俺は人間じゃなくて竜だった

香月 咲乃

文字の大きさ
23 / 57

22 ガーサ大渓谷1

しおりを挟む

 翌朝、ロディユたちはガーサ大渓谷へ向けて出発した。

「——ポセさん、疲れてない?」

 ポセに背負ってもらっているロディユは、心配そうに声をかけた。
 すでに起伏が激しい大地を走り続けて二時間が経過している。

「問題ない。この数日はほどんど動いていないからな。もうしばらく体を動かしたい」
「キュー! キュー!」

 アクアも同じように行動を制限されていたので、今はポセの頭の上で楽しそうに風を浴びていた。

「すごい体力だね……。アクアの気分転換になっていいけど」

 本来なら魔力車などを使用したいところだが、デイアブロより東はあらゆる交通手段が途絶していた。
 悪神アンラ・マンユが原因だ。
 今は神域からの視線も警戒する必要があるため、目立つ飛行魔法は避けている。

「この早さなら、一日の移動で到着するかも。魔力車では通れないところも移動できるから、この方法がよかったかもね」
「はっはっはっ! 我は人間の発明した機械よりも万能だからな!」

 その後、ロディユたちは食事休憩を挟みながらわずか一日で目的地周辺に到着した。





 ガーサ大渓谷付近に到着すると、辺りは紫色の毒霧が発生していた。
 アクアはカバンに入ってもらっている。

「——ポセさん、そのまま崖を下っても大丈夫。毒霧の影響はないよ」

 防御壁の解毒効果を長く持続させるため、ロディユはできるだけ毒濃度が低い場所を通信機で調べ、進行方向をポセに伝えていた。

「それにしても、その機械は便利だな」
「僕もそう思う。ただの通信機能だけじゃなくて、いろんな感知機能もついているからね。結構いい値段するんだよ。ポセさんの食事代一年分くらいかも」
「なに!? それを売れば、もっとたくさん食べられるのではないか?」
「売ろうとしないでよ! これがないと、ここまで来れなかったんだよ?」
「むぅ、それもそうか……」

 ロディユは呆れながら「そこを飛び降りてから、向こうの道へ行って」と指示を出した。

「ポセさん、防御壁の解毒効果は長時間持たないかも。アンラ・マンユとの戦いは短めにしたいね」
「残念だが、そうした方が良さそうだな」





 二人は大渓谷を見下ろせる場所へたどり着いた。
 にもかかわらず、二人の顔色はすぐれない。

「悪神の城は毒水の下だぞ……」
「最新の地図だと、ここは水場じゃなかったんだけどな……」

 大渓谷は紫色の毒の湖と化していた。
 その底には、ゾロアス城がうっすら見えている。

「どうしようかな……」

 ロディユは通信機で調べていると、ある異変を感じる。

「——ポセさん! 空へ! 地面が爆発する!」

 ポセはロディユの警告に反応し、慌てて遥か上空へ転移した。

 間一髪だった。

 二人が立っていた地面から、毒水が爆発とともに吹き出した。

「助かった……。ポセさん、ありがとう」

 ポセの的確な判断で、その毒水を浴びることはなかった。

「ロディユ、よく気づいたな。融合した聖石のおかげか?」
「そうだよ。水系の感知能力が格段に上がったんだ。まだ能力を全て把握しているわけではないんだけど……」
「怖がらずにいろいろ試してみた方がいい。何かあった場合、我が全力で止めてやるから」

 ロディユは聖石の力に怯えていることを必死に隠していたが、ポセは気づいてた。

「ありがとう……。今から聖石の力を使って、地下の状況を確認してみるよ」
「頼む」

 ロディユは目を瞑った。
 そして、大渓谷付近の水脈をたどり始める……。

「——嘘!?」
「どうした?」
「ポセさん、ゾロアス城が完全に消滅してる……。さっきの爆発で城の地下が崩壊したみたい」
「そうか……。一旦、安全地帯へ戻ろう」
「うん」





 ポセは安全が確認されていた岩山の洞窟へ転移した。

「少し試したいことがあるんだけど、いい?」
「構わんぞ」

 ロディユは、カバンから取り出した『紫色の毒水が入った小瓶』と『空の小瓶』を地面に置いた。
 この毒水は、途中の水たまりで回収したものだ。
 それぞれの瓶の蓋を外し、毒水が入った瓶の口を塞ぐように魔法フィルターを被せた。
 そして、そのまま空の瓶へ毒水を注ぐ。

「ほう……」

 フィルターを通して空の瓶に入った液体は、無色透明に変化していた。
 ロディユはその液体を水質解析魔法で分析してみる。

「ポセさん、毒水はこの薄い魔法フィルターで完全に無毒化できたよ。新たに強力な防御系能力を獲得したんだけど、今みたいに濾過にも応用できるんだ」
「よく思いついたな。あの毒の湖の中で使えるぞ」
「うん」

 その返事のすぐ後、爆発音が——。

「これは!?」
「また爆発!? それに……酷い地響き!」
「ロディユ、様子を見に行くぞ」
「うん!」

 二人は大渓谷の方へ向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...