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魔物の合流は遅らせてできるだけ距離を離しておく
しおりを挟む魔物というのは協力するまでじゃなくとも、お互いを襲わないというのもあり得る……じゃないと、森の中で複数種類の魔物が棲み付くなんて事はなく、覇権を争って単一の魔物のみが生き残る状況になるはずだし。
人間や獣人、エルフなど魔物以外の種族を見つけて襲う確率よりは、魔物同士で争う確率は低いはずだからね。
「ただこのままじゃ片方と戦っている間に、もう片方の魔物が来て襲われてもおかしくなさそうだ……」
モニカさん達が戦うとして、ゴブリンの集団と戦えば途中に後ろからオークの集団が。
オークの集団と戦っていれば、ゴブリンの集団が到着して乱戦になってもおかしくはない。
さすがに、実戦訓練の最初でそれは厳しいだろうし、どちらかと言うとオークもゴブリンもモニカさん達人間の方へ先に襲い掛かるだろう。
まぁ一応、アマリーラさん達の時みたいにさっさと魔物を殲滅して、もう片方の集団が到着するまでに終わる事ができれば問題はないけど。
でも、二十体もいなかったミタウルスとは違い、数十体はいるオークとゴブリンを倒すのは時間がかかりそうでそちらも難しいだろう。
「何を言っておるのじゃリク。ここにはモニカ達とそしてリクもおるじゃろう。別れて、両方を殲滅すれば良いのじゃよ」
「あー、そう言えば俺も訓練しなきゃなんですよね……」
アマリーラさん達の手本から、モニカさん達の講義を聞いていて、自分の事をすっかり忘れていた。
どちらか片方をモニカさん達、残った方を俺が倒せば問題ないか……モニカさん達がどう戦うのか、俺も見たかったんだけどなぁ。
高みの見物とはいかないようだ。
モニカさん達が怪我をしないか、ちょっと心配でもあったんだけど。
「じゃが……近すぎるとリクの戦いにモニカ達が巻き込まれかねんのう……」
「いや、さすがにそこまで俺は周囲を巻き込む戦いはしませんよ? って、なんでソフィー達は視線を逸らしているのかな?」
エアラハールさんが大袈裟過ぎる、と思って突っ込んだら俺から目を逸らしているソフィー達に気付く。
モニカさんは、苦笑しているくらいだけど。
「なんというか、リクならやりかねないと思ってしまってな。リクにその意思があるかに関わらず……アルケニーをあれだけ派手に飛ばしていもいたからなぁ」
「リク様の見事な戦い感服するしかありません。私も挑戦したのですが、あそこまではできませんでした……」
「あの時は、アマリーラさんが触発されて暴れまわるのを抑えるのが大変でした」
「あ、うん。そうですか……ごめんなさい」
アルケニーはミタウルスに負けず劣らず大きな魔物で、当然体が大きければ重量も重い。
つまり、先程あれだけ派手戦ったアマリーラさんですらできなかった程に、大きく遠くまで俺はアルケニーを弾き飛ばしていたって事か。
どれくらい飛んだのかとかまでは、戦闘中だったからよくわかっていなかったけど。
「ワシは見ておらんが、話には聞いておるからの。しかしそうするとどうするか……片方の集団、リクが相手にする方を後ろから襲わせるのが一番距離が取れて良さそうかの? じゃがそれだと、リクを恐れて逃げ出した魔物が、モニカ達の方へ行きかねん」
「両方共後ろから、という手もあるいはあるとは思いますが……途中で合流されると場が乱される恐れもありますね」
「うむ」
俺そっちのけで、頭を悩ませているエアラハールさんとモニカさん。
できるだけ距離を取って戦いたい、というのは皆の共通認識みたいだ。
くそう……絶対、訓練して近くにいる味方を巻き込まないようにするんだからな。
というか、モニカさんはアルケニーと戦った時俺と一緒で、被害を受けるような巻き込まれ方はしなかったのに……。
「襲うって……まぁ確かに戦いを挑むわけですから、襲うという言葉でも間違いじゃないですけど」
それを言ったら、先程ミタウルスと戦ったエアラハールさん達も、エルサから降りる時の事を考えたら襲い掛かったという言葉が合っているはずだけど。
と言った俺の主張は、誰にも気にされなかった……俺だから、一方的に襲う未知な感じになっているのかもしれない。
「はぁ……それじゃ、レッタさんにお願いできますか?」
「私に?」
「はい。えっと……」
ちょっとした悔しさを感じながら、どうせ一緒に来ているならとレッタさんに協力を仰ぐ。
まぁレッタさんは、ロジーナにくっついて来ているだけなんだけど。
ともかく、俺の案はレッタさんの魔力誘導ですぐにでもオークとゴブリンの進行を阻害してもらう。
そして、距離が近付かなくなった二つの集団に、それぞれ俺やモニカさんが戦いを挑む。
さらにそこへ、レッタさんの魔力誘導でできるだけ他の方面へ魔物がいかないよう、要は逃げ出さないよう誘導すればモニカさん達が巻き込まれる心配もなくなるってわけだ。
自分の戦いに巻き込まないよう、案を考えて提案するというのは、なんというか微妙な気分だなぁ。
「中々、人使いが荒いわね」
「まぁ、知っている言葉に使えるものは師匠でも使えってありますから」
本当は、立っている者は親でも使え、だけどね。
とにかく、一緒に来ているのなら協力してもらうのも悪くないはずだ。
レッタさんが嫌がらなければだけど。
「……そうね。こうしてロジーナ様と一緒にいられて、食事や寝る場所も提供されているのだから、少しくらいは協力しないといけないかしら」
「お?」
「何よ、その意外そうな顔は」
「いえその、なんでもありません」
クズ皇帝への復讐と、ロジーナへの執着みたいな部分ばかりで、素直に協力してくれるかわからずダメ元で頼んだんだけど……意外とすんなり承諾してくれたみたいだ。
一宿一飯……どころじゃないかもしれないけど、そういった恩義というのはやっぱり人を動かすものなのかもしれない。
「私だって、場合によっては処刑されるかもしれない事をしていた自覚はあるもの。それが、こうしてロジーナ様を撫でられて……はぁ、ロジーナ様の髪はサラサラと指どおりがいいですねぇ、さすが神様」
髪だけにってか……いやいやそうじゃなくて。
なんというか、レッタさんがロジーナと一緒にいる事で段々と壊れて言っている気がしなくもない。
「変な事を言わないでレッタ。その手を引き千切るわよ」
「ま、まぁとにかく、割と自由が与えられる身じゃないのに、そうできているのだから多少の協力くらいはするわよ」
ロジーナに睨まれて、話しを戻すレッタさん。
しかしロジーナ、引き千切るなんて物騒な事……ロジーナならできるんだろうけど、ちょっと怖い。
「それじゃあ、魔物の動きはレッタさんに阻害してもらうとして……俺がオークを担当しますね」
「いや、モニカ達がオークじゃの。リクは数が多いがゴブリンの方が良いじゃろう」
個体としてはゴブリンよりオークの方が強いから、俺がオークの集団を倒そうと提案したら、エアラハールさんに却下されてしまった。
まぁどちらがどちらへ行っても、大きな問題は起こらないだろうからいいんだけど……何かしら理由があるのかな? と少しだけ疑問に思った――。
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