テリオス・フィリア

幻田与夢

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PHASE4 フィリア・ドライブ

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@横須賀軍事基地

「おいおい、洒落になってねーぞ、これ」
「こ、こんなにいるんですか・・・」
戦地に到着したハルスとシエルが現状を目の当たりにし、敵の多さに驚愕した。
彼我戦力差は7:3といったところで、見るからに不利と言える状況だった。
「四の五の言っていても、仕方がないね。各個撃破に持ち込むのが得策だ。ハルスとシエル、デンジとゴーシュのツーマンセルで殿を頼む。僕は遠方の敵を狙撃して、攻撃の波を緩めよう」
Λ小隊の各機が散開する。
「しゃーないわな、いっちょやったりますか!」
「に、逃げちゃ駄目ですもんね・・・!」
ハルスとシエルの二人はやっとの思いで一体ずつ捌いていく。
被弾を惜しみながらも迎撃する二人とは、また対照的な二人も前線に立つ。
「数は多いが、ピュラクス級だ。落ち着いて迎撃するぞ、ゴーシュ」
「了解だ、デンジ」
互いに死角を援護し合いながら、凄まじいスピードで撃破していく。
ゴーシュは接近戦を、デンジは射撃戦を得手とし、相性が良かった。
「うかつだぞ」
「ありがとう。助かったよ」
「・・・・・・・」
(あの二人、上手く連携が取れている。この調子なら、なんとか押し返せるかな・・・)
彼ら二人の活躍もあり、ヘレネスの侵攻も少しずつ抑えられてきた。
イヴァンもそれを見て、一縷の希望を持ったが、それと同時にある違和感を覚えていた。
(しかし、妙だな。攻撃や戦法が単調すぎる。ヘレネスはまだ本領を見せていないのか?)

@ 太平洋沖 空中 カサンドラ内部

『アルトリオ卿、君は何を手こずっている』
「も、申し訳ありません!持てる限りの戦力は投入してはいるのですが・・・」
『力押ししか能がないのか、君は。卿も無い知恵を振り絞って、戦ってみ給え』
「は、はい、善処致します、ゼグド宰相・・・」
ヘレネス皇国の中で日本を侵略の拠点としているのは、辺境伯のアルトリオ・ノルマ。通信越しにゼグドに詰められていた。
(くっ、私よりも年下で、下層階級出身のくせに・・・!)
『まあ、卿の責任は私の責任でもある。そちらに援軍を遣わした。上手く使ってくれ給え』
「か、感謝します。次こそ彼奴等を仕留めて見せましょう・・・」
『ふふ、期待しているよ、アルトリオ卿』
モニターの通信が切れ、アルトリオは苛立ちと焦りを露にする。
「まずい、まずい、まずい、まずい、非常にまずい!このままでは私の面子が丸つぶれではないか!」
近くの者に怒鳴り散らすように、八つ当たりをするアルトリオ。それを従者に宥められていると、一人の少年の呆れ顔で近づいてくる。
「うるさいなぁ、静かにしてよ。折角加勢に来たのにさ、やる気なくしちゃうな」
「ゼ、ゼナム様!宰相殿のご子息である、あなたがなぜここに。!・・・もしや援軍とは」
「そ、僕だよ。父さんたら息子使いが荒いんだから。まあ、僕も好きでここに来たんだけどさ」
「ああ、あなたが来てくれれば百人力です!共にバーバリアン共を駆逐していきましょう!」
握手を求めるアルトリオ。ゼナムはそれに嫌悪感を露にし、拒絶の言葉を口にした。
「僕ってさぁ、あんたのような大人嫌いなんだよね。だーかーらー、僕は好きにやらせてもらうよ」
カサンドラの格納庫へと向かうゼナムを眺め、アルトリオの苛立ちのバロメーターが吹っ切れた。
(っ!あの親にしてこの子ありか!私をどれだけ虚仮にしたら気が済むのだ・・・!)

