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2 万引きの罰
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“ネグレクト”
それは親が子どもの育児を放棄し、放置する行為。
実際にこの“虐待”をされたら、子どもはどうなるだろうか。
答えは当然…。
・
「はぁ…。」
辺りが肌寒くなり、冬の準備をはじめる季節。
わたしはいつものように“執行対象リスト”を開きながら、白い息を吐く。
今回の“対象者”は、〈佐藤 みよ〉
年齢は6歳。
普段は母・弟の3人暮らしだが、母親は数週間ほど前から帰宅していない。
そのため、今は対象と2歳下の弟が1人、家にいるだけだ。
もちろん、満足に食べるものなどなく、お腹を空かせた弟のために、対象がスーパーなどから食べ物を“万引き”して、命を繋いでいる。
ただ、一度に盗める量は少なく、盗んだものはほとんど弟に与えていたため、自分が栄養失調の状態となり、現在は、歩くことはおろか、立つこともままならなくなっている。
『今回は“いろいろ”と大変な仕事になりそうね。』
禍々しい大鎌を握り締めながら、わたしは対象のいるアパートへと向かった。
・・・
『お腹すいた…』
もう何日も食べ物を食べていない気がする。
水道の水はずっと前から止まっていて、蛇口をひねっても“悲しい雑音”を響かせるだけだった。
せめて、弟には何か食べさせてあげたいのに、身体に力が入らず、立つことも出来ない。
私の隣には、同じくお腹を空かせた弟がいる。
不安そうな顔で私を見つめ、心配してくれているみたいだった。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「…だぃじょぶ、だよ…。…ごめんね。お…なか、すいたよね…。」
「…ううん。大丈夫だよ。だからお姉ちゃん早く良くなって。」
「あ…りがと…。」
言葉ではそういうが、お腹は正直だ。
日に日に大きくなる“お腹の音”は、弟の今の状態を必死に訴えていた。
「……?こうた…?」
弟の異変に気づく…。
いきなりピクリとも動かなくなり、お腹の音も止んでいた。
まるで“時間が止まっている”みたいに。
「あなたが“佐藤 みよ”ね。」
「…!?……だ、だれ…!?」
「わたしは死神“ソワレ”」
「………え?」
気がつくと、目の前に綺麗な女の子が立っていた。
全身が黒で統一された“ゴスロリ”風のワンピースに、長い銀髪が印象的だった。
ただ、右手に持っている大きな釜が、私に“恐怖感”を与えてくる。
「わたしはあなたに“罰”を与えに来たの。」
「……ばつ?」
「そうよ。…でもその状態だと、話が終わる前に死んでしまいそうね。…仕方ないわね。」
死神さんはそう言うが早いか、私に釜を振り下ろす。
「きゃあぁぁぁぁぁっ!?」
「安心しなさい。物理的な“ダメージ”はないから。…それに、かなり楽になったでしょう?」
「…え?」
私は“飛び起きる”と、身体の状態を確認する。
身体はどこも痛いところはなく、むしろこれまであった苦しさや、空腹な状態が無くなり、“元気になった”気がする。
「“6歳”ね。…予想通りだわ。」
「なんで、身体が…。」
「この釜は、対象者が罰を受けるのに“支障のない状態”へ変更する魔法があるの。」
「……死神さん、…罰ってなに?」
「あなたは何度もお店から食べ物を盗んでいたでしょ?…その“罪”に対して、“罰”を与える必要があるの。」
「…で、でも、そうしないと私達、お腹がすいて死んじゃってたんだよっ!
……それは、悪いことだってもちろんわかってたよっ!…でも、仕方ないじゃんっ!ほかに方法が無かったんだよっ!」
そう。これは“生きる”ために仕方のなかったことだ。
だって、“これ”をしなかったら、私達は、今頃…。
「罪は罪。罪には罰よ。そこに例外は存在しないわ。」
「じゃあ、どうすればよかったのっ!?…そのまま死んじゃった方がよかったっていうのっ!?」
「それは知らないわ。わたしの仕事は、罪がある者を裁くことだけだから。
…さあ、話を戻すわよ。今のあなたには2つの選択肢があるわ。」
「私の話はまだ終わってないっ!!」
「いいから聞きなさい。…一つは、“お仕置き”を受けてこれまでの罪を償うこと。
もう一つは、罪を償わず、このまま“魂”を刈られること。」
「……。」
怒っているせいもあり、死神さんの言ったことが、理解できなかった。
“おしおき?”、“かられる?”
