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22 ガーサ大渓谷1
しおりを挟む翌朝、ロディユたちはガーサ大渓谷へ向けて出発した。
「——ポセさん、疲れてない?」
ポセに背負ってもらっているロディユは、心配そうに声をかけた。
すでに起伏が激しい大地を走り続けて二時間が経過している。
「問題ない。この数日はほどんど動いていないからな。もうしばらく体を動かしたい」
「キュー! キュー!」
アクアも同じように行動を制限されていたので、今はポセの頭の上で楽しそうに風を浴びていた。
「すごい体力だね……。アクアの気分転換になっていいけど」
本来なら魔力車などを使用したいところだが、デイアブロより東はあらゆる交通手段が途絶していた。
悪神アンラ・マンユが原因だ。
今は神域からの視線も警戒する必要があるため、目立つ飛行魔法は避けている。
「この早さなら、一日の移動で到着するかも。魔力車では通れないところも移動できるから、この方法がよかったかもね」
「はっはっはっ! 我は人間の発明した機械よりも万能だからな!」
その後、ロディユたちは食事休憩を挟みながらわずか一日で目的地周辺に到着した。
*
ガーサ大渓谷付近に到着すると、辺りは紫色の毒霧が発生していた。
アクアはカバンに入ってもらっている。
「——ポセさん、そのまま崖を下っても大丈夫。毒霧の影響はないよ」
防御壁の解毒効果を長く持続させるため、ロディユはできるだけ毒濃度が低い場所を通信機で調べ、進行方向をポセに伝えていた。
「それにしても、その機械は便利だな」
「僕もそう思う。ただの通信機能だけじゃなくて、いろんな感知機能もついているからね。結構いい値段するんだよ。ポセさんの食事代一年分くらいかも」
「なに!? それを売れば、もっとたくさん食べられるのではないか?」
「売ろうとしないでよ! これがないと、ここまで来れなかったんだよ?」
「むぅ、それもそうか……」
ロディユは呆れながら「そこを飛び降りてから、向こうの道へ行って」と指示を出した。
「ポセさん、防御壁の解毒効果は長時間持たないかも。アンラ・マンユとの戦いは短めにしたいね」
「残念だが、そうした方が良さそうだな」
*
二人は大渓谷を見下ろせる場所へたどり着いた。
にもかかわらず、二人の顔色はすぐれない。
「悪神の城は毒水の下だぞ……」
「最新の地図だと、ここは水場じゃなかったんだけどな……」
大渓谷は紫色の毒の湖と化していた。
その底には、ゾロアス城がうっすら見えている。
「どうしようかな……」
ロディユは通信機で調べていると、ある異変を感じる。
「——ポセさん! 空へ! 地面が爆発する!」
ポセはロディユの警告に反応し、慌てて遥か上空へ転移した。
間一髪だった。
二人が立っていた地面から、毒水が爆発とともに吹き出した。
「助かった……。ポセさん、ありがとう」
ポセの的確な判断で、その毒水を浴びることはなかった。
「ロディユ、よく気づいたな。融合した聖石のおかげか?」
「そうだよ。水系の感知能力が格段に上がったんだ。まだ能力を全て把握しているわけではないんだけど……」
「怖がらずにいろいろ試してみた方がいい。何かあった場合、我が全力で止めてやるから」
ロディユは聖石の力に怯えていることを必死に隠していたが、ポセは気づいてた。
「ありがとう……。今から聖石の力を使って、地下の状況を確認してみるよ」
「頼む」
ロディユは目を瞑った。
そして、大渓谷付近の水脈をたどり始める……。
「——嘘!?」
「どうした?」
「ポセさん、ゾロアス城が完全に消滅してる……。さっきの爆発で城の地下が崩壊したみたい」
「そうか……。一旦、安全地帯へ戻ろう」
「うん」
*
ポセは安全が確認されていた岩山の洞窟へ転移した。
「少し試したいことがあるんだけど、いい?」
「構わんぞ」
ロディユは、カバンから取り出した『紫色の毒水が入った小瓶』と『空の小瓶』を地面に置いた。
この毒水は、途中の水たまりで回収したものだ。
それぞれの瓶の蓋を外し、毒水が入った瓶の口を塞ぐように魔法フィルターを被せた。
そして、そのまま空の瓶へ毒水を注ぐ。
「ほう……」
フィルターを通して空の瓶に入った液体は、無色透明に変化していた。
ロディユはその液体を水質解析魔法で分析してみる。
「ポセさん、毒水はこの薄い魔法フィルターで完全に無毒化できたよ。新たに強力な防御系能力を獲得したんだけど、今みたいに濾過にも応用できるんだ」
「よく思いついたな。あの毒の湖の中で使えるぞ」
「うん」
その返事のすぐ後、爆発音が——。
「これは!?」
「また爆発!? それに……酷い地響き!」
「ロディユ、様子を見に行くぞ」
「うん!」
二人は大渓谷の方へ向かった。
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