃないと言っているようなものです、エアラハールさん。
確かに参考になるような返答ではなかったと思うけど。
でもリネルトさんなら、間延びした口調でのんびりした印象を受けるけど、ちゃんと冷静に見て判断し、状況を分析していると思うから、エアラハールさんが期待するのもわかる。
ちなみにアマリーラさんは、エアラハールさんやリネルトさんに何を言われても特に気にしていない様子だった……もしかすると、言われ慣れてしまっているのかもしれない。
「そうですねぇ……危険な感じがしたら、シュッと動いてパシュッとやってぇ……ザザザッとやっちゃう感じですかねぇ」
「シュッと、パシュッと……ザザザ……?」
擬音で説明されて、エアラハールさんはあんぐりと口を開けている。
なんとなく、戦いを見ていたからリネルトさんが言わんとしている事はわからなくもないけど……こちらも意見としては参考にできそうにない。
「あれなんですよねぇ、私って結構危険に対して鼻が利くみたいで……だからそれに従って、動いている事が多いですねぇ」
「それで、先程のあの動きかの?」
「はいぃ。どうしても対処できない事っていうのはありますけどぉ、これで今まで私は大きな怪我をする経験も少ないんですよぉ?」
「そ、そうなのか……」
誇らしげに大きな胸部を張るリネルトさん。
モニカさん以外で、誰とは言わないけど一部の女性が羨ましそうにそこを見ているのは置いておいて……いつもなら何かしら手を伸ばそうとするなどの反応を見せるエアラハールさんは、呆れているのか困惑しているのか動かない、というか動けないのか。
つまりリネルトさんは、考えというよりも勘に近い何かで動いていたって事かもしれない。
鼻が利くというのも、本当に匂いを嗅いでって意味ではないだろう。
危険察知能力が高いとかそういう事だろうか。
「なんだか、納得されていない雰囲気ですけどぉ……獣人には私みたいな感じの人も多いですよぉ? 感覚を大事にするというか、考えるより先に動くべきというかぁ」
「な、成る程のう……獣人は感覚派というわけじゃな。あれこれ考える人間が無駄な事をしている気になてしまうが……それがそれぞれの種族に合っておるのじゃろう」
あ、エアラハールさんが無理矢理納得した。
リネルトさんの言葉を信じるなら……というかこんなことで嘘は言わないだろうけど、ともかく獣人はよく言うなら感覚派で論理よりも実践って事か。
エアラハールさんは戸惑ったり驚いたり呆れたり、と色々な感情が織り交ざっていて、モニカさん達もどう反応していいのか困っている様子ではある。
……けど俺は何故だか妙に納得している部分もあったりした。
初対面の時はまだしも、アマリーラさんとか最近では本能で動いているのでは? と思う事も多々あったしなぁ。
あと、獣人と言えば感覚が鋭くてあれこれ考えるよりも、まず体を動かす方がイメージ通りではあるからね。
「とにかく、ワシ以外の二人の動きに関しては戻ってからじっくり考えればいいじゃろう」
エアラハールさん、アマリーラさんとリネルトさんに意見を求めるのは止めたようだ。
まぁ今のような答えを言われたらそうなるのも無理はないけど……ちょっとだけ、モニカさん達の訓練に関して不安に感じた。
俺が感じる事じゃないかもしれないけどね。
「細かな動きに関しては実践よりも訓練でやっていく方がいいじゃろう。でじゃ、先程のワシ達の戦いを踏まえて……モニカ達にも魔物と戦ってもらうぞ?」
「はい」
モニカさん達が神妙に頷く。
魔物と戦うと言うのは、実戦が大事とか魔物のいる場所に来ているわけだから、既にわかっていた事だしね。
三人共、覚悟は決めていただろう。
「さっきの戦いに気付いたのか、魔物達がこちらに向かっていますね……」
「そのようじゃ。まぁ魔法を使ったりなどはしておらんが、派手に戦ったからのう。遠くからでも戦いの気配のような物は感じられたんじゃろう」
目を向けてみると、空から見える範囲で、ゴブリンの集団とオークの集団がこちらへと向かって来ているのがわかる……さっきより、位置が近い場所になっているように見えるから。
まぁ、主にアマリーラさんだけど、ミタウルスを弾き飛ばしたりとか派手な戦いではあったから、エアラハールさんの言う通り気付かれたとか、興味でいいのかな? を持たれたってところだろう。
魔物の視力は知らないけど、ほとんど遮るもののない場所だから、向こうからこちらの事が見えていても不思議じゃないし。
ミタウルスとの戦闘を見たのか、空を飛んでいるエルサを見たのかはわからないけど。
エルサは俺達を載せられるくらいなので、遠く空を飛んでいても目立つし、こちらからゴブリンやオークの集団が見えている以上、向こうから見えるのも当然だ。
空は地上以上に遮るものは何もないわけだから。
「……このまま放っておいたら、魔物同士が争ったりはしませんかね?」
「元々の魔物なら、その可能性もあるじゃろうの。じゃが、あれが帝国の仕掛けた魔物であるとしたら……」
「確実にそうなるとは言えませんか。まぁ元々魔物を倒すのが目的ですし、戦わないで済むなんて考えてはいませんけど」
ゴブリンとオーク、別種族の魔物だから集団同士がぶつかれば争い始める可能性、というのを考えたけど……どちらにせよ戦うのなら、あまり関係ない考えだったかもしれない。
そう思っていたら、これまで黙ってロジーナを撫でているだけだったレッタさんが口を開いた。
……どうでもいいけど、ずっと撫でていて飽きないのかなレッタさん? まぁ飽きないからこそずっと、今もまだ撫で続けていられるんだろうけど。
「帝国が復元した魔物なら、もしかするととは思うけれど……状況を考えたらほぼ放り出したようなものだから、協力するようなことはないはずよ。絶対とは言えないけれど、でも特別な復元のされ方はしていないみたいだし、通常の魔物と変わらないわ」
「成る程……もしレッタさんの魔力誘導を使ったら、操れたりはやっぱりできませんか?」
「ある程度、私の魔力誘導で争うようにしたり、逆にお互いに手出しをしないようにする事はできるかもしれないわ。それこそ、意識を別方面へと向けさせて、こちらに近付くのを止めさせる事はできるはずよ。でも操るまでは無理ね、理由は昨日話した通りよ」
「そうですか……」
わかっていたけど、念のため聞いただけだ。
魔物を操れたとして、何かしようとまでは考えていなかったし。
せいぜいが、他にもまだ残っている魔物の集団に向かわせてぶつけるくらいだろう。
それも悪くはないけど、魔物と戦うのが訓練と言うのならば、今は殲滅するよう動く方がいいか。
それに、別種族の魔物だからって、高確率で争う事はあれどそれも絶対じゃないからね――。
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