なんで私がそれを受けなくちゃいけないのだろう…。
「ちなみに、お仕置きを受けた後は、これまで通りの生活を送れるわ。」
「…。」
「でも、それを拒否して魂を刈られた場合、あなたという“存在”は消滅して、この世にも、あの世にも居なくなるわ。」
「……。」
死神さんは、自分の髪を“くるくる”と指で回している。
説明は聞いたけど、やっぱりお仕置きを受ける理由が見つからないままだった。
「どうするの?」
「…受けない。おしおきなんていやっ!」
「…そう。じゃあ、弟をこのまま残してあなたは消えることになるわ。」
「…こうた?」
私は弟の方を見た。
身体は痩せて、元気がないように見える。
このまま私がいなくなったら、こうたは…。
『…死神さんなら、もしかしたら、私の身体みたいに、こうたを治せるかもしれない。』
その考えが思い浮かんだとき、私の中に“ある決心”が生まれた気がした。
「…死神さん。私、お仕置き受ける。…だからこうたを助けてっ!」
「それは、“わたしの”仕事じゃないわ。」
「お願いっ!ちゃんと受けるからっ!お願いしますっ!!」
自然と涙が出て、死神さんに泣きつく。
弟を助けられるなら、どんなことでも耐えられる自信まであった。
「…じゃあ、お仕置きを素直に受けられたら、特別に“ご褒美”をあげるわ。」
「こうたを助けてくれるのっ!?」
「ご褒美の内容は、秘密よ。どう捉えるかはあなた次第ね。」
「…。」
正直、今の私は死神さんの言葉を信じるしか方法がない。
私は“動かない”こうたを抱きしめると、死神さんの方へ向き直り、決意を固めた。
「お仕置きを受けます。…受けさせてくださいっ!」
「そう。決定ね。」
死神さんは指を鳴らすと、何もなかった場所へ“白いもや”がかかる。
もやが、晴れるとそこには“ふかふかの白い椅子”が現れた。
私が口に手を当て驚いていると、死神さんが“ポスッ”とそこに座る。
「さあ、お尻ペンペンのお仕置きよ。膝の上に来なさい。」
「……お尻ペンペン?」
“ポンポンッ”と自分の太ももを叩き、私を呼ぶ。
予想外のお仕置き内容に、動揺を隠すことができなかった。
もっとこう、怖くて痛いことをされると思っていたけど、子供が受けるお仕置きみたいで安心してしまったくらいだ。
「…甘く考えてるのかも知れないけど、“すごく痛い”わよ。今のうちに覚悟を決めておきなさい。」
「…はい。」
私は“恐る恐る”死神さんのお膝の上に腹ばいとなる。
ふんわりと優しい柔らかさが私を受け止め、“これからお仕置きを受ける”とは思えないくらいだった。
“スルッ”
使い古されて“ボロボロ”なズボンとパンツが膝上まで下ろされた。
“スースー”する感覚で、久しぶりに恥ずかしいという気持ちが込み上げてくる。
“ペンペンッ”
「じゃあ、始めるわよ。お尻叩き60回、しっかり受けなさい。」
「はい…。」
バヂンッ!
「いっだいっ!」
「1つ。」
刺さるような痛みがお尻広がる。
手が離れると、“ジーン”とする感覚がお尻に残り続けていた。
「し、死神さんっ!いたいっ!いたすぎるよっ!!」
「すごく痛いってさっき言ったでしょ?…ほら、次いくわよ?」
「ちょ、ちょっとまっ…」
パァンッ!
「ひいぃぃっ!」
「2つ。」
再び、与えられた痛みに、私の身体が跳ね上がる。
確かにすごく痛いっては聞いてたけど、ここまで“痛い”とは思っていなかった。
バシッ!バヂンッ!
