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魔物と人では集団行動のやり方が違う
しおりを挟む「ゴブリンは集団行動を得意とする魔物じゃ。オークも多少はできるようではあるが、ゴブリンほどではないからの」
「でもそれなら、逆にゴブリン達の方をモニカさん達が戦った方がいいんじゃ……?」
お互い、集団行動というかチーム戦みたいな感じで。
もしかしたら、戦う中でヒントみたいなのを掴めたりするかもしれないし……参考にするというか。
そう思ったんだけど、エアラハールさんはゆっくりと首を横に振った。
「ゴブリンの集団行動と人の集団行動では別物じゃからの。今、モニカ達にそちらの動きを見て記憶すると、これからの邪魔になるかもしれん」
「そうなんですか?」
「うむ。例えばじゃ、基本的にワシ達が数人で連携する場合、全員が生存して相手を打ち倒す……場合によっては犠牲を出さなければならない時もあるかもしれんし、怪我を覚悟する事もあるじゃろうが、基本はそういうものじゃろ?」
「まぁ……怪我をしないためというか、協力して相手を打ち倒すために連携するわけですからね」
状況は様々だけど、連携する意味としては強い敵を打ち倒す、数の多い敵を一人ではどうにもできないのを皆で倒して生き残るとかが基本的な考えだろう。
一対一で圧倒できる相手に対して、複数で連携をしてはいけないわけではないけど、する必要性はほぼない。
「じゃが、ゴブリンは動きを見ていればわかるのじゃが……協力というよりも、集団として敵を打ち倒す事を目的としているような動きじゃ。それこそ、末端の犠牲なんかは厭わないじゃろう」
「……言われてみれば、確かに?」
ゴブリンと戦ったのは、主にヘルサル防衛戦の時だけど……その後に様々な事が起こり過ぎていて、少し記憶が薄れていながらも、ゴブリンの動き自体はある程度思い出せる。
仲間、と言っていいのかそういう意識がゴブリンにあるのかは謎だけど、俺達に倒された仲間のゴブリンがいても、それに対してゴブリン側が何か大きな反応を示す事はなかったと思う。
人間だと、一緒に戦う仲間がやられたら近くの誰かが大きな反応をするはずだ。
例えば、怒ったりとか逆に恐怖したりとかね。
言われて意識的に考えてみれば、ゴブリンにそういった反応はなかったように思う。
表に出ていないだけで、俺達がわからず実際には何かしらの反応をしていたのかもしれないけどね。
ゴブリンの表情とか、じっくり見たわけではないし。
「下の者を犠牲にしてでも勝利を、標的を打ち倒す。それはまぁ戦争にでもなれば、そう言ったのも大事なのじゃが、今のモニカ達はまず少人数での戦い、そこから大人数と共に戦う事を学ぶ段階と言えるじゃろうの。悠長にしておられんしある程度はわかっていても、確実に固めていくのが一番の近道じゃ」
「えーっと、つまり……」
すぐには理解できなかったので、エアラハールさんに確認のため色々と聞いていく。
軍隊としてというより、冒険者として複数人での戦いを学んでからの方がいいってところかな。
別に軍隊が、末端の兵士を犠牲にするのを全てにおいて良しとするわけじゃないだろうけど、それも時には必要だという考えもあるんだろうし、エアラハールさんはそうだと考えている。
けど冒険者は生存する事に重きを置くから……軍とはまた違った戦い方になるんだと思う。
まずはそちらを覚えさせておいて、大人数での立ち回りや連携、戦い方を教え込むため今ゴブリンの集団と戦って、その戦い方を参考にするのは変な癖が付いてしまうような事ってところらしい。
基礎がある程度できているからとすぐに応用へ行くのではなく、ガッチリと基礎を固めてから追うように行った方が結果的には覚えが早いという感じかな。
「それじゃ、俺は先にゴブリンの方に。モニカさん、ソフィー、フィネさん、気を付けて。できれば怪我とかもしないようにね」
「えぇ、無理はしないわ」
「リクには不要かもしれんが、そちらも気を付けるんだぞ」
「ご武運を」
とりあえずエアラハールさんなりの方針や理由を聞いて納得した後は、ゴブリンとオークの集団をそれぞれ倒すための移動。
エルサが両方に俺達を運ぶとしても、片方ずつにしか行けないため、まずは俺をゴブリンの集団近くに運んでもらう。
「……早く行きなさい。ずっと続けているのも、これはこれで結構疲れるのよ」
「はい、協力感謝します。レッタさんもあまり無理はせず……ユノ、ロジーナも行こう」
「行くのー! 暴れ……られないけど、リクをちゃんと見ているの!」
「はぁ、仕方ないわね……」
魔力誘導で、ゴブリンとオークの集団両方の進行を抑えているレッタさんに促され、高度を落としたエルサの背中から飛び降りる体制に。
モニカさん達の方はエアラハールさんやアマリーラさん、リネルトさんがもしもに備えて一緒に、俺の方にはユノとロジーナが一緒だ。
まぁ俺の場合は安全のためというより、巻き込まれても問題ないユノ達って事なのと、訓練を頼んだ時にロジーナが言っていた助言と言うのに関係しているらしいけども。
ちなみに、レッタさんは、両手をそれぞれゴブリンとオークの集団の方へと向け、その指先を伸ばして以前にも見た赤い線のような魔力を放つ事で魔力誘導をしたようだ。
線はずっとレッタさんの指先から出ているわけではないけど、魔物達の方へと伸びたそれは、集団の頭上で水の波紋のように広がった。
それで魔力誘導をしたって事らしいけど、ちょっと不思議な光景だったね。
「おっとそうじゃ。リクはもちろん訓練用の剣を使うのじゃぞ? 慣れたようじゃが、それで力の加減を少しでも練習せねばの。ゴブリン相手じゃと、大した練習にもならんじゃろうが」
「はい、わかりました」
飛び降りる前に、エアラハールさんからの注意を受けて、レムレースとの単独遭遇から念のため常に持っているようにしている白い剣ではなく、訓練用の剣を抜く。
このために、許可を取って再び王城の訓練場にあった、古くてぼろくなった剣を持ってきていたから。
まぁ、最初にエアラハールさんから言われて使い始めたような、ブハギムノングの鉱山でも使っていたボロボロの剣と言う程ではないけどね。
あれは全部、もう使い切っちゃってたから。
「……その左手に持った鞘に関しても、後で話をするべきじゃの。では、行くのじゃ」
「やっぱり、気になりますか……個人的にはちょっと気に行っているんですけどね。まぁとにかく、行ってきます!」
「行くのー!」
「やれやれ……」
剣を抜いた、までは良かったけど……腰に下げている鞘までも左手で持った事に、エアラハールさんは気になった様子。
付け焼刃で、適当に振り回すにはちょうどいいしヘルサル近くの森で戦った時以来のお気に入りスタイルなんだけど、やっぱりエアラハールさんとして一過言あるようだ。
うん、まぁまだまだ未熟だと自覚しているのに、勝手に戦い方にアレンジを加えたら怒られたり説教される可能性もあるか。
俺、この戦いが終わったら多分説教されるんだ……なんて頭の中でフラグになるのかよくわからない事を考えつつ、ユノやロジーナと一緒にエルサの背中から、ゴブリンの集団へ向けて飛び降りた――。
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