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予想より早く完成する見込み

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「それとも、リク君は私事このお店を買い取るつもりなの?」
「さすがにお店を買い取ったりは……って、ララさんも付いてくるんですね」
「もちろんよ。リク君になら喜んで買われるわぁ」

 なんだか俺がララさんをお金……実際は魔物の素材だけど、それで人を買おうとしているように聞こえて、人聞きが悪いので止めて欲しい。
 まぁ、ララさんなりの冗談なんだろうけど。
 そういえばさっき、アマリーラさんが俺と話すララさんの言葉に、嘘はないと感じるなんて言っていたっけ。

 ……いやいや、さすがのララさんでもまさかこれが本気なんて事はないよねー。
 多分、俺達が素直に鞄を受け取れるようにそう言っているだけだと思う、うん。

「え、えーっと、それじゃあお言葉に甘えて……鞄だけ受け取っておきます」
「そこは、私も一緒にと言ってほしかったわぁ。でも、お店の隅に積み上げていただけで売れる見込みのない商品だもの、気にしないで。また何か欲しい鞄が見つかったら、教えて頂戴ね」
「は、はい……わかりました……」

 なんとなく、これ以上この話を続けていると危険に踏み込んでしまうような気がして、申し訳なく重いながらも結局ララさんのご厚意に甘える事にした。
 多分、また別の鞄が欲しくなったら、お題はいらないとか言うつもりなんだろうな、というのはこちらに向けるウィンクでなんとなく察する。
 ともあれなにはあれ、新しい鞄を買った……と言えるかはともかく、受け取っておく。

「それじゃ、ありがたく。話は戻りますけど、調理道具の制作はどれくらいかかりそうですか?」
「ん~、そうね……通常なら十日くらいはかかりそうだけど、リク君が自由に使っていいって許可をもらった素材があるから、遅くとも二日。早ければ明日の夜にはってところかしら?」
「早いですね……!」
「それだけ、リク君が持ってきてくれた魔物の素材は、私以外にも魅力的って事よ。あまり何度も使える手ではないけどね」

 要は賄賂に近いからなぁ……素材を上げるから、代わりに優先的に鍛冶場を使わせてくれって言うようなもの、というかそのものだし。
 通常は十日くらいっていうのは、順番待ちや立て込んでいるらしい武具の制作を待ってから借りたらッてところか。

「まぁ、あまり他の人の邪魔をするのは悪いので、程々でお願いします」
「リク君達の頼みだもの、全力で当たらせてもらうわ! ま、一日や二日くらい私一人が場所を借りる程度なら、向こうの工程もそう遅れやしないだろうから、心配は無用よ」
「それなら、いいんですけど」

 俺達の制作依頼を割り込ませる形だからな。
 鍛冶師さん達が忙しいのは、軍がこれからの準備を整えているからだし、それが遅れてこの先に影響が出たらという心配もある。
 けどまぁ、よく知らない俺より鍛冶仕事に詳しいララさんが、ほとんど遅れないと言うのならそうなのだと信じよう。

「それじゃあ、二日後に取りに来ますね。カーリンさんがですけど」
「はい。お店の場所もわかったので、次は一人でも大丈夫です」
「えぇ、リク君は来ないの? できればリク君とまた会いたいわぁ」
「それは……会いたいかはともかくとして、来れなくはないですけど……うーん……」

 エアラハールさんとの訓練や、結界を作るための確認、さらに周辺の魔物の討伐もあるから、ちょっと難しいかもしれない。
 冗談はともかくとして、ララさんに会いたくないわけではないんだけど……まぁ、受け取りに来るだけならなんとなかるかな?
 なんて考えていると。

「私もご一緒するから、それで我慢してねララさん。リク君には他にもやる事があるから」

 アメリさんが間に入ってフォローしてくれた。
 多分だけど、詳細までは知らなくても王都の周辺に魔物の集団がいるって事を、聞いているんだろう。
 ヒルダさんと色々話したみたいだし、こちらは特に秘匿情報じゃないから。
 俺達や王軍以外にも、冒険者さん達に討伐依頼を出してもいるしね。

「忙しいのねぇ、さすが国の英雄だけあるわぁ……でも、私より他の用を優先するのはちょっと嫉妬しちゃうわ」
「まぁ、魔物の討伐とか色々ありまして」
「わかったわ、残念だけれど仕方ないわね。それじゃあ、二日後までに作っておくわね」
「はい、お願いします」

 本当に残念そうなララさんに、改めてお願いするよう頭を下げる。
 俺が頭を下げる事に驚いたのか、横でカーリンさんも続いてガバッとお辞儀した。
 ……後ろの方でアマリーラさんが少しだけムッとしているけど、そこは気にしない。
 英雄と呼ばれているだとか、依頼したのはこっちだからとかは関係なく、お願いするんだから礼儀くらいはちゃんとしないとね。

 ちゃんとした礼儀というのはよくわからなくとも、お願いする相手にはちゃんと頭を下げるとか、そのくらいはね。
 偉そうにふんぞり返ったりはしたくないから。

「さて、と。ちょっとあれこれあったけど、調理道具の制作依頼はできたし、王城に戻ろうか」

 ララさんと挨拶を交わし、お店を出て王城へと体を向ける。
 アマリーラさんの混乱とか、ララさんの誤解で断られそうにあったりもしたけど、最終的にはちゃんと請け負ってくれたので良かった。
 ララさん本人もしくは、作れる人を紹介してもらおうと思っていたからね。
 鍛冶師さん達が今忙しいというのは知らなかったし、もしララさんが請け負ってくれなかったら、別の人を紹介してもらうことも難しかったかもしれないなぁ。

 アルケニーの素材が加工しやすいというのはいい情報だったけど、それを使って調理道具を作ってくれる、手すきの人がいない可能性もあるし。
 鍛冶場を使うためにワイバーンの皮などを交渉材料に、という事までは俺じゃ考えられなかっただろうからね。
 ララさんを頼って良かったと、王城へと歩きながら思った。
 あとは、二日後にできあがった物をカーリンさんが受け取るだけだ……自分が使う物じゃないけど、カーリンさんが新しい道具を使って美味しい料理を作ってくれるだろうと、期待感も増していくよね。

 ただまぁ、アメリさんは爆発騒ぎで危険だからとこれまで外に出ていなかったし、今後も爆発が起きて巻き込まれないとは限らないので、誰かに同行してもらった方がいいとは思っている。
 兵士さんにお願いするのが一番かなぁ……?

「……このまま王城に帰っちゃうのは、ちょっともったいなくないかしら? せっかくだし、もっとゆっくりするのもいいんじゃない? もちろん、リク君が忙しいなら別だけれど……」
「言われてみれば確かに……王都に戻って来てから、城下町に出たのはこれが最初だし、久しぶりってのもありますね」

 色々と考えながら王都へと向かっていると、少しだけ不満そうなアメリさん。
 アメリさんとしては、せっかく外に出れたのにもう帰るのはつまらないとかそんなところだろう。
 特に戻ってからの予定があるわけじゃないし、少しだけ寂しく感じる町を見て回るなり、どこかでゆっくりしたりするのもいいかもしれないな。
 この機会を逃したら、今度ゆっくりするのはいつになるかわからないし――。


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