「きゃあぁぁっ!」
「3つ。4つ。」
平手の衝撃が、左右のお尻に響き渡り、私の目から涙がこぼれ落ちる。
つい、痛さから、右手でお尻をさすってしまう。
「こらっ。ダメでしょ。ちゃんと受けなきゃ。」
「グスッ…。ごめんなさい…。」
「今回は見逃してあげるけど、ちゃんと受けられないなら、“ご褒美”はあげないからね。」
「ご、ごめなさいっ!?」
“ご褒美”の言葉が出て、私は、急いで手を戻す。
『ここで頑張らないと、こうたは助からない…。』
その思いが、私を心を突き動かしていた。
バシッ!バシッ!バッヂンッ!
「いだいぃぃっ!!」
「5つ。6つ。7つ。」
右・左・真ん中の順で、平手が当たる。
特に最期、真ん中への一撃が、特に痛く、庇いそうになる手を必死に握り、我慢していた。
バッヂンッ!バッヂンッ!
「ん゛っ!あぁっ!!」
「8つ。9つ。」
今度は、左右に1発ずつ、強めの痛みが与えられる。
少しでも痛みを逃がしたくて、“もじもじ”してしまうと、死神さんの背中を抑える左手が“グッと”強くなり、動けなくなってしまった。
バッヂィィンッ!!
「あぁぁぁっ!!」
「10。」
お尻の真ん中へ、これまでとは比べものにならないほどの衝撃が走った。
一瞬、焼け付くような感覚と、その後、残り続ける“ジクジク”とする痛みが、私の身体から汗を拭き出させる。
・
その後も平手打ちは続き、その度に、私の身体は跳ね上がった。
30発目に差し掛かるころ、私の頭の中に映像が流れ込んでくる。
…どうやらそれは、これまで私が食べ物を盗んだスーパーの、“その後”を撮った映像のようだ。
どのスーパーの人も、“金額が合わず”困っているようだった。
…これまで、私が考えないようにしてきた光景が、頭の中に広がり、“罪悪感”が溢れ出しそうになるのを感じた。
「死神さんっ!ごめんなさいっ!…食べ物を盗んで、本当にごめんなさいっ!!」
「あなたがきちんと罪を償えたら、許してあげるわ。…あと、半分くらいだから頑張りましょう。」
「…はい。お仕置きの続きお願いします。」
死神さんは、私のお尻を優しく撫でてくれるが、すぐにその手は離れる。
バッヂンッ!パァン!
「い゛っ!ん゛っ!」
「31。32。」
相変わらずの痛みが、私に降りかかる。
でも、こうたのためのほかに、“反省すること”も見つかり、
『しっかり受けなきゃっ!』という思いが芽生えてくるのを感じた。
・
「最期の3発は本気で叩くわ。…これで最期だから、頑張りなさい。」
「グスッ…はい、おねがいじますっ!」
バッヂィィィンッ!!
「いっだぃぃっ!!」
「58。」
バッヂィィィンッ!!
「だいぃぃぃっ!!」
「59。」
バッヂィィィンッ!!
