雷撃の紋章

ユア教 教祖ユア

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5章 魔法国の始まり

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音一つ鳴らさず、エウルはコップを置いた。

姿は何一つ焦りを見せていないが、内面では物凄く動揺している。

(無理無理無理!)

トーラスも基本黙っているが、心の中では叫んでいる。

(エウル!本当にどうすんだよ!?マジでどうするつもりなんだよ!?)

「一体何をされていたんです?」

「あら、気になるかしら?」

「え、ええ。」

「貴方が縛ってる者と、観光してましたわ。利害関係が一致したので、ビジネスパートナーとして共に行動しておりましたわ。」

「は、はあ…貴方もこの者の神の紋章を狙って?そ、それにこの者は私の夫を殺した野蛮そのものですわよ!?」

「ええ、そうですわね。だから、貴方の仇でもありますわね。私はその者を助けるつもりはありませんわ。仲間とはいえ、貴方の敵ですものね。」

エウルはとてもニコニコとしている。

「そ、そうですわね…」

「貴方の悲しみを考えると、この者を擁護できませんわ。」

エウル以外全員冷や汗を流している。

「殺しても私は文句を言いませんわ。」

「こ、殺すですって!?」

マリーは明らかに動揺している。

「な、なにも…殺さなても…」

「風の噂で聞きましたわ。クロウ様がお亡くなりになったと。」

「え、ええ…」

「あなた一人でやっていかなくてはならないなんて、心中お察ししますわ。」

因みにとてもすらすらと言っているが、エウルの本心は一欠片も無い。

「だから…殺しても私は何も言いませんわ。」

「…え、ええ…本当に夫を殺されて…怒ってますわ…」

「何をそんなに躊躇っているの?貴方が元平民だから、感情が変に入っているのかしら?元から貴族である私が言わせてもらうけど、そんな甘さなど、捨てなければこの貴族の世界では生きていけないわよ。」

「そ、そうですわね…」

すると、執事が入ってきて、マリーに耳打ちをした。

「なんですって?エウル様のその従者は本当に従者ですの?」

「どういうことかしら?」

「エレストと共に行動していたとお聞きしましたけど、エレストさんを取り返しに来たのではないですか?」

(まずいわね。)

「本当にお茶だけですの?ちょっと甘いのではないですの?」

こことぞばかり、マリーは言葉でエウルを責める。

「第一貴方はルナディオルド家の末っ子、それに魔法ではなく魔導を使うではありませんか。」

(私を馬鹿にするのね。良い度胸だわ。)

戦闘に自信がありそうな、マリーの従者たちがぞろぞろと集まってきた。

「『私の夫を殺した犯罪者を擁護する貴族』…そう記事が出たら大騒ぎでしょうね。」

マリーはここぞとばかりにやりと笑う。

「貴方が私にものをいうなんて、早いと思いませんこと?」

「…質問。その内容に『魔導を使っている』ことに何か関係しているかしら。」

「魔法を使えない事、即ちそれは『落ちこぼれ』ですわ。貴族ならまだしも、代々魔法と武術を重んじる大貴族なら猶更ではありませんか。」

「あら、魔導も立派な武術と言えるわ。」

「プッ…!!失礼、あんな、たかがしれてるものを?子供のままごとですわ。そんな分かりやすい時間稼ぎをしても無駄ですわ。この者を捕えさせてもらいます。エウル様の汚名を払拭するためですわ。」