「ねえ、戦況ってどんな感じなのさ?」
ゼナムが兵士の報告を頷きながら聞き、ニヤリと笑みを浮かべた。
「そっかぁ、なら僕がこの流れを変えてあげよっと。僕の《カシオペア》のお披露目といこうか」
艦内の兵士たちもゼナムの出撃準備を手伝い、ゼナム自身も専用機である《PDー12 カシオペア》へと乗り込みんだ。
「フィリア・ドライブ、出力安定」
光の粒子が散布され、《カシオペア》が上空より降下していった。

「さあ、お楽しみの時間だぁ・・・!」


@ 横須賀軍事基地

『敵機接近、敵機接近』
「方角は・・・?」
ナグが索敵を開始し、方角を告げた。
その方角は・・・
『上です』
「!」
ゴーシュ、間一髪で緊急回避に成功。
砂煙が巻き上がる中、禍々しい光と粒子が拡散され、その姿を現す。
「何だあれは・・・!?」
「し、新型なのか・・・?」
「でも、綺麗・・・」
未確認のヘレネスを目にし、たじろぐ者も多かった。
外装は白銀の鎧を纏っており、その風貌はまるで舞い降りた天使のようだった。
「見たところ、目標は丸腰だ!全機一斉射撃!」
Λ小隊を含めた出撃部隊が一斉に銃弾の雨を浴びせる。
しかし、展開されていたバリア・フィールドによって、全弾弾かれてしまう。
《カシオペア》のコックピット内では、大きな溜息を吐いた後、目標を見つめる。
「力の差が理解できていないなんて、愚かな人種だね」
白銀の天使が掌を正面に向けると、掌に光の粒子が集まっていく。
それを見て、ナグが警告する。
『防御を推奨します。可能ならば回避を』
「何を言っ・・・・・・」
その時、凄まじい衝撃が軍事基地全体に響き渡った。
見ると、別動隊のパノプリア数機の上半身が消失していた。

「何が起きた・・・!?」
『フィリア・ドライブを攻撃に転用し、前方へ衝撃波を飛ばしたのでしょう』
(そんなこともできるのか・・・いや、思ったことが現実になるんだったな)
見よう見まねで《アキレウス》の掌をヘレネスへと向ける。
(なら、こいつも使えるはず・・・!)
攻撃するイメージを浮かべ、強く念じてみた。
・・・しかし、何も起きない。
「・・・不発!?」
ゴーシュがその結果に疑問を抱いていると、ナグがまたもや小言を言う。
『フィリア・ドライブを使用する際には、凄まじい精神力を必要とします。効果もそれに比例し、増大させることが出来ます。ゴーシュ、あなたの気持ちが足りないのでは?』
「っ!AIが気持ちを語るのか・・・皮肉だな」
『心無い方ですね』
「お前が言うな・・・フィリア・ドライブっていうのが使えないなら、それなしでも戦ってやる」
《アキレウス》が散弾銃を発砲しつつ突撃し、敵との間合いを詰めていく。
ゼナムはゴーシュの突撃を愚行と捉え、
「むざむざ死にに来るなんて、見苦しいにも程があるよ」
と吐き捨てると、向かってくるゴーシュに向け、再び掌を向ける。
「そんなに死にたいなら、望み通り殺してあげるよぉ!!」
掌から光弾が放たれた。
「!」
ゴーシュは瞬時に回避行動へ移行し回避に成功した。
続く《カシオペア》の第二波。間髪入れず光弾が放たれていく。
落ち着いて対処すれば、回避は難しくない、ゴーシュはそう悟り、回避しつつ、尚も接近していく。

「ゴーシュ!前に出過ぎだ!」
デンジが忠告するが、ゴーシュには届かなかった。
(全くはあいつは・・・!俺の気も知らないで・・・!)
「で、でも、ゴーシュ君、敵の攻撃全部避けてますよ・・・」
「援護したいところだけどっ!この数じゃねぇ!」
シエルとハルスも小隊内で通信しつつ、ヘレネスを迎撃している。
その最中、イヴァンがデンジに指示を出す。
「・・・デンジ、君がゴーシュを援護してくれ」
「!しかし、持ち場を離れることなど・・・!」
「僕が持ち場を交代しよう。今なら何とか大丈夫そうだからね。君ならできるだろ?それに・・・」
デンジは静かに返答を待った。
「親友、なんだろ、彼は・・・!」
デンジはハッとさせられる。
「・・・はい!Λ2、これよりΛ5を援護します!」
(それまで持ち堪えろ、ゴーシュ・・・!)
デンジの《パトロクロス》が疾駆した。

《アキレウス》は少し被弾してしまったものの、直撃を避けており、ついに零距離まで間合いを詰めた。バスター・エッジを取り出し、敵を切り裂こうとしていた。
ゼナムは焦りと同時に死への恐怖を感じていた。
「な、何!?うわあ!!」
一閃。しかし、その斬撃すらもバリア・フィールドにより防がれてしまった。
「ぐっ、ううぅぅ!!」
「ふ、ふふ。驚かせるなよ、この僕を!」
ゼナムは自らの無事を確認すると、すかさず反撃に移った。
「!不味い!」
ゴーシュは攻撃の隙をカバーできず、焦燥感に駆られ、内心追い込まれいた。