「ごめんなざぁぁいっ!!」
「60。」
3発とも、お尻の真ん中の同じ部分に当たり、私の身体が飛び跳ねた。
一瞬の“熱さ”と、かなりの痛みが、いまだに襲いかかってくる。
「うぐ…、グスッ…。」
「おしまいよ。よく頑張ったわね。」
死神さんから、抱き起こされ、そのまま胸に抱き寄せられる。
頭を優しく撫でられるこの感じは、かなり昔に体験した“お母さんの温もり”を感じさせてくれるようだった。
「死神さん。…ご褒美は?……こうたを助けてくれるっ!?」
「それは、“いずれ”わかるわ。…いまはもう“寝なさい”。」
「お願い。…死神さん。お願い…。」
なぜか、意識が遠くなって、目が“しょぼしょぼ”としてきた。
最期の力で、死神さんを精一杯抱きしめるが、ついに目の前が暗くなってしまう。
・
「…え?」
気がつくと、そこは“いつもと変わらない”室内だった。
この一瞬の間に何かあった気がするが、何も思い出せない…。
…ただ、いつもと違うのは、さっきまで、私を心配してくれていた弟が、床の上で倒れていることだ。
私は頭が真っ白になる。
「い…や、こうた…いや…。」
弟を起こそうとするが、体に力が入らず、触れることさえできない状況だった。
『う…うそつきぃ…。』
“何故か”頭の中にこの言葉が浮かび、静かに目が閉じていった。
・
「……ん?」
静かに目を開けると、そこは見知らぬ天井だった。
『…ここは、どこだろう。』
状況を確認しようと、身体を動かすが、“だるさ”が襲い、上手く動かせない。
なんとか、首を動かし横を見ると、そこには白いベッドに寝ているこうたがいた。
「こ、こうた…。こうたっ!!」
必死で名前を呼ぶが、気づいてもらえない。
ただ、息はあるようで、静かな寝息が私の耳に届いた。
「みよちゃん、起きたのねっ!」
声のした方を見ると、そこには“看護師さん”であろう、女の人が部屋に入ってきた状況だった。
「こうたくんは大丈夫よ。いまはただ、寝ているだけだから。」
「…よかった。」
「本当に弟思いなのね。…あなたのことは聞いているわ。
3日前、みよちゃんの隣の部屋の人が、何故か、“胸騒ぎ”がして、様子を見にきたみたいなの。
幸い、“鍵は開いて”て、中に入ったら、みよちゃん達が倒れてたの。
それから、大急ぎで救急車を呼んで、なんとか間に合った状況だったのよ。」
「そうだったんだ…。」
「これは、後で詳しく説明されるだろうけど、…これから、みよちゃん達は、しばらく入院して、元気になったら退院するわ。
その後は、“施設”というところで、生活していくみたいよ。……詳しい話は、後で聞いてね。」
「…はい。ありがとうお姉さん。」
「きちんとお礼が言えるなんて、いい子ね。…じゃあ、お姉さんは先生を呼んでくるから、ちょっと待っててね。」
「はーい。」
看護師さんが部屋を出て、再び部屋が静かになり、こうたの寝息が聞こえる。
少し、状況が掴めないことはあるけど、とりあえず、安心した自分がいた。
『嘘つきって言ってごめんなさい。……ありがとう。』
また、頭の中に言葉が浮かんでくる。
『幸せになりなさい。』
…不思議と、頭の中にこの言葉が響いた気がした。
・・・
「はあ?お仕置き?…なんであたしがそんなの受けなくちゃいけないのよ?」
夕方の路地裏、人気のない場所に、“年齢に似合わない”派手な衣装をまとった15歳の少女と、ゴスロリの服をまとった銀髪の少女が対峙していた。
「あなたは、自分の子供の育児をせず放置したでしょ?…そして、その子達を“死なせかけ”、結果、万引きまでさせることになった。…それが、あなたの“罪”よ。」
「そんなの知ったことじゃないわよっ!あたしは何もしてないでしょっ!!…大体、あいつらがいるせいで、出来た男もすぐいなくなるし、あたしが迷惑しているくらいよっ!!」
「その、“なにもしなかった”ことが一番問題なのよ。…それに、子の罪は、親の罪でもあるわ。」
「だから、知らないっていってるでしょっ!!」
「…そう。じゃあ、お仕置きは受けないのね?」
「当たり前でしょっ!!それより、早く元に戻しなさいっ!!…こんな見た目じゃ“お店”にいけないでしょっ!」
「……そう。…残念ね。」
銀髪の少女はそう言うと、右手に持っていた“釜”を振り抜いた。
「きゃあぁぁ……。」
“ドサッ”
一瞬の悲鳴が聞こえたのち、“年相応の服装”をした女性が倒れた。
「………本当に、“残念”だわ。」
