無口な婚約者の本音が甘すぎる

群青みどり

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2.婚約者を知りたくて①

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「ん~、美味しい!」

 目的の店に着き、早速私は今月の新作である桃のケーキを頬張る。
 前回のいちごと負けず劣らず美味しくてクセになりそうだ。
 糖分を摂取できたおかげで元気を取り戻す。
 我ながら単純だと思うが、先程の不安が嘘のように消え、今では前向きに考えられていた。

(そもそも私、アクア様について知らないことが多いかもしれない……)

 婚約した当初はアクア様のことを知ろうと、何度か質問したことがある。
 好きなものについてや、趣味、友人関係について……と私なりに頑張って尋ねた結果、返ってきたのは「特にない」といった素っ気ない言葉の数々で、話を広げられなかった。

 さすがの私も心が折れてしまい、以来アクア様に関する質問はやめてしまっていた。
 しかしそれはあくまで幼い頃の話。
 今は社交界デビューをして、多くの貴族たちと交流し、それなりに話のスキルも上がっているはずだ。
 今ならアクア様のことについて尋ね、そっけない返事がきても話を広げられそうな気がした。

(進展したいのなら、まずは相手を知らないと!)

 あくまで自然に、相手の話を聞き出そうと目論む。

「そういえば先日、友人と街で……」

 まずはいつものように自分の話を持ち出し、会話を広げる。
 その中でさりげなくアクア様に尋ねるのだ。

「アクア様は休みの日に街へ行かれたりしないのですか?」

 ここで恐らく「行かない」という返しが来るだろう。
 その後の会話のパターンを何通りも考える。

「……街にはたまに行く」
「でしたら普段は何を……え?」

 想定外の返答に少し固まってしまったけれど、慌てて仕切り直す。

「そ、そうなのですね! 何か目的があって行かれるのですか?」
「最近だと洋装店に」
「まあ素敵! アクア様はどのような基準で服を選ばれますか?」
「最初は似合う色や形を探すようにしている」
「色や形、大切ですよね!」

 最初は、という言葉に引っかかりながらも、アクア様は服にこだわりを持つ方なのだと知る。
 新たな発見ができて嬉しい。

「……桃色の髪に空色の瞳は柔らかく明るい印象だ。今のような淡い緑のドレスや、黄色のドレスも似合うだろう」
「桃……空?」

 アクア様はいったい何の話をしているのだろう。
 その色の主って私を指している気がする。
 けれど今は、アクア様の服選びのポイントを聞いているはずだ。

「華奢な白い腕を見せた方が、きっと可憐な君に合っている」

 やっぱりアクア様はなぜか私の話をしていた。
 それはつまり──

「アクア様は私のドレスを選びに街へ行ったのですか……?」
「ああ。来月、王宮舞踏会があるだろう。それに向けてドレスを見繕った。今頃君の家に届いているはずだ」

 どうやら今月の贈り物はドレスのようだ。
 いつも高価な物を贈ってくれて申し訳なくなる。
 私も贈り物を用意していた時期があったけれど、これも「好きでやっているだけだから必要ない」と断られてしまった。

(そっか……ドレスはアクア様が私のためにわざわざ街へ足を運んで……)

 他の贈り物もそうかもしれないと考えると、やっぱり大切にされていると実感する。

「いつもありがとうございます。アクア様が選んでくださったドレスを着るのが楽しみです」
「王宮舞踏会は毎年多くの貴族が集まる。今回は君に似合うものを選んだつもりだから安心してくれ」
「……?」

 似合う……安心? とアクア様の言葉に不思議がっていると、彼が私のネックレスに視線をやる。

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