このままだと直撃は免れない。あのバリアだって展開できないだろうし。
・・・これで終わるのか、僕は・・・。何のために戦っている・・・。誰のために・・・。

『私を守るんですよね!』

「!」
どこからともなくノヴァリスの声が聞こえた。

『私を守るんですよね!』
その声が心に反響する。ノヴァリスさん、僕は君を・・・

「ああ、守る!絶対にだ!」
その時—《アキレウス》から鮮やかな光が放出されていく。

「ゴーシュ!!」
親友の危機に、デンジは彼の名を叫ぶ。
デンジもゴーシュへの直撃は免れないと考えていた。だからこそ、一縷の望みに懸けていた。
「ゴーシュ!避け・・・!」
大きな爆音と爆風が巻き上がった。
デンジは爆風に視界がくらんでしまい、ゴーシュの安否をすぐには確認できなかったが、すぐに安堵の声を漏らした。
「ゴーシュ・・・!」

『フィリア・ドライブ発動。バリア・フィールドの展開に成功しました』
《アキレウス》からバリア・フィールドが展開され、《カシオペア》の光弾を防いでいる。
フィールドのぶつかり合いにより、両機体は反発し遠ざかった。
《カシオペア》はその衝撃で仰向けに倒れた。
ゴーシュは何が起きたのか、理解できずにいた。
「どうして急に・・・」
『やはり、ノヴァリス皇女殿下の声がトリガーでしたか』
「お前・・・、もしかして』
『彼女との会話を録音させていただきました。私の推測通りです』
ゴーシュはナグの発言に少し気後れした後、ナグに対する認識を改める。
このAIは、否、ナグという存在はそんじょ其処らのAIとは違うのだと。
『彼女を守るのでしょう、ゴーシュ』
「ああ、そのつもりだよ」
『その意気ですよ』
半ば煽っているようにも聞こえるが、今はその軽口が自分の力になっている気がした。
決意と共に、操縦桿を強く握りしめる。
「だから、僕に力を貸してくれ、ナグ。あの新型を撃退する!」
『了解』
《アキレウス》の眼光が眩く煌くと、各部の装甲が展開し始める。
装甲の隙間からは、《カシオペア》と同じような光の粒子が宙に舞う。

@ キヴォトス極東支部運用強襲揚陸艦《ベレロフォン》 操縦室

「ふう。前線班のおかげですね」
ヘレネスの攻撃の波が緩まり、エルガーも一息を付いた。
その隣で、ノヴァリスはモニター越しにゴーシュ達を見守っていた。
それを見かねたエルガーが彼女に声をかけた。
「ゴーシュ君が心配ですか?」
「・・・はい。ゴーシュさんは私を守る、と言ってましたから」
「ノヴァリスさん、あなたもヨーロッパからの疎開者だと、ゴーシュ君から聞いています」
ノヴァリスはゴーシュが色々と口裏を合わせてくれたのだと思い、またもや世話になってしまったのだと、彼に対して少し申し訳なくなった。
(ゴーシュさんには助けられてばかり・・・。私は何も返せてない・・・)
「・・・でも、羨ましいです。あなたのために命を賭して戦う人がいるのですから」
エルガーはノヴァリスから視線を逸らし、モニターを眺め始めた。
ノヴァリスは彼女の意味深な発言を聞いて、口を半開きにしてしまう。
「・・・私の婚約者は、ヘレネスの襲撃で殺されました」
「えっ・・・」
虚空を見つめ、話を続けるエルガー。
「仇討ちという訳ではないのですが、ヘレネスを駆逐していく事があの人への手向けになると思いましたから・・・」
ノヴァリスはただ黙って話を聞いていた。お互いに暗い雰囲気になりそうなのを察して、エルガーは軽く咳払いをした。
「だからこそ、今は精一杯戦っていくだけです。大切な物を、大切な人を守るためにできることをやっていきましょう、ノヴァリスさん」
ノヴァリスは自分のことを配慮したうえでの言葉であることは重々分かってはいた。今は複雑なままエルガーの思いを呑み込むことにした。
「・・・はい。頑張ります」


