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不審者を隔離しておく場所へ
しおりを挟むともあれ、俺が触れたら魔力があれやこれやで破裂してしまう可能性が、本当にあったのかと疑いたくなるくらい何事もなく、兵士さんによって不審な人物が抱えられた。
それでもなお、ただただ濁った声を出すのみでこれといった動きなどは見せないなぁ……動きがあったら困る可能性が高いんだけど。
ずっと目を開いたままで、ドライアイとか大丈夫かな? なんて心配は、余計な事なんだろう。
「えーっと、どこに運ぶのがいいか……」
とりあえず捕縛したとして、そのゾンビみたいになっている人物……面倒なのでそのまま不審者としておくけど、その不審者をどこに運ぶべきかを悩む。
兵士さん達は、駐屯地または王城の牢屋などに連れて行こうとしていたから、慌てて止めた。
あくまで推測や可能性で、確定ではないんだけどもし爆発したら、王城だと被害が大きくなりすぎるからね。
さすがに国の象徴でもある建物を破壊させるわけにはいかないし……。
「王城に近い場所で、でも決してお城を囲む堀を越えない場所あたりがいいですかね? それから、できるだけ丈夫な建物で、周囲にも中にも人が少ない場所……できれば、誰もいないような場所で隔離しつつ捕らえておくのがいい、とは思うんですけど……そんな所ってあるのかな?」
不審者を抱える兵士さん達と一緒に少しだけ移動しながら、パッと思いつく条件を羅列して、首を傾げる。
移動はもう少し人通りの少ない場所に、という事だけどそれよりも捕獲というか保護しておく場所をどこにするかが問題だなぁ。
「そうですね……一つ、心当たりがあります。使用許可を求めなければいけない場所ではありますが……」
俺の言葉を受けて、同じく考え込んでいた兵士さんの一人……多分、ここにいる六人の兵士さんの中で、隊長さんというか一番偉い人っぽいね。
というか、全ての条件に当てはまるような場所がないと思っていたのに、あるんだ。
ちなみに全員ではないけど、兵士さんは当然のように俺を知っていたし、うち一人か二人はなんとなく顔に見覚えがある気がしたので、王城ですれ違うなりしていたんだろう。
「使用許可、ですか?」
「はい。以前は凶悪犯や事情により隔離しなければならない者などを、人目に触れないよう捕えておく場所として使われておりましたが、現在では使われておりません。一度入れば出られない、とまで言われた堅牢な場所ではありますが……女王陛下が封鎖を決定されました。ですので……」
「陛下の許可、もしくは相応の地位にいる人の許可が必要って事ですか」
「そうなります」
「うーん……」
可能性とはいえ、爆発するかもしれない不審者なので、姉さんに言えば多分許可は下りると思う。
ちょうどいい場所があるなら使えばいいとも思うけど、封鎖を決めたのはそれなりの考えがあっての事だろうし、安易に使っていいものか少し悩む。
とはいえ、結局他に最適な場所がないため、そこを使うのが手っ取り早いんだけどね……。
「とりあえず、アメリさんとリネルトさんはすみません。もう一度動いてもらう事になりますけど……」
「構わないわ。もう町を散策する雰囲気でもないものね」
「何なりとお申し付けくださいぃ」
「ありがとうございます。王城に行って許可が出るか聞いて来てもらえますか? ヒルダさんなりと話せば、向こうに話が行くと思いますから」
まずは許可のが下りるかの確認だ……事後承諾でも、姉さんなら文句は言いつつも許してくれるとは思うけど、できるならそれは避けたいからね。
とはいえ、アメリさん達が戻って来るまでずっとここで待っているわけにもいかない。
その兵士さんが思い当たる場所、ちょっと特殊らしくその入り口らしいけど、その場所を教えてもらい、そこで合流する事にする。
不審者を抱えていない兵士さんの内一人も、一応アメリさん達について行く事になった。
事情説明はアメリさん達でも大丈夫だとは思うけど、使用する場所の詳細はさすがにアメリさんもリネルトさんも知らないからね。
すぐに許可を取るのが難しいためだ。
「それじゃ、色々頼んでしまってすみませんが……お願いします」
「任せて、リク君」
「承知いたしましたぁ。お任せ下さいリク様ぁ」
「リネルト。リク様のご指示だ、ぬかるなよ」
「もちろんですよぉ」
請け負ってくれるアメリさんにリネルトさん。
アマリーラさんはリネルトさんに、何やら注意するような事を言っている……王城に行って事情を説明して許可を取るくらいだから、ぬかる事は何もなさそうなんだけどなぁ。
まぁ、いいか。
「それじゃ、俺達も移動しましょうか」
「はっ!」
「畏まりました」
駆けて行くアメリさん達を見送り、不審者を抱えた兵士さん達と一緒に移動を開始。
できるだけ人目の少ない場所を通って、俺の言った条件に合いそうな場所へと向かう。
見るからに不審者、ゾンビっぽい人とは言え抱えて移動する姿を町の人達に見られるのはあまりね……今のところ、見られちゃいけない事は何もないんだけども。
「ここが……そうなんですか? 丈夫な建物、のようにはあまり見えませんけど……」
しばらく移動して着いた先。
王城を囲む堀の近く、大きな通りからは離れていて人通りが多いとは言えない場所に、入り口らしい建物があった。
一見するとただの民家だけど、玄関と思われる場所が厳重に封鎖されているのが、通常の民家とは違う事を物語っていた。
他には、民家にしては少しだけ広めだろうか……特にこれといった特徴のない建物で、周囲の景色からしても人を捕らえて隔離する場所とはとてもじゃないけど思えない。
あと、平均的な城下町の民家と造りがそう変わらないようでもあるため、もし中で不審者が爆発を起こしたら、周囲の建物と一緒に吹き飛ばされるんじゃないだろうか?
「ただの入り口ですので、見た目はそうでしょう。中に入ればリク様もご納得いただけるかと」
そう言って兵士さんは、その家の玄関をこじ開ける。
玄関は木の板が打ち付けられており、鎖なども使って厳重に封鎖されていたからね。
さすがに鎖は力任せでは解けなくて、ちょっと苦労しつつ鍵を開けたりなどして解いていたけども。
「どうぞ、まだ使用許可は下りていませんが、中に入るくらいなら可能です」
「大丈夫なんですか?」
てっきり俺は、外で待つものだと思っていたけど……まぁ封鎖されていた玄関ももう開いちゃっているし、問題はないんだろうけど。
「はい。ここはあくまで入り口ですし、管理のため定期的に中に入るのです。奥まで行かなければ、使用許可まで入りませんから」
「成る程、そうなんですね」
兵士さんの言葉に頷いて、アマリーラさんと共に玄関を入る。
中は、何の変哲もない一軒家の内装と言ったところだろうか。
特に何かがあるというわけでもなく、人を隔離するための場所とは思えないし、入り口と言っていたのもよくわからない。
ただまぁ、玄関の厳重な封鎖具合からは予想外な程、掃除が行き届いていて綺麗なくらいか――。
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