トーラスに武器を向けられる。

「あら、行ったわよね?同胞は何もしないと言ったけれど…従者にまで何もしないとは言って無いわよ。」

その瞬間、部屋中に魔導陣が現れた。

「浅はかなのは貴方よ、。」

エウルは再び紅茶を飲んだ。

「!?」

貴族をさん付けするときは、平民上がりの貴族を子馬鹿にするときに使う。

しかし、大貴族であれば、平民上がりでも「さん」付けなんて、到底できない。

そう。

王族の血が流れているほどの大貴族であるエウルだから言えることだ。

そして、そう呼ぶという事は圧倒的な差があると自負しているという、確証が無ければできない。

「今なんて…」

「マリーさん。私がよ。痺れろ。『魔導・雷光サンダーボルト』。」

全方向から雷が降る。

「月の名において、私とその部下を舐め腐った態度で私に喧嘩を売るなんて良い度胸ね。無謀すぎるわ。浅はか。」

「よっと。」

エレストが、茨から離れて、エウルの隣にやって来た。

「派手にやり過ぎじゃないのか?」

「さあ?」

エウルはエレストのポケットに手を突っ込んで、小さい何かを取り出した。

「貴方があの家で起こることは常時筒抜けよって言ったように…私もあなたが言った言葉、全部私に筒抜けよ。」

「盗聴器!?いつの間に…魔法は全て遮断させているはず…まさか…」

「そんなことは興味ないわ。私は帰らせてもらうわね。丁度、お紅茶も飲み終わったことだし。行くわよ。」

「ちょっと、待って…!」

エウルは、マリーの従者に何かを渡した。

「お父様によろしく言っておいて。」

「え!?あ、はい…」

「何処まで聞いていたの!?いつ盗聴器を仕掛けていたの!?」

「貴方がエレストを攫う直前から全て。」

マリーは青ざめている。

「ごきげんよう。貴方が、社交パーティーで再び会えると良いですわね。」

エウルはこれ以上マリーの声に耳を傾けなかった。

「良かったのか?エウル、極力貴族であること隠したいんだろ?」

「ええ。でも今回は仕方ないわ。ぼろが出てしまえば一瞬で終わるもの。シュバルッツ家もこれで大分落ちぶれたわね。」

「怖えな…」

「いや、エウルの豹変ぶりが一番怖えだろ。ずっと笑顔だったぜ。」

「貴族たるもの心情を読み取られるわけにはいかないもの。」

「だからって…」

「でもおかげで、エレストは救出できたし、これで旅を続けられわね!」

「はあ…それよりも、エウルとトーラスが仲直りしたみたいで良かった…」

「してねえ。」

「仲直りした覚えは無いわよ。謝罪は受けて無いし。でも…トーラス…」

エウルはトーラスに向けて頭を下げた。

「貴族を嫌っている貴方に無理に、貴族の従者にさせてしまって、ごめんなさい。貴方の貴族嫌いになった理由は知らないけど、少なくとも私は貴方の嫌いな貴族のようにはならない。それを行動で示すわ。今回で、嫌なところを見せてしまって、貴方の貴族嫌いがもっと加速したと思うけど…それについても謝罪する。ごめんなさい。」

「………浅はかなのは俺の方か。」

「??何か言った?」

「言ってねえよ。お前に謝罪をさせるために言ってたわけじゃねえよ。行くぞ。こんな国、早く出ちまおうぜ。」

トーラスはむすっとしながら先頭を歩く。

「でもまあ、これで、喧嘩はなくなるかな。」

エレストは安心したような声でそうつぶやいた。












「ああ、胃が軋む…」

「そんな心配することですか?お父様。」

「お前と違って、俺はエウルに会っておらんのだ。」

「どうせ死んでないわ。気にし過ぎでは?」

すると、マリーの屋敷にいた従者が現れた。

「エウル様からお手紙です…」

「何でお前が!?」

「エウル様がマリー様にお会いになられて…その時にこれを…でも、私がスパイであることをエウル様におっしゃられましたか?」

「言って無いわよ。…それなのに気付いたの!?」

「はい…」

その手紙を奪い取るようにして、受け取る。

「エウルの筆跡…本当に…」

エウルの父であり、ルナディオルド家の当主でもあるレードは、静かに手紙を開いた。


お父様へ


お久しぶりです、お父様。
私がこの屋敷を出てから、日時が経ちました。
最初から私と共に行動してくれているエレストというものと、吸血鬼の国に何故かいたトーラスという魔法使いと共に魔法国まで旅をしました。
小さな村が魔物たちに襲撃され、その魔物を討伐したり、亜人国で半獣人に殺されかけたり、エルフの里で呪術師と遭遇して死にかけたり、吸血鬼の国で吸血鬼たちに襲われたりと、非日常を体験してまいりました。
勿論、全て皆の協力で打ち勝ちました。
私一人ではどうにもならない事ばかりでした。
私はルナディオルド家に戻らないつもりで、家を出たわけではありません。
家の危機ならば、例え魔王の城にいても、必ず駆けつけます。
どんな場所にいても死にませんわ。お父様の娘ですから。
心配しないで下さいと言いたいところですが、お父様の事なので心配せずにはいられないと思います。
私は昔から問題を引き起こしてましたから。
それでも、楽しく旅をしております。
もう少しお待ちください。
思った以上に過酷ですが、思った以上に感動が止まりませんので、旅を辞められないのです。
ですが、元気になって帰ってきます。それだけは約束しますわ。
お父様もお元気で。


エウル



「…何が、心配せずだ…!死にかけてるじゃないか!しかも結構の数!!!!」

「あら、意外とひどいわね。手紙の内容。」

「本当に今すぐ戻ってきてくれ、元気に戻ってこれるまでに…!」

「エウル…逆効果だったじゃないの?まあ、でも流石私の妹…エウルらしいわ。」

ルミナは微笑んで窓の外を向いた。

妹である、エウルが楽しく旅を続けていることを祈って。
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