《カシオペア》が地面から起き上がり、《アキレウス》と対面する。
「この僕が・・・、バーバリアン如きに押されてる・・・?」
光の粒子と共に空気が《カシオペア》の周囲に舞い上がる。まるでゼナムの感情を表すかのように。
「ふざけるなよ!この劣等種がぁぁ!!」
《カシオペア》は高速で接近してきている。対するゴーシュは迎え撃とうと、バリア・フィールドを再び展開させる。
(彼女を守るんだ!絶対に!)
フィールド同士がぶつかり合う。その時、互いの意識が交錯する。
(これは・・・・・・がっ!)
突然ゴーシュに激痛が走る。全身がズタズタに引き裂かれるような痛みだった。
自分の胸を鷲掴みにする。
それと同時に、微かに声が聞こえる。
(この!虫ケラ同然の!劣等人種!・・・お前らはなぁ!僕より下なんだよぉ!殺してやる!殺してやる!殺してやるぅぅ!!)
(・・・!)
聞こえてきたのは誰とも知らぬ若々しい声。感じたのは、狂気と間違えるほどの・・・敵意。
(こんな奴を・・・彼女に近づけさせるものか・・・!)
狙いを澄まし、発砲。
フィールドの隙間を縫って、弾丸が《カシオペア》の元へと届いた。

《カシオペア》、左腕損傷。
「う、うわぁっ!!・・・何だよ、ちゃんと動けよ《カシオペア》ァァァ!!」
危険を察知したのか、ゼナムは図らずとも距離を取った。
周囲のヘレネスもゼナムの下に集まり、冷静さを失いつつあった彼を諫めていた。
部下は撤退を推奨し、運搬用の戦闘機を呼びよせて、ゼナムと共に上空へと避難する。
「うるさい!撤退などするものか!これでは父さんに合わせる顔が・・・」
ゼナムは片意地を張って戦闘を続けようとすると、前方のヘレネスが爆発した。
爆風の奥から見えたのは《アキレウス》。バスター・エッジを投擲し、敵を撃墜したようだ。
『目標を捕捉しました』
「逃がさないぞ」
光の粒子が銃口へと収束していく。上空へと狙いを澄まし、《カシオペア》を見つめる。
「発射!」
『発射』
凄まじい反動で《アキレウス》は仰け反ってしまったが、ゴーシュの思いも乗せて、最大出力の弾丸が飛んでいく。そして・・・
「う、嘘だ!バーバリアンにこの僕が・・・!」
大きな衝撃が轟き、爆散。その各部が海へと散って落下していった。
ゴーシュはその様をただ静かに見つめていた。
『敵機の撃墜を確認しました』
「ふう・・・・・・」

「ゴーシュ、無事か!」
遠くからデンジの駆る《パトロクロス》がヘレネスの残党を撃墜しつつ、近づいてきた。
「うん、なんとかね」
澄ましたように答える。
「そうか。なら良かった」
デンジは胸を撫で下ろすや否や、声色を変えてゴーシュを諭し始めた。
「ゴーシュ、むやみに前に出るな。一人で戦っている訳じゃないんだ。俺達はある意味で対ヘレネス用の軍隊のようなものだ。統率を失った者から死んでいく」
「でも、勝ったよ」
「っ!・・・お前は昔からそうだ!いつも一人でやろうとして、いつも無茶ばかりして・・・!」
淡々と返すゴーシュにデンジは感情を露にし、自分の思い出の中のゴーシュを引き出す。
傍から見れば怒っているというよりは叱っているというように見えるだろう。そんなデンジの姿を目の当たりにして、謝辞を述べた。
「ありがとう」
「・・・感謝される覚えはないんだが」
「僕を心配してくれているんだろ?」
「・・・当然だ。友達、だからな・・・」
そっぽを向くように、ぎこちなく返した。ゴーシュはそれを聞いて、僅かながら笑みを浮かべていた。

ゼナムの《カシオペア》が撃墜され、ヘレネスの軍勢は指揮系統を失い始めた。そのほとんどが被撃墜か撤退を余儀なくされた。
かくして、此度の戦闘はキヴォトスの辛勝という形で終わりを告げた。

キヴォトスの格納庫へと戻り、ゴーシュが《アキレウス》のコックピットから降りようとしたとき、ナグが労いの言葉をかけた。
『お疲れ様でした。ゴーシュ・・・。おや、どうしましたか?』
「・・・お前は一体何者なんだ?」
『私はこの《アキレウス》のOSです。それ以上でも、それ以下でもありませんよ』
ゴーシュは機械にこれ以上時間をかけるのも、馬鹿らしくなってきたので、特に問い詰めはせず、ただ一言だけ添えて、その場を離れた。
「・・・だよな。君もお疲れ様、ナグ」
ゴーシュが皆の元へと急ぎ駆け寄って行った。
『・・・・・・”君”ですか。可笑しな人ですね』

