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堅牢な地下牢の歴史
しおりを挟む入り口と言われた家の中は、封鎖されていたとは思えないくらい綺麗だった。
さすがにチリ一つないとまでは言えないけど、誰も住んでいない封鎖されている場所とは思えないほど綺麗で、いつでも誰かが住む事もできるだろう。
管理と言っていたから、定期的に入って掃除とかをしているんだろうね。
兵士さんも封鎖していた鎖に付いた鍵を外せたわけだし、ある程度任せられているんだろうと思う。
そういえば、入り口となる家の外観を見た時、一般的な家より少し広く大きい印象を受けたくらいで、廃墟には感じられなかった。
多分廃墟にしてしまうとそれはそれで、何らかの問題が発生する可能性があるため、管理して綺麗に保っているんだろうね、多分だけど。
「ここが入り口というのは? 特に何もなさそうですけど……」
「連れて来た不審な者を隔離するために、相応しいとも思えない場所だが、どういう事だ?」
俺が兵士さんに質問するのに追従して、アマリーラさんからも疑問が飛ぶ。
「この奥に、地下へと繋がる入り口がありまして。そのさらに奥に、隔離するための牢があるのです。この家は、それを悟られないためのいわばカモフラージュのためですね。誰も、この家の奥に地下への入り口があり、牢があるとは思いませんから」
「あぁ、成る程……」
「地下、だと……?」
なんの変哲もない家などをカモフラージュとして、地下への入り口というのは実は王都にいくつかある。
そのうちの一つが、中央冒険者ギルドに近い場所で俺も利用した事があったっけ。
地下通路は本来、王城で何かあった時に姉さんなどの王族など要人が逃げるための通路だね。
そういえばアマリーラさんは、地下通路を使った時にいなかったから知らないんだっけ。
とりあえず、俺と話している兵士さんは俺が地下通路を知っているとは思っていないようなので、大まかにだけどコッソリそういうものがある事を、アマリーラさんに伝える。
一瞬疑いの目を兵士さんに向けたアマリーラさんだけど、俺も知っている地下の存在を聞いて、それもなくなった。
すぐに鼻を鳴らして、周囲を窺い始めたけど……知らない場所で、警戒というか詳しく調べるためなんだろう、猫っぽい耳と尻尾なのに、犬みたいだなぁなんて思ったり。
いやまぁ、猫だって嗅覚は鋭いし匂いを嗅いで周囲を調べる事だってあるだろうけど。
「入り口はあれです。この先は、リク様でも許可がないと……」
「はい、わかっています。とりあえず許可が出るかどうか、アメリさんやリネルトさんを待ちましょう」
地下への入り口の前まで一旦通されて、その後は不審者を適当な部屋で見張りつつ、アメリさん達が来るのを待つ。
さすがに誰も住んでいない場所なので、お茶が出されたりすることはなかったけど、椅子やテーブルはあったので座って落ち着くことに。
元々使っていたのかカモフラージュのために置いてあるままなのかはわからないが、こちらも掃除されているので埃まみれなんて事もなく、すぐに座る事ができた。
ちなみにだけど、地下への入り口は鉄扉で作られていて、それが何枚も続いているんだとか。
その入り口を見られたら、一般的な家ではないと思われそうではあるけど……そもそもそこまで入り込む人がいる時点で、その相手もただ迷い込んだでは済まされないだろうからね。
「そういえば、その地下は封鎖されたと言っていましたけど……地下なら他と通じたりしてしまうんじゃないですか?」
アメリさん達を待つ間、ただ黙っているのも暇なので案内してくれた兵士さんに、質問を投げかけてみる。
黙って静かだと、不審者が漏らし続けている濁った声がするだけで、なんだか気が滅入って来るからね。
「リク様なら、話しても問題ないでしょう。そうですね……元々は地下に張り巡らされた通路だった、と聞き及んでおります。先々代の国王陛下がその一部を埋めさせ、隔離するために利用したというのが始まりだとか」
「先々代の国王陛下が、ですか」
先代の国王陛下、つまり姉さんのこちらの世界での父親の話なら多少聞いた事があるけど、先々代という事はお爺さんになるわけか。
その人の話については、ここで初めて聞くね。
「私がまだ生まれてもいなかった頃のため、聞いた話という事になるのですが。先々代の国王陛下の時代、この国が少し荒れてしまっている時期があったらしいのです。何故なのかまでは、聞き及んでおりませんが……」
国が荒れる、まぁその先々代の国王陛下があまり良い統治をしなかったか、それともバルテルのように叛意を持った人物が何かしたか……。
国単位で考えるなら、今の帝国のように何か外部から仕掛けられたか……理由はわからないと言う事だけど、いくらでも可能性は考えられるね。
まぁ実際、こうして国は存続しているのだから、存亡の危機などの大きな問題には発展していなかったんだろう。
そういえば、姉さんが大々的に動くまで野盗が多かったと聞いた覚えがある。
もしかしたら、大分前の事だとは思うけどそれも名残みたいなものなのかもしれないね。
悪人がのさばっているのが名残とか、嫌すぎるけど。
「その荒れていた頃に、悪事を働いた者達を捕まえても収容する場所がなかったらしいのです。いえ、正確には収容する場所はあっても、増えすぎて収容しきれなかったという事らしいのですが」
「悪人が多すぎて、捕まえておく場所が溢れちゃったってわけですね」
「はい。国が落ち着きを見せてから、少しずつ減ったらしいですが……当時はそのために急遽収容する場所を作ったそうです。それはこの場所、というよりこの地下も同様です。ここでは王都の地下に張り巡らされた地下通路の一部を利用し、特に凶悪な者を隔離し逃さないために使われたそうです。カモフラージュに使われる家はその後に作られたらしいのですが、堅牢な地下の牢は、何人たりとも逃さないと言われたそうです」
「成る程、そういう事ですか」
地下通路は、結構深いから簡単に地上まで掘って出るなんて事はできない。
迷路みたいに張り巡らされているから、その一角を通路とは繋がらないように埋めて作った場所なら、簡単には逃げられないだろうからね。
多分、建物を吹き飛ばすような爆発が地下で起きても、崩れたりしないくらいには堅固に作ってあるだろうし……少なくとも、地下を通った時の通路の壁などは多少俺が暴れても、壊れたりしそうにないくらいだったからね。
家は後から作られた物らしいけど、その当時はもっと入り口も厳重に閉ざされていた可能性だってある。
堅牢で人が周囲に少ない、もし爆発が起きても被害は大きくならない……確かに、俺が口に出した条件とぴったり合うと言えるね。
「ですが今は無用な場所で、現女王陛下が封鎖を決めて厳重な管理の下、誰も入らないようにしています。使用されないため、そろそろ埋めてしまおうという話もあったくらいです」
「そこに、ちょうどよく使える不審者がいたってわけですね。まぁ、使用許可が下りればですが……」
「はい」
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