銀髪の少女は、冷たい目でそう言いおろすと、手に持っているリストへ“執行完了”と記載する。
…その後、銀髪の少女の姿は消え、路地裏には、二度と目覚めることはない女性が1人、残されるのだった…。
「完」
それは親が子どもの育児を放棄し、放置する行為。
実際にこの“虐待”をされたら、子どもはどうなるだろうか。
答えは当然…。
・
「はぁ…。」
辺りが肌寒くなり、冬の準備をはじめる季節。
わたしはいつものように“執行対象リスト”を開きながら、白い息を吐く。
今回の“対象者”は、〈佐藤 みよ〉
年齢は6歳。
普段は母・弟の3人暮らしだが、母親は数週間ほど前から帰宅していない。
そのため、今は対象と2歳下の弟が1人、家にいるだけだ。
もちろん、満足に食べるものなどなく、お腹を空かせた弟のために、対象がスーパーなどから食べ物を“万引き”して、命を繋いでいる。
ただ、一度に盗める量は少なく、盗んだものはほとんど弟に与えていたため、自分が栄養失調の状態となり、現在は、歩くことはおろか、立つこともままならなくなっている。
『今回は“いろいろ”と大変な仕事になりそうね。』
禍々しい大鎌を握り締めながら、わたしは対象のいるアパートへと向かった。
・・・
『お腹すいた…』
もう何日も食べ物を食べていない気がする。
水道の水はずっと前から止まっていて、蛇口をひねっても“悲しい雑音”を響かせるだけだった。
せめて、弟には何か食べさせてあげたいのに、身体に力が入らず、立つことも出来ない。
私の隣には、同じくお腹を空かせた弟がいる。
不安そうな顔で私を見つめ、心配してくれているみたいだった。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「…だぃじょぶ、だよ…。…ごめんね。お…なか、すいたよね…。」
「…ううん。大丈夫だよ。だからお姉ちゃん早く良くなって。」
「あ…りがと…。」
言葉ではそういうが、お腹は正直だ。
日に日に大きくなる“お腹の音”は、弟の今の状態を必死に訴えていた。
「……?こうた…?」
弟の異変に気づく…。
いきなりピクリとも動かなくなり、お腹の音も止んでいた。
まるで“時間が止まっている”みたいに。
「あなたが“佐藤 みよ”ね。」
「…!?……だ、だれ…!?」
「わたしは死神“ソワレ”」
「………え?」
気がつくと、目の前に綺麗な女の子が立っていた。
全身が黒で統一された“ゴスロリ”風のワンピースに、長い銀髪が印象的だった。
ただ、右手に持っている大きな釜が、私に“恐怖感”を与えてくる。
「わたしはあなたに“罰”を与えに来たの。」
「……ばつ?」
「そうよ。…でもその状態だと、話が終わる前に死んでしまいそうね。…仕方ないわね。」
死神さんはそう言うが早いか、私に釜を振り下ろす。
「きゃあぁぁぁぁぁっ!?」
「安心しなさい。物理的な“ダメージ”はないから。…それに、かなり楽になったでしょう?」
「…え?」
私は“飛び起きる”と、身体の状態を確認する。
身体はどこも痛いところはなく、むしろこれまであった苦しさや、空腹な状態が無くなり、“元気になった”気がする。
「“6歳”ね。…予想通りだわ。」
「なんで、身体が…。」
「この釜は、対象者が罰を受けるのに“支障のない状態”へ変更する魔法があるの。」
「……死神さん、…罰ってなに?」
「あなたは何度もお店から食べ物を盗んでいたでしょ?…その“罪”に対して、“罰”を与える必要があるの。」
「…で、でも、そうしないと私達、お腹がすいて死んじゃってたんだよっ!
……それは、悪いことだってもちろんわかってたよっ!…でも、仕方ないじゃんっ!ほかに方法が無かったんだよっ!」
そう。これは“生きる”ために仕方のなかったことだ。
だって、“これ”をしなかったら、私達は、今頃…。
「罪は罪。罪には罰よ。そこに例外は存在しないわ。」
「じゃあ、どうすればよかったのっ!?…そのまま死んじゃった方がよかったっていうのっ!?」
「それは知らないわ。わたしの仕事は、罪がある者を裁くことだけだから。
…さあ、話を戻すわよ。今のあなたには2つの選択肢があるわ。」
「私の話はまだ終わってないっ!!」
「いいから聞きなさい。…一つは、“お仕置き”を受けてこれまでの罪を償うこと。
もう一つは、罪を償わず、このまま“魂”を刈られること。」
「……。」
怒っているせいもあり、死神さんの言ったことが、理解できなかった。
“おしおき?”、“かられる?”