「皆さん、突然の戦闘ではありましたが、なんとか勝利を飾ることが出来ました。皆さんのおかげです、ありがとうございます」
ブリーフィングルームでは、エルガーが皆に向けて今回の戦闘の総括をしていた。祝勝の雰囲気を醸し出している部隊を労いながらも、喝を入れた。
「しかし、褒められるような戦果ではないことも確かです。戦場で命を散らした者達への弔いの意を込め、極東支部全体で1分程黙祷の時間を持ってください」
それを聞いたゴーシュは改めて気付かされる。自分達がやっていることは戦争なのだ、と。
そして、彼だけがこのようにも思った。
(・・・ヘレネスも人間。なら、僕は人殺しをしたことになるのか・・・?)
黙祷を止める合図。
「黙祷、ありがとうございました。私たちは死んでしまった者の思いを越えて、思いも連れてここにいることを忘れぬよう心に留めておいてください」
エルガーは深々と静まり返った部隊を見て、所感を報告し始めた。
「今回の戦闘、新型のヘレネスも確認されました。その個体は特殊兵装を持っているとのことでした。あれが大量に投入されたとしたら、と思うと気が気でいられません」
(あいつか・・・)
《カシオペア》のことだと、ゴーシュは対峙した当人であったため、真っ先に思い浮かべた。
戦闘中に聞こえた声がまだ耳に残っている。そう簡単には忘れることはできない。あの剥き出しの敵意。考えるだけでゾッとしてしまう。
(・・・でも、ノヴァリスさんを守るためだ。ごちゃごちゃ考えるのはやめよう。それに・・・正当防衛だしね)
ゴーシュは簡単にマインドセットし、エルガーの話に集中し始めた。
「私たちは彼らのためにも生きなければ・・・、戦わなければなりません」
「きっとこれからも死力を尽くさなければ勝てないでしょう。我々は団結し、一つになって明日を迎えましょう!」
拍手が巻き起こり、エルガーは静かに会釈をし報告を終えた。

「ゴーシュさん!無事でよかったです!」
解散した後、廊下でノヴァリスが隣に現れ、ゴーシュと歩幅を合わせながら歩いている。
彼女は何も言葉を発さず、ただゴーシュを見つめては、目を逸らすことを繰り返してていた。それを不思議に思ったゴーシュは自ら彼女に声をかける。
「・・・ノヴァリスさん?」
「すみません。不快な思いをさせてしまいましたか?」
「いや、そんなことはないです。ただ何かあったのか、と思って」
ノヴァリスは再びだんまりとした後、心中を明かした。
「ヘレネスって、こんなにも目の敵にされているのですね。覚悟していたとはいえ、これは・・・堪えます」
「・・・僕にはよく分からないけど、それが普通の感覚なんでしょうね。ヘレネスは憎むべき敵、という図式が人類の中にできあがっている・・・」
ゴーシュも思いのままに返答した。するとノヴァリスの顔がゴーシュの顔に急接近する。彼は思わず少し後ずさった。
「ゴーシュさんは、ヘレネスをどう思いますか?私をどう思いますか?」
姿勢を正し、しばし黙考するゴーシュ。
「・・・どうもこうも。君は君だ。ヘレネスとか、そういうの関係ない」
ノヴァリスはただ静かに見つめている。
「それに、君の戦争を止めたいって思いは本物だと思うからね」
「・・・ありがとうございます。って、私感謝してばかりですね、すみません」
「何故謝るんです?それはノヴァリスさんのいいところだと思いますよ。人を選ばない優しさ、それは誇ってもいいくらいだ。そんなノヴァリスさんだから、これからも一緒にやっていける気がします」
とうとうと褒め上げるゴーシュを見て、当のノヴァリスとしてはそれはとても面映ゆいものだった。恥ずかしさを払うように、ドレスの袖をバタバタさせている。
「も、もうゴーシュさん!」
「・・・何か、お気に召しませんでした?」
(・・・素なんでしょうか?でも、きっとこれがゴーシュさんのいいところ、なんでしょうね)
ノヴァリスは静かに笑った後、ゴーシュの前に出て、振り返る。
「ゴーシュさん・・・、これからも私を守ってくれますか?」
「はい、そのつもりです、ノヴァリスさん」
「ふふっ、ありがとうございますっ」
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