ブレインダイブ

ユア教 教祖ユア

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参章・昇りし太陽編

3-6 63 大地の涙視点 名無しの英雄

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(…あの子は誰?…初めて会ったはずよ……)

自身の精神世界に干渉しても、彼女の事は知る事は出来なかった。

本当に探すのならもうちょっと強く干渉する必要があるけれど…比例するかの様にリスクが伴ってしまう。

そして、干渉しても私はあの子の事を分からないのにも関わらず、私が大地の涙笛伴 葵里だとあの子は知っている。

考えられる事はただ一つ。

あの子が私と同じ様に世界をやり直していること。

それしか考えられないわ。

あの子がボロボロになっても、ここに戻ってこれたのにはきっと何か訳がある。

「…時間ね。」

私は立ち上がって場所を移動した。

職場で私が大地の涙だとバレるのも困るからね。

「どうも。」(病み上がりはちと……キツイなぁ…)

少し疲れた顔をして、あの子がやって来た。

「…質問あるんでしょ?」

この少女は座ってから話し始めた。

「私が…貴方の名前を知っている理由がもう分かると思います。」(私達が…世界をやり直したと言う事…)

「そうね。……前に教えたのね。」

「はい。」(なんか………雰囲気が…………?………まぁ、化粧なし、髪も特に弄って無い……から?)

「どういう話か…聞かせてくれるかしら?」

「分かりました。」

そう言って事情を嘘偽り無く言った。

この世界が3回目であること、1回目の私との会話と、2回目の私との会話。

そして、前回のやり直さざる負えない理由を。

…2回目でこれだったら、今回は、私が何かをちょっかいをかけるのは止めておこう。

充分なはずだ。

この子は酸弾を直に受けても尚、闘志を燃やしている眼をしている。

その情熱は褒めていいものか、それとも狂ってると言っていいのか…

「そんな事があったのね。」

「………はい。」(喋るだけで疲れてきた…衰弱し過ぎ…)

「疲れてる理由は、祝福の剣のせいよ。」

「…へ~………」(そう言えば心の中読まれてるのか…)

「祝福の剣で、自身の治癒力を前借りしてるようね。その治癒力さえも枯れてしまえば、他の何かをも借りられる。」

「まぁ…後輩君は不完全だったし…」(名前であろう言葉を2文字言うだけで、ここまで回復出来るんだから寧ろ奇跡…)

「そうね。……知り合いじゃないの?」

名前であろう…言葉。どういう意味だろうか。

「彼の名前を…私は何一つ知らない。……最初の文字も。名前の文字数も。彼の名の由来さえも。」(……如何したら…思い出せるのかも…分からない…)

「存在は分かるのに、名前は分からない…か。面白いわね。」

少しワクワクしてしまう。

私と同じ様に世界をやり直している少女。

絶望をしても諦める事を頭の中にはない眼をしている。

(2年後の私はどうやら………少しはまとものようね。……仕事に溺れる必要が無くて済んでいるようね。)

裕貴が自殺する事を止めてから、自身を偽り過ぎて疲れてしまった。

そこから、以前の偽る前の姿で看護師の仕事をしている。

態々夜勤を選んで本物になり、裕貴の前では偽って………

「はぁ………………私もそろそろ…」

「?」(そろそろ…………………?)

「少しだけ…手伝わせて欲しいわ。……久し振りに…血が騒いじゃった。」

「それは葵里さんが、嘗てのことを思い出したからですか?」

心の中も同じ事を言う。

「ええ。」

どうせ、この少女の見た大地の涙は自身に起きた今まで起きた地獄を利用するつもりだった筈だ。

だったら、私も利用させてもらおう。

今の私も…あの時を無駄にする訳にはいかないものね。

眼の前に同じく運命に抗おうとしている私と同じ様なお馬鹿さんが。

「白い建物…私も一緒に探そうかしら。」

「……本当ですか……!?」(今までそんな事言ってなかったのに!?)