なんで私がそれを受けなくちゃいけないのだろう…。
「ちなみに、お仕置きを受けた後は、これまで通りの生活を送れるわ。」
「…。」
「でも、それを拒否して魂を刈られた場合、あなたという“存在”は消滅して、この世にも、あの世にも居なくなるわ。」
「……。」
死神さんは、自分の髪を“くるくる”と指で回している。
説明は聞いたけど、やっぱりお仕置きを受ける理由が見つからないままだった。
「どうするの?」
「…受けない。おしおきなんていやっ!」
「…そう。じゃあ、弟をこのまま残してあなたは消えることになるわ。」
「…こうた?」
私は弟の方を見た。
身体は痩せて、元気がないように見える。
このまま私がいなくなったら、こうたは…。
『…死神さんなら、もしかしたら、私の身体みたいに、こうたを治せるかもしれない。』
その考えが思い浮かんだとき、私の中に“ある決心”が生まれた気がした。
「…死神さん。私、お仕置き受ける。…だからこうたを助けてっ!」
「それは、“わたしの”仕事じゃないわ。」
「お願いっ!ちゃんと受けるからっ!お願いしますっ!!」
自然と涙が出て、死神さんに泣きつく。
弟を助けられるなら、どんなことでも耐えられる自信まであった。
「…じゃあ、お仕置きを素直に受けられたら、特別に“ご褒美”をあげるわ。」
「こうたを助けてくれるのっ!?」
「ご褒美の内容は、秘密よ。どう捉えるかはあなた次第ね。」
「…。」
正直、今の私は死神さんの言葉を信じるしか方法がない。
私は“動かない”こうたを抱きしめると、死神さんの方へ向き直り、決意を固めた。
「お仕置きを受けます。…受けさせてくださいっ!」
「そう。決定ね。」
死神さんは指を鳴らすと、何もなかった場所へ“白いもや”がかかる。
もやが、晴れるとそこには“ふかふかの白い椅子”が現れた。
私が口に手を当て驚いていると、死神さんが“ポスッ”とそこに座る。
「さあ、お尻ペンペンのお仕置きよ。膝の上に来なさい。」
「……お尻ペンペン?」
“ポンポンッ”と自分の太ももを叩き、私を呼ぶ。
予想外のお仕置き内容に、動揺を隠すことができなかった。
もっとこう、怖くて痛いことをされると思っていたけど、子供が受けるお仕置きみたいで安心してしまったくらいだ。
「…甘く考えてるのかも知れないけど、“すごく痛い”わよ。今のうちに覚悟を決めておきなさい。」
「…はい。」
私は“恐る恐る”死神さんのお膝の上に腹ばいとなる。
ふんわりと優しい柔らかさが私を受け止め、“これからお仕置きを受ける”とは思えないくらいだった。
“スルッ”
使い古されて“ボロボロ”なズボンとパンツが膝上まで下ろされた。
“スースー”する感覚で、久しぶりに恥ずかしいという気持ちが込み上げてくる。
“ペンペンッ”
「じゃあ、始めるわよ。お尻叩き60回、しっかり受けなさい。」
「はい…。」
バヂンッ!
「いっだいっ!」
「1つ。」
刺さるような痛みがお尻広がる。
手が離れると、“ジーン”とする感覚がお尻に残り続けていた。
「し、死神さんっ!いたいっ!いたすぎるよっ!!」
「すごく痛いってさっき言ったでしょ?…ほら、次いくわよ?」
「ちょ、ちょっとまっ…」
パァンッ!
「ひいぃぃっ!」
「2つ。」
再び、与えられた痛みに、私の身体が跳ね上がる。
確かにすごく痛いっては聞いてたけど、ここまで“痛い”とは思っていなかった。
バシッ!バヂンッ!
