ブレインダイブ

ユア教 教祖ユア

文字の大きさ
上 下
38 / 104
弐章・選ばれし勇者編

2-4 36 香露音視点 準備期間

しおりを挟む
後輩達に思い出させたのは思ったよりも簡単だった。

一番最初に思い出したのは奏恵ちゃん。

そこから、智恵ちゃん、光ちゃんと順に思い出していった。

鶴ちゃんが思い出すのに時間がかかるとは思わなかったが。

それはそうとして、思い出させるのに一つ問題が分かった。

夏希を思い出せるまで、夏希の名前を認識出来ない。

どうやら、覚えている側がいくら夏希という名前を言っても、覚えてない側からしてみれば、違う言葉に置き換えられるらしい。

例えば、緋色と香露音の時もそうだ。

ずっと、夏希の事をあの子と言っているように思えたが、緋色があの子と言っているわけではなく、香露音があの子と聞こえるだけだった。

そう認識させられたのかもしれない。

だから、名前を言うだけでは夏希を思い出させる事は出来ない。

とは言っても、後輩達に思い出させたる事が出来たのは、やはり夏希の性格の良さと、この世界の違和感だろう。

後輩達に思い出させたは良いが、緋色は朱の流星と関われただろうか。

というか、前回死にかけで助けてもらったのに、今回も同じ事をするのだろうか。

痛いのが嫌いだと緋色は言っていたから、流石に無いとは思うが、それでも不安だ。

後日、緋色が部活に来たので聞いてみる。

「ん~……簡単だった!」

何が簡単だったのかは分からないが取り敢えず成功したようだ。

「あ…そう。なら良かった。こっちも思い出してくれたよ。」

後輩達は頷いている。

「出来る事があったら何でも言ってくださいね!」

「私達、皆が夏希先輩ともう一度会いたいんです!」

「なので、香露音先輩、緋色先輩!また、ご教授お願いします。」

「………この三人……団体の方の資格を…取りたいらしいです……」

と4人は言った。取り敢えず、後輩の可愛さを何とかしたい。

尊死とはこの事だろうか。

…それにしても、団体の方の資格を取りたいらしい。

「う~ん…そうか~…資格が欲しいのか~…」

緋色は少し、暗い表情をする。

気持ちは分かる。

同じ事を繰り返してしまうのでは無いかと思っているのかもしれない。

(でも………違う。…違うって事を…証明しないといけない。)

