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実は多機能な鞄

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 まぁそもそも、アマリーラさんが俺と同じ鞄を買ったとしても、使っているのは大きな大剣で、俺が買った鞄には入りきらないから買っても使う機会はあまりなさそうだし。
 というわけで、リネルトさんがお勧めした小物が入る鞄をとなったという経緯があったりもする。

 アマリーラさんは渋々ながらだけど、鞄などに関しては俺に同行する事になって慌てて用意した物だったらしく、また改めてじっくり商品を選ぶ機会があってもいいのかもしれない。
 というか多分、俺と離れて自由に過ごす事があれば、リネルトさんとアマリーラさんはまたこの店に来るかもね……なんて思うくらい、二人共鞄その物に関してはこのお店を気に入ったようだ。
 ……その時、ララさんとまた変な事にならないといいけど。

「お待たせしわわね、リク君」
「お待たせしました、リク様」

 そうしてしばらく、体感で大体一時間ちょっとと言ったところだろうか、エルサがそろそろ退屈がって、アメリさんの提案で近くにあるカフェみたいな場所に言っておこうか?
 と提案したタイミングで、奥の部屋からララさんとカーリンさんが出て来た。
 二人共、実のある話ができたのか……というか、カーリンさんがしっかりと希望を伝える事ができたんだろう、笑顔でなんとなくすっきりしたような表情と雰囲気だ。

「ララさん、カーリンさん。制作する調理道具の詳細は決まりましたか?」
「えぇ。調理道具をというのはあまり経験がないけど、こうして造詣が深い相手と話すのは面白かったわ。必ず、この子の希望する通りの物を作って見せる、なんて気が入るってものよ」
「ララさんは、私の希望を叶えてくれるって、希望通りの物を作ってくれると思わせてくれました。そのおかげです」
「ふふ、任せて。今は違うけど、そもそも鍛冶師というのはその人に合った物をの作り手でもあるの。必ずカーリンちゃんに合った調理道具を作って、美味しい料理ができるようにして見せるわ」
「美味しい料理ができるかは、道具だけでなく私次第でもありますけど……」

 と、なんだか意気投合でもしたかのように、仲良くなっている二人。
 アメリさんもそうだけど、結構女性と楽しそうに話す事のできるララさんだからというのはあるんだろうけど、二人共職人肌みたいなところがあるから、てところかな?
 ララさんは元だけど……カーリンさんの方は、料理人も突き詰めれば職人とそう変わらないだろうし。

「二人が楽しそうで何よりですよ。あ、それと、待っている間に商品を見せてもらっていましたけど……」

 お互いが満足できそうな事に安心し、話しを鞄購入に向ける。
 俺とアマリーラさん、リネルトさんの三人分だね。

「あらぁ、リク君はそれを気に入ったのね? 全然売れなくて、武器収納鞄なんて需要がないとまで言われていた物なんだけど……」
「そうなんですか? というより、やっぱり武器を収納するための物なんですね」

 剣を複数入れて運ぶために使えるな……と思ったのは間違いじゃないみたいで、ちゃんと武器収納のために作った物だったみたいだ。

「えぇそうよ。よく見ると、ちゃんと色々な仕掛けがあるの。ここをこうして……」
「へ~、成る程……」

 武器収納鞄とやらがララさんによって解説されるたびに、感心して声を漏らす。。
 よく見ないと、それこそじっくり触れないとわからないような場所に小さなポケットや、中にも色んな仕掛けがあって、最初はできないと思っていた斧など形状が剣とかの棒状の物ではなくても、収納できるようになるみたいだ。
 ちょっと長さによってははみ出しそうではあるけど、一応槍なども収納できるようになっており、それこそモニカさんが普段使っている槍くらいの物なら、すっぽり入りそうだ。
 さらに驚いたのは、弓が収納できるうえに矢も入るようになっていて、状況に応じて矢筒のような扱いもできるなど、かなり万能な収納鞄だった。

 奇抜なデザインはあまり見られないけど、その代わりかなり機能性に優れた物らしい。
 とはいえさすがに、本格的な矢筒程の本数は入らないので、あくまでそういう風にも使えるって程度だけども。
 あとアマリーラさんの大剣まで大きくなると、収納はできないだろう。

「思っていたよりも、随分いい鞄ですね」
「えぇ。私のパッションを詰め込む代わりに、使い勝手を重視した物なんだけど……そもそも、色んな武器を使う人はあまりいないし、複数の武器を持ち運ぶ事も少なくてねぇ」

 武器なんて、形状や物によって使い方が変わるからね。
 それこそ一概に剣と言っても、長さや重さ、剣身の厚みや太さなどでも違いがあるし。
 だから基本的には一つの種類の武器を使う人が多く、さらに複数持つ事も稀なんだよね。
 訓練のために、エアラハールさんから使い古した剣を複数持たされている俺や、投擲用も含めて最低でも二、三本の小さめの斧を持つフィネさんが、特殊と言えば特殊なんだろう。

「あ、そっちの鞄はね……」

 などなど、アマリーラさんやリネルトさんが購入予定で、手に持っているのを見て隠されていた機能を解説していくララさん。
 それぞれが愛情を持って? ララさんが作ったお手製だからなのか、店の隅に積み上げられていた物であっても、一つ一つの鞄の事を覚えているようだ。
 そんなララさんを見て、カーリンさんはこの人に調理道具の制作を頼めて良かったと、顔を綻ばせていた。
 ちなみに、アマリーラさんの鞄に隠されていた機能は、小さなポケットがありそこにナイフを仕込ませる事で、いざという時手に装着して武器になる。

 リネルトさんの方は、革製の水筒を取り付ける事で中から出さなくても、水を飲んだり水筒に水を灌いだりできるという物だった。
 両方、実用的かもしれなくてもあまり使う機会がなさそうだけど……まぁ使わなくてもちゃんとアマリーラさん達が必要なものを入れられる鞄としての機能はあるから、それで十分だよね。
 リネルトさんの方はともかく、アマリーラさんの方の鞄は攻撃性が高いので、むしろ使う機会がない方がいいとも思うけど。

「あ、そうそう。リク君も他のも、お題は結構よ」
「え、でも……ちゃんと払いますよ?」

 それぞれの鞄の解説を終えたララさんが、思い出したように言う。
 俺もそうだけど、アマリーラさん達も買うつもりでいて、お金を出そうとしていたんだけど……。

「商品の値段以上に、楽しそうなお仕事を頂いたお礼よ。それに、十分どころか過ぎる報酬まで用意してくれていたからね。リク君達が持ってきた魔物の素材だけで、このお店の商品全部……どころか、このお店ごと買えちゃうくらいよ?」
「それは……そうかもしれませんけど……」

 ご厚意に甘えればいいんだけど、なんとなくお金を払わずに商品をもらってしまうのは、なんとなく悪い気がしてしまうなぁ。
 というかワイバーンの皮や、余るかもしれないアルケニーの足も、合わせるとそこまでの大金になるのかぁ……という驚きは少しあるけれど、希少な素材ということを考えれば納得ではあるかな――。


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