「きゃあぁぁっ!」
「3つ。4つ。」
平手の衝撃が、左右のお尻に響き渡り、私の目から涙がこぼれ落ちる。
つい、痛さから、右手でお尻をさすってしまう。
「こらっ。ダメでしょ。ちゃんと受けなきゃ。」
「グスッ…。ごめんなさい…。」
「今回は見逃してあげるけど、ちゃんと受けられないなら、“ご褒美”はあげないからね。」
「ご、ごめなさいっ!?」
“ご褒美”の言葉が出て、私は、急いで手を戻す。
『ここで頑張らないと、こうたは助からない…。』
その思いが、私を心を突き動かしていた。
バシッ!バシッ!バッヂンッ!
「いだいぃぃっ!!」
「5つ。6つ。7つ。」
右・左・真ん中の順で、平手が当たる。
特に最期、真ん中への一撃が、特に痛く、庇いそうになる手を必死に握り、我慢していた。
バッヂンッ!バッヂンッ!
「ん゛っ!あぁっ!!」
「8つ。9つ。」
今度は、左右に1発ずつ、強めの痛みが与えられる。
少しでも痛みを逃がしたくて、“もじもじ”してしまうと、死神さんの背中を抑える左手が“グッと”強くなり、動けなくなってしまった。
バッヂィィンッ!!
「あぁぁぁっ!!」
「10。」
お尻の真ん中へ、これまでとは比べものにならないほどの衝撃が走った。
一瞬、焼け付くような感覚と、その後、残り続ける“ジクジク”とする痛みが、私の身体から汗を拭き出させる。
・
その後も平手打ちは続き、その度に、私の身体は跳ね上がった。
30発目に差し掛かるころ、私の頭の中に映像が流れ込んでくる。
…どうやらそれは、これまで私が食べ物を盗んだスーパーの、“その後”を撮った映像のようだ。
どのスーパーの人も、“金額が合わず”困っているようだった。
…これまで、私が考えないようにしてきた光景が、頭の中に広がり、“罪悪感”が溢れ出しそうになるのを感じた。
「死神さんっ!ごめんなさいっ!…食べ物を盗んで、本当にごめんなさいっ!!」
「あなたがきちんと罪を償えたら、許してあげるわ。…あと、半分くらいだから頑張りましょう。」
「…はい。お仕置きの続きお願いします。」
死神さんは、私のお尻を優しく撫でてくれるが、すぐにその手は離れる。
バッヂンッ!パァン!
「い゛っ!ん゛っ!」
「31。32。」
相変わらずの痛みが、私に降りかかる。
でも、こうたのためのほかに、“反省すること”も見つかり、
『しっかり受けなきゃっ!』という思いが芽生えてくるのを感じた。
・
「最期の3発は本気で叩くわ。…これで最期だから、頑張りなさい。」
「グスッ…はい、おねがいじますっ!」
バッヂィィィンッ!!
「いっだぃぃっ!!」
「58。」
バッヂィィィンッ!!
「だいぃぃぃっ!!」
「59。」
バッヂィィィンッ!!