後輩達は同じ事を繰り返さない為にそう言ってる。

もう既に世界は変わっている。

だから、前回の事を考える事は意味が無い。

「大丈夫。緋色。……大丈夫な様に、私達が居るんでしょ。」

緋色の肩を叩く。

「……!うん。よ~し…!先輩が教えてあげよう!」

ここには、地獄を知っている人が二人居る。

絶対に、後輩達に痛みは味わせない。

「それに、個人の方を今度は取る。その為の練習も必要だしね。」

という事で特訓が始まった。

休憩中に緋色と話す。

「今って、緋色が開眼してすぐ位だよね?」

「そうだね。だから、次の日に春斗と会えるはずなんだよ。」

「そういえば、そんな事言ってたね。」

「………って事は………世界が戻ったのって…あと7週間しか無いのかぁ…」

「…本当だね。夏希が開眼して2ヶ月で…」

早過ぎる。

香露音はこんなにも早く直ぐに人は死にかけるのかと思った。

「…そろそろ休憩も終わろうか。」

そうして、部活もせずにひたすら特訓した。

元々、緩い部活だ。顧問など一度も来ていない。

そんな日常が個人の試験の日まで続いた。

個人の試験が始まる前に、それまでの出来事をここで言っておく。

一週間が終わり、緋色は春斗に会いに行ったようだ。

気配隠蔽が出来る鶴ちゃんでさえも、居ることがバレてしまうらしい。

だから盗聴不可という訳だ。

あの時、やはり盗み聞きしたのはバレたと香露音は確証した。

なので、会話の内容は緋色から聞いた。


「え!?春斗じゃん!」

「あ!樫妻先輩じゃないですか!」

と言う緋色にとっては2回目の会話をしてから、

「実はね、開眼したのー!」

と言う報告をしたあと、前回の出来事をすべて話したらしい。

勿論、

「冗談………ですよね…?」

と言う言葉もあった様だ。

「私が冗談言える口だと思う?」

「思わないですね。だから、吃驚してるんですよ。それに、話を聞いてると僕は思い出したら能力者になるんじゃないですか。」

「そうだよ。」

「マジですか…!?」

という会話をしたらしい。

半信半疑らしいがとりあえずは協力してくれるらしい。

しかし、緋色によると大分弱いらしい。

そこら辺の能力者くらいには勝てるが、それでも英雄持ちの時の棚見君には構わないらしい。

「でも、緋色。棚見君は記憶戻ってないけど大丈夫なの?」

この話を聞いた後、香露音は緋色に聞いたが

「いつか思い出すでしょ。あいつは肝心な時にちゃんと思い出して来る奴だよ。」

と、返してきた。

ついでに、資格がちゃんと使えるかを試す為に、緋色、香露音、鶴ちゃんで外の世界に行った。

近場だけですぐに帰る予定だったので、モンスターとは遭遇しないと思っていたが、2、3回戦ってしまう事になった。

敵の数も少なかったので怪我一つもなく討伐できたのが幸運だった。

しかし、これで鶴ちゃんに異型を教えられた。

「……人とは違いますね………先輩に、助けられました……」

慣れていない戦闘に息を切らした。

暗殺者はよく対人戦に向いているというが、それは名前での偏見だ。

外の世界に行った事ある人は暗殺者が仲間に入れば確実に生還できると言われている。

それ程の実力を持った能力だ。

外の世界から帰った後、三人で緋色が以前行っていた鍛冶屋を訪れた。

どうやら香露音と鶴ちゃんの武器を更に高性能にしてくれるようだ。

それだけで無く、前回と同じ様に緋色がお得意様になったようだ。

しかし、踏まれた花と流離いの自由人の話は無かった。

(やっぱり…花と自由人って言うのは………)

しかし、緋色が自分の口から言うまでは確信はしない。

あくまでも予想だ。

簡単に決めつけれる程簡単な問題を緋色は引き起こさないからだ。

緋色は人に苦しい時に苦しいと言わない人だ。

「お前さん等終わったぜ。…大分強化されている筈だし、綺麗になっとるさ。」

素人目にも分かる程に綺麗に、丁寧に鍛えられている。

「ありがとう御座います!」

「…!……ありがとう御座います…」

鶴ちゃんが珍しく目を輝かせている。

実は暗殺者である事を隠したかっただけで戦闘自体は嫌いでは無いのかもしれない。

好戦的とまではいかないかもしれないが。

「…なぁ………以前会わなかったか?此処で。」

「……私が小学園を卒業してから……初めてだと思うけど…?」

「……そうか。じゃあ…良いんだ。」

もしかしたら……この世界の違和感に気付いている人も居るかもしれない…

この会話を聞いて香露音は感じた。

帰る時にその類の会話はしていないが、思っている人はいるだろう。

という事が個人戦試験前にあった。

外の世界での事は、きっと鶴ちゃんが強く記憶に残っている事だから、そこでの詳細は鶴ちゃんに聞いて欲しいと思う。

明日で……個人戦の試験が始まる。

色んな人が応援してくれているが、何故か平和に終わる気配が無い。

緋色が絡む事は平和に終わった事など無いが、香露音に関する事は大抵は上手くいった筈だ。

それに、前回と違い強くなった。あの時のようには負けない。

それでも何か…恐ろしい不安がある。

今日も特訓をして夜遅くなってしまった。

月が浮かんでいる。

(夜の騎士の中に夜の言葉が入っている能力は無い。……でも………)

夜が嫌いだ。

以前は好きだったが、いつからか嫌いになった。

理由ははっきりとしている。





「能力には表面だけが全てだと思う人は居るわ。でもね。…能力の最大の力は…その奥の本質なのよ。」

「へ~!そうなんだー!せんせ!もっともーっと!おはなし聞かせて!」

あの人は…先生では無い。

ただ、色んな話をしてくれたから幼き私は先生って言ってた。

いつもいつも、私が誰かのヒーロになる事を夢見てた。

だから、先生は私に正義を教えてくれた。

「自分が正しいって思う事をするのよ!貴方が守りたい人がいるなら…ちゃーんと守るのよ。」

「はーい!」

彼女が居るのはいつも夜だった。

だからこっそり家を抜け出して会いに行ってた。

しかし、あとから知った事だけど、どうやら普通にバレてたみたい。

言ってしまえば黙認ね。細心の注意は払ってたらしいけど。

良くある話の流れ的に、先生は外の世界で死ぬとかよくあるけど、死んでない。

まだ生きてる。無能力者が資格なんて普通は取れないってその時言われた。

でも………あれから一度も会ってない。


「十を満たないあんたに何が分かるのよ!!」


……その言葉が十歳を過ぎた今でも、私を縛り付けている。
しおりを挟む

処理中です...