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アマリーラさんの正体
しおりを挟む「獣人の国と我が国は、友好関係を築けていると思っているが……力を借りても良いものか、とな。獣人である二人の意見を聞きたい」
そう言う姉さんの言葉を受けて、全員の注目が集まったからか、アマリーラさんとリネルトさんが立ち上がる。
これ、俺も立つところかな? でも俺は獣人じゃないし……と迷っていたら俺は断たなくていいというか、むしろ何もしないでいい、と無言の圧のようなものが姉さんから俺へと突き刺さった気がした。
もしかしなくても、さっき魔力が漏れ出して威圧に近い事になったのを、少し怒っているのかもしれない……。
後で色々と言われるだろうと覚悟をしながら、とりあえずおとなしく座っておいて、話しを聞く事に徹しようと思う。
ちなみに、アマリーラさんとリネルトさんの耳や尻尾は、通常通りに戻っている。
魔力も引っ込めたし、恐怖は感じていないんだろう。
まぁ緊張からかなんなのか、ちょっと垂れ下がり気味だけど。
「我々獣人の国の力ですか……アテトリア王国とは友好が結ばれていると、我々だけでなく国の者達もそう認識しております。この国にも多くの獣人がおりますが、皆虐げられる事なく生き生きと働いておりますし。それに、友好関係でなければその国内で傭兵としての活動もできません」
率先して話すのはアマリーラさん。
こういう時は、のんびりした口調になるリネルトさんより、アマリーラさんが話をする事になっているみたいで、リネルトさんは黙って頷いている。
俺が絡む事でなければ、凛々しいというか委員長タイプや生徒会長タイプの真面目さを持っているので、頼もしさを感じる。
……いざという時でも冷静なのはリネルトさんなんだけどね。
「うむ、何分我が国は人間が主体の国。不自由をさせてしまう事もあろうが、できるだけ獣人も定住するのであれば国民として受け入れているし、それでなくても獣人には自由に動いてほしいと思っている。さすがに、無法者は取り締まらせてもらうがな」
「我らからしても、無法者は国の恥ですから。当然の事です」
俺がこの世界に来て、この国で過ごしていて、一度も獣人を差別的に見る、または話す人はいなかった。
それだけ、友好関係が築けている事と獣人もちゃんとした人として扱うような政策がされている、という証明だろう。
よくあるのは、まぁ日本で見た物語とかでだけど、人間至上主義で獣人が差別されるとかだけど……少なくとも、この国でそんなのは見た事がないからね。
エルフはこれまで出てくる事が少なかったから、珍しいと見る人が多いけど。
あと、無法者……つまり犯罪を犯した獣人なんかが罰せられるのは、当然の事だろう。
受け入れられているからって何をしてもいいわけじゃないし、そこはアマリーラさんも理解している様子。
「もちろん、我が国にいる獣人達を無理矢理戦わせる事はしない。希望者などは別だが……軍内にも志願して兵になった獣人もいる事だしな。だが、先程リクの話を聞いて考えていたのだ。正確には、案自体は元々あったのだが……助けを請うても良いのかと、それをアマリーラ殿に聞きたい」
「確かに、先程の話の通り帝国とアテトリア王国の戦争が起こったとしても、我が国は離れているため直接関係ありません」
「うむ、だからこそ協力要請、つまり援軍の要請を躊躇していたのだからな」
「はい。ですが、私がここにいる事。そしてリク様のご意思が帝国打倒であるならば、我が国は協力を惜しむ事はないでしょう」
「え、俺……ですか?」
唐突に名前が出て来て驚いた。
俺、獣人の国に行った事すらないのに、俺が参戦するからと言って獣人の国の人達が協力してくれるとは限らないんじゃ……。
人間で獣人の国出身どころか、この世界出身ですらないのに。
「私はリク様のご意思と共にあります。そしてその私が、リク様と共に帝国に対するのです。獣人の国が協力を惜しむ事はあり得ません」
そう言って、姉さんではなく俺に対して恭しく礼をするアマリーラさん。
こういう時止める側になるリネルトさんも、何故か一緒に礼をしていた。
あれぇ?
「ふむ、やはりそうか。アマリーラ、と言う名に聞き覚えがあったのだが……そういう事か。いや、それを利用するつもりはなかったのだがな。あくまでこの場では、獣人としての意見を聞きたかったまでだ」
「女王陛下には、あまり隠し事はできないようで。私自身の事情から、仕方ない事なのでしょうが」
「え、え、え?」
何やらわかった風な姉さんと、苦笑しているアマリーラさん。
二人で通じ合っているような気もするけど、いったい何がどうなっているんだろう?
と、俺が訳もわからずハテナマークを頭上に浮かべまくっていると、姉さんがアマリーラさんと俺を見比べて少し意外そうな表情になった。
「なんだ、リクは知らなかったのか?」
「私の事で、リク様を煩わせたくはありませんから。それに、この国ではあくまで獣人のアマリーラ。ただそれだけの者としておきたかったのです。ですが、こういった話になった以上隠してもおけません。隠すつもりはなかったのですが」
「てっきり私は、リクにのみ伝えているものだと思っていたが……悪い事をしてしまったな」
「いえ、いい機会です。――リク様」
「え、あ、はい」
姉さんとなんとなく親し気に話していたアマリーラさんが、改めて俺に向き直る。
よくわからず、ちょっと抜けた返事になってしまう俺に対し、アマリーラさんが小柄な体で片足を斜め後ろに引き、両手で履いていないはずのスカートをつまんで広げるようなしぐさをしつつ、膝を曲げて頭を下げた。
カーテシーって言うんだったっけ?
豪快に大剣を振り回しているアマリーラさんからは、およそ想像もつかないくらい優雅な仕草だった。
動きやすい恰好のアマリーラさんだけど、一瞬だけドレスを着た高貴な人のような幻視をしてしまう程に……。
それはつまり、慣れている動作でもある事を意味しているわけで……偏見かもしれないけど、傭兵にそんな慣れは必要ないと思うんだけど、それがなぜ?
などと、ちょっとした混乱をしている俺にアマリーラさんからの言葉で、納得せざるを得なかった。
いや、これだけ優雅な動作をしているうえでなのだから、納得するしかない。
「改めましてリク様。リク様の忠実な下僕でありながら、名乗る事をお許し下さい。獣人の国、ティアラティア王国が国王の第十子。第四王女、アマリエーレ・カッツェ・ティアラティアと申します」
はっきりと、アマリーラさんが口にした……王女、と。
優雅な仕草も相俟って、驚く程すんなり頭の中に入るそれは、少しの混乱と共に強制的に納得させられた。
納得はしてしまっている……だけど、それでもやっぱり驚きは別だよね……。
「「「「「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」」」」
大きな驚きの声が響く女王陛下の執務室。
その声を涼し気な表情で受け流しているアマリーラさん……いや、アマリエーレさん? はこれまでに見た事がない様子だった――。
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