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王都でのリリーフラワー

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「そう言えばりっくん、りっくんを訪ねて冒険者が来たみたいだけど……?」
「あぁうん。リリーフラワーってパーティの四人組だね。モニカさん達とお風呂に入って、そのまま帰ったらしいけど……」

 緩い空気の中、ふと思い出したように話題を出す姉さん。
 王城の大浴場を使ったんだから、姉さんに報告が行ってもおかしくないし、知っていて当然かな。

「お風呂に入るだけ入って帰るって、何しに来たのかしら?」
「……お風呂に入るのだけが目的ってわけじゃないとは思うけど……少なくとも、最初は」

 お湯に浸かって、疲れや汚れと一緒に用事も流したわけじゃないとは思う。
 けど、お風呂に入るだけ入ってすぐ帰るのは、目的を忘れたんじゃないかと心配してしまうのも無理はないだろう。

「それに関しては、私達が聞いているわリクさん。ルギネさん達が王城を訪ねて来た理由ね。まぁ、ほぼ報告みたいなものだったから、私達が聞いてリクさんに伝えるって請け負ったわ。部屋にも誘ったんだけど……」

 と、俺と姉さんの話を聞いていたモニカさんが反応。
 なんの報告かはわからないけど、モニカさん達に言伝として頼めるのならそこまで重要だったり、緊急性のある事ではないんだろう、多分。

「ルギネが恥ずかしそうにしていてな。あと、グリンデのやつが妙にルギネにまとわりついていて……さっさと帰りたそうにしていた。アンリなどは乗り気だったのだがな」
「グリンデさんでしたか……あの方からは、何やら妙に絡みつく視線を感じましたね。悪い事を考えている風ではないようなのですが、なんというかこう品定めするような感じと言いますか……」
「……本人は隠そうとしていたが、涎を垂らしている事もあったな。さすがに、お湯に浸かっている時はそんな事はなかったが」

 グリンデさん……ルギネさんだけかと思ったらそうでもないようだ。
 まぁ、そういう趣味嗜好というか、好みの人にとってはバリエーション豊か、綺麗どころが揃った女性用の大浴場なんて、垂涎ものだというのもわからなくはない。
 視点が完全に、女性ではなく男の物だけど……。

「何その娘、結構ガチな娘なの?」
「この場だからいいけど、ガチなんて言葉遣いはさすがに女王様としてどうかと思うよ?」
「まぁまぁ、この場だけだからいいのよりっくん。――で、モニカちゃん達と一緒にお風呂に入ったって事は、女の子でいいのよね?」

 一応注意するように言ったんだけど、姉さんはどこ吹く風で特に気にしていない様子。
 忙しくて、気を抜けるここでは言葉遣いとか細かい事を気にしたくないんだろうと察するし、リラックスできるならして欲しいとは思うんだけど……俺よりよっぽど怖い人、ヒルダさんの眉が片方が少しだけ吊り上がった気がする。 

「はい、陛下。リリーフラワーは女性四人の冒険者パーティで、今後リクさんが作るクランに参加する予定になっています」
「へぇ~。リリーフラワー……百合の花……成る程ね。りっくんがまた女の子を誑(たら)し込んだのかとおもったけど、違うみたいね」

 さすが姉さん、パーティ名とグリンデさんの様子を聞いただけで、なんとなくリリーフラワーのメンバーの好みみたいな部分を察したみたいだ。
 ミームさんは何を考えているのかよくわからないけど、アンリさんはまぁ男女と言う垣根があまりなさそうな人で、パーティ名の持つ意味を体現していると思われるのは、ルギネさんとグリンデさんの二人だとは思うけど。
 それはともかく、姉さんは今聞き捨てならない事を言ったよね。

「誑し込んだんだとか、変な事言わないでよ。単純にクランに参加してもらう戦力で、センテで戦い抜いた仲間なんだから」
「……少なくとも、ルギネはそれだけではないようだが。まぁ私が言う事でもないな。真っ当な道に正してくれたと考えておくだけしよう。それは、マリーさん達のおかげでもありそうだが」

 人聞きの悪いことをいう姉さんに言い返していると、ソフィーが何やら小さく呟いていた。
 よく聞こえなかったけど、呆れ混じりのようでもあったからあまり気にする必要はないのかもしれない。
 俺自身が、呆れながら何かを言われる事に慣れ過ぎている気がしなくもないけど。

「それで、ルギネさん達の報告って?」

 注意は聞いてくれそうにないし、このまま姉さんと話していても埒が明かないしと、モニカさんに話を振る。
 姉さんが、もっと相手をして欲しそうに口を尖らせているのは気にしない。

「城下町での拠点というか、宿の場所とかそういう話よリクさん。用がある場合はそっちにってね。あとは、マティルデさんというか冒険者ギルドに用があったついでみたいよ。一応、王都での様々な事は聞いているけど、クランの話なんかもね」
「成る程ね」

 クラン作成は、現状だと予想以上に遅れそうだから、その間リリーフラワーの皆には冒険者として活動してもらう。
 それはこちらに来る前から了承済みだし、それに関して冒険者ギルドに確認などをしに来ていたんだろう。
 今王都にある冒険者ギルドの一部は、王城の庭の一角に移されているから……簡易的な物だけど。
 それと報告とは別に、グリンデさんが帰りたかったというか、ルギネさんを見て妙にソワソワしていたらしい。

 その意味はわからないけど、ルギネさんはモニカさん達と一緒に俺の部屋まで来たら、姉さん……つまり女王陛下と対面する事になる、聞いて辞退した模様。
 直接女王様に会うのは畏れ多いとか、そういう事なんだろう。
 目の前では、だらけた姿勢でソファーでくつろいでいる、ちょっとだらしない女性がいるだけなんだけどなぁ……この世界に転生して、見た目とかはまったく変わったし、ものすごい美人で風格もあるんだけど、今の姿は残念美人と言えるだろう。

「ん、りっくん。今何か失礼な事を考えていなかった?」
「い、いや何も……?」

 片目を見開いてこちらを見る姉さん。
 なんでこう、俺の考えは誰かに読まれかけるんだろうか? げに恐ろしきは女性の勘と言うやつか……いや、違うかもしれないけど。
 とりあえず、ヒルダさんの眉がピクピクし始めているので、後で色々と注意されても知らないとだけは心の中で呟いておく。

「それよりもさ、ロジーナ」

 このままだと、姉さんに考えている事を見透かされてしまいそう、という危機感を感じたため、話しを変えようとロジーナに呼び掛ける。
 姉さんの方は、小さく舌打ちをしていた……近くにいる俺くらいしか聞こえないくらいのはずなんだけど、さらにヒルダさんの眉が吊り上がったようなので、姉さんが後で注意されるのはほぼ確定といったところだろう。

「……何?」

 相変わらずレッタさんに構われているロジーナは、少し憮然としながらこちらを見た。
 レッタさんに構われている姿を、あまり見られたくないとかだろうか?

「魔物と戦う時にだけどさ、魔力を特別意識しろって言っていたのは、結局なんだったんだ? 一応、生かみたいなのはあったけど、二度目からは禁止されたし。あと、空から降りる時に空中で蹴るのはもうやめて欲しい。ビックリするから」


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