「ええ。」

きっと…同じ事を言う筈だ。未来の私よ。

最初の私は驚いた筈よ。

ブレインダイブ以外に魂に干渉できるかもしれない子が居たなんてと。

2回目の世界で、私は地獄を教えてあげようとした筈よ。

たった一回では全員を守る事が…一番良い終わり方をする事が出来ないと。

だったら…今は…地獄を早く終わらせる手伝いをしましょう。

私は十回やり直し、朱の流星は……えっと七回だったかしら?

この回数になったのは、私がブレインダイブ弱い能力者だから。

朱の流星は孤独裏切り者だから。

でも彼女は…彼女達は違う。孤独じゃ無ければ弱くもない。

一歩一歩進む事のできる原動力を持っている。

ある何処かの誰かさん二つ名の様にならないように。

新たな神話を作りましょう。

……フフ。言い過ぎかしら?ちょっと調子乗ったわ。

「…その前に、貴女の回復が優先ね。緋色さん。」

名前を聞いてないのに、知っているという事が緋色との繋がり。

「そうですね。……少し…疲れました……」(あ……死んだ…………)

急に倒れた。

「え…!?死んでないわよ…!?というか、無理なら無理だと言って頂戴!」

本当に冗談でも死ぬって言うのをやめて欲しい。

一々気掛かりになってしまう。

人より過剰になってしまうのは…息子のせいか、はたまたブレインダイブのせいか…

取り敢えず、彼女を運んだ。

その後に勤務時間が過ぎたので、家に帰る。

早朝なので息子は起きてない。

私は夫の遺影を見て手を合わせる。

「貴方が死んで…息子は悲しんでた…………私も…とても…………」

夫は病気で死んだ。

如何することも出来なかった。

「………外の世界から、怪我で運び込まれた女の子がいたの。…話を聞いてたら生きている事がおかしい状態…でも…生きてて……普通に喋ってたわ。」

彼女の生きている理由は…ただ一つ。

「名無しの英雄が…その子を助けてくれたらしいの。……彼女はその名を呼べないの。知らないんじゃない。覚えてないの。私も…あの子も………知ってる人なんて…居ない。だから………助けに行くわ。その子を。助けようとする、あの子達も。だからね…私が家に居なくなって、外の世界に行ったときは裕貴を宜しくね。」

私は立ち上がり櫛で髪を梳かした。

髪の毛を最大まで弄り偽った髪型になる。

ファンデーションをつけ、チークをつけ、紅を塗り…さっきとは別人になった。

服を少し派手なものに着替えて、朝御飯の用意をした。

どんだけ私を嫌っていても、私の息子は私の作った御飯だけは美味しそうに食べてくれる。

そんな事されたら、御飯を作らざる負えないわ。

作り終わったタイミングで、裕貴が下に降りてきた。

「…………おはよう。」

「おはよう。裕貴。」

「…?」

以前の様に挨拶してしまった。彼はとても不気味に見てきた。

「……そこにあるから、早く食べてしまいなさい。」

私は逃げる様にお供えをを夫の近くに置いた。

本当に今日は…ドキドキが止まらないわ。

(……あと五年で四十路になる人がドキドキが止まらないなんて言うもんじゃないわね。四十路越えるまでにメイク少しだけでも変えようかしら…)

私はタンスの肥やしになっていた資格を取り出した。

この資格を見ると、個人戦の事を思い出す。

(この個人戦からだったわね………大地の涙という二つ名を持つようになったのは。)

基礎能力を使うまでもなく、能力者の攻撃を避けて一撃で眉間を狙った。

相手が強くなればなるほどそんな余裕は無いから、その時は洗脳した。

相手を跪け、その間に銃を撃ち込む。

近接攻撃が得意じゃないから悪夢殺しはあまり使わないけれどそれでも1位を取った。

ヤケになって人に八つ当たりしたように個人戦で1位を取ったわ。

…実際に手をかけては居ないけれど…今考えたら恐ろしいわね。

「武器生成(小)…………」

2年ぶりに銃を生成した。

彼の自殺を止めてから一切銃も決闘も…戦いから逃れていた。

「…………大丈夫、足は引っ張らないわ……………フフフ……楽しみね。」

そして、大地の涙を演じていった。
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