「ごめんなざぁぁいっ!!」
「60。」
3発とも、お尻の真ん中の同じ部分に当たり、私の身体が飛び跳ねた。
一瞬の“熱さ”と、かなりの痛みが、いまだに襲いかかってくる。
「うぐ…、グスッ…。」
「おしまいよ。よく頑張ったわね。」
死神さんから、抱き起こされ、そのまま胸に抱き寄せられる。
頭を優しく撫でられるこの感じは、かなり昔に体験した“お母さんの温もり”を感じさせてくれるようだった。
「死神さん。…ご褒美は?……こうたを助けてくれるっ!?」
「それは、“いずれ”わかるわ。…いまはもう“寝なさい”。」
「お願い。…死神さん。お願い…。」
なぜか、意識が遠くなって、目が“しょぼしょぼ”としてきた。
最期の力で、死神さんを精一杯抱きしめるが、ついに目の前が暗くなってしまう。
・
「…え?」
気がつくと、そこは“いつもと変わらない”室内だった。
この一瞬の間に何かあった気がするが、何も思い出せない…。
…ただ、いつもと違うのは、さっきまで、私を心配してくれていた弟が、床の上で倒れていることだ。
私は頭が真っ白になる。
「い…や、こうた…いや…。」
弟を起こそうとするが、体に力が入らず、触れることさえできない状況だった。
『う…うそつきぃ…。』
“何故か”頭の中にこの言葉が浮かび、静かに目が閉じていった。
・
「……ん?」
静かに目を開けると、そこは見知らぬ天井だった。
『…ここは、どこだろう。』
状況を確認しようと、身体を動かすが、“だるさ”が襲い、上手く動かせない。
なんとか、首を動かし横を見ると、そこには白いベッドに寝ているこうたがいた。
「こ、こうた…。こうたっ!!」
必死で名前を呼ぶが、気づいてもらえない。
ただ、息はあるようで、静かな寝息が私の耳に届いた。
「みよちゃん、起きたのねっ!」
声のした方を見ると、そこには“看護師さん”であろう、女の人が部屋に入ってきた状況だった。
「こうたくんは大丈夫よ。いまはただ、寝ているだけだから。」
「…よかった。」
「本当に弟思いなのね。…あなたのことは聞いているわ。
3日前、みよちゃんの隣の部屋の人が、何故か、“胸騒ぎ”がして、様子を見にきたみたいなの。
幸い、“鍵は開いて”て、中に入ったら、みよちゃん達が倒れてたの。
それから、大急ぎで救急車を呼んで、なんとか間に合った状況だったのよ。」
「そうだったんだ…。」
「これは、後で詳しく説明されるだろうけど、…これから、みよちゃん達は、しばらく入院して、元気になったら退院するわ。
その後は、“施設”というところで、生活していくみたいよ。……詳しい話は、後で聞いてね。」
「…はい。ありがとうお姉さん。」
「きちんとお礼が言えるなんて、いい子ね。…じゃあ、お姉さんは先生を呼んでくるから、ちょっと待っててね。」
「はーい。」
看護師さんが部屋を出て、再び部屋が静かになり、こうたの寝息が聞こえる。
少し、状況が掴めないことはあるけど、とりあえず、安心した自分がいた。
『嘘つきって言ってごめんなさい。……ありがとう。』
また、頭の中に言葉が浮かんでくる。
『幸せになりなさい。』
…不思議と、頭の中にこの言葉が響いた気がした。
・・・
「はあ?お仕置き?…なんであたしがそんなの受けなくちゃいけないのよ?」
夕方の路地裏、人気のない場所に、“年齢に似合わない”派手な衣装をまとった15歳の少女と、ゴスロリの服をまとった銀髪の少女が対峙していた。
「あなたは、自分の子供の育児をせず放置したでしょ?…そして、その子達を“死なせかけ”、結果、万引きまでさせることになった。…それが、あなたの“罪”よ。」
「そんなの知ったことじゃないわよっ!あたしは何もしてないでしょっ!!…大体、あいつらがいるせいで、出来た男もすぐいなくなるし、あたしが迷惑しているくらいよっ!!」
「その、“なにもしなかった”ことが一番問題なのよ。…それに、子の罪は、親の罪でもあるわ。」
「だから、知らないっていってるでしょっ!!」
「…そう。じゃあ、お仕置きは受けないのね?」
「当たり前でしょっ!!それより、早く元に戻しなさいっ!!…こんな見た目じゃ“お店”にいけないでしょっ!」
「……そう。…残念ね。」
銀髪の少女はそう言うと、右手に持っていた“釜”を振り抜いた。
「きゃあぁぁ……。」
“ドサッ”
一瞬の悲鳴が聞こえたのち、“年相応の服装”をした女性が倒れた。
「………本当に、“残念”だわ。」
銀髪の少女は、冷たい目でそう言いおろすと、手に持っているリストへ“執行完了”と記載する。
…その後、銀髪の少女の姿は消え、路地裏には、二度と目覚めることはない女性が1人、残されるのだった…。
「完」
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