38 / 57
37 開戦
しおりを挟む希望の塔付近。
『——希望の塔偵察隊より、希望の塔が攻撃態勢に入った』
偵察隊員の死精霊が同盟軍兵全員へそう告げた。
その報告でいち早く行動したのは、各街に配置された結界展開兵だった。
すでに結界の展開準備は完了し、魔力を注ぐだけの状態になっている。
「各街の結界準備は全て完了!」
結界責任者からルシファーへ、完了の連絡が届いた直後——。
希望の塔から巨大砲が打ち込まれた。
標的は魔人最大の都市ベリン。
その後、同盟軍は全世界へ向けて声明を発表した。
『同盟軍は双子星破壊を目論む悪神ヘラ、ゼウスの殻を被った悪竜デュポーンと戦うことを決意した。これから世界を守るための聖戦を始める』
ルシファーは声明発表後、第一部隊に開戦準備の指示を出した。
*
同盟軍第一部隊待機場所。
希望の塔の近くに第一部隊の待機場所が指定されていたが、そこにはなんの設備もなく、まだ誰一人集合していなかった。
しばらくして——。
開戦準備の指示を出したルシファーが姿を消した状態で転移してきた。
ルシファーはすぐさま巨大なドーム状結界を展開し、安全な待機場所を整える。
結界には不可視化効果もあるため、希望の塔からは動きが悟られないようになっていた。
ルシファーは転移魔法陣を地面に出現させ、片膝を地面につけた。
そして、頭を下げた状態で口を開く。
「——ポセイドン様、第一部隊待機場所が整いました」
すると——。
その魔法陣は光を発し、ポセが現れた。
「ルシファー、ご苦労。巨大砲の被害はなかったな?」
「はい。被害は皆無です」
先日のメフィストフェレスによる調査で巨大砲の性質や威力は判明していたので、その対策は十分だった。
希望の塔による魔人街への攻撃は、同盟軍に攻撃の機会を与えただけになってしまっていた。
「よし、世界中の結界は?」
「すでに張り終えております」
「では、第一部隊の兵を呼び寄せろ」
「畏まりました」
ルシファーは一礼して立ち上がった後、結界内の四カ所にそれぞれ、巨大な転移魔法陣を出現させた。
「第一部隊、待機結界へ移動せよ」
ルシファーは死精霊を経由して冥界人小隊、竜人小隊、魔人小隊、巨人小隊に移動許可の連絡を入れた。
しばらくすると、各小隊が転移魔法陣から次々に現れる。
「——よく来てくれた」
ルシファーは集まった各小隊長と挨拶を交わす。
顔を直接合わせるのは今回が初めての者ばかりだ。
しかし、死精霊経由で打ち合わせを何度も行なっていたため、仲間意識は問題なく芽生えている。
「ポセイドン様、第一部隊総勢五万人、問題なく揃いました」
ルシファーの報告でポセは頷く。
「——顕現せよ」
その言葉に反応するように、ポセの体は黄金の光に包まれた。
側にいたルシファーはあまりの眩しさに目を背ける。
ポセの体はどんどん大きくなり、筋骨隆々のたくましい体つきへ変化していく。
それに伴って体力や力も増大する。
最後に青色の鎧が体を覆うと、ポセを包んでいた光が消えた。
「待たせたな」
身長が二メートルを超えたポセは、ルシファーを見下ろすように声をかけた。
「ようやく本来の姿を拝見でき、胸が高鳴っております!」
ルシファーはかつてのポセイドンの勇姿を見るなり、目を潤ませていた。
ポセはルシファーの肩に手を乗せる。
「待たせたな、ルシファー。皆に我の声を届けたいのだが、いいか?」
「準備いたします」
ルシファーは結界天井に巨大な映像を出現させ、そこにポセの顔を映し出した。
『全兵士、天井に注目してくれ!』
兵士たちはルシファーの声で顔を上げた。
準備が整うと、ポセは思い切り息を吸い、全兵士に向かって声を張り上げた。
『同盟軍の諸君! 我は同盟軍総指揮官、ポセイドンだ! ヘラとゼウスは何の罪もない魔人の都市を攻撃した! これで二人の悪事は確定し、全世界の世論は我々の味方となった!』
ポセの顔が画面から消え、同盟軍の宣戦布告内容とそれに賛同する各街の状況が次々に映し出される。
「この聖戦に協力してくれた勇気ある諸君に感謝する! 必ず勝利を掴みとるぞ!」
ずしっと腹に響くポセの言葉は、結界内隅々にまで行き渡った。
兵士たちは自分の武器を頭上に掲げ、大声で呼応する。
第二・第三部隊にもその様子が届けられており、同盟軍全体の士気が最高潮に高まっていった。
ポセは話終えると、後ろに控えていたルシファーに声をかける。
「ルシファー、第一部隊の指揮を頼むぞ」
「畏まりました!」
ポセはその言葉を聞いて大きく頷いた後、第二・第三部隊の待機場所へ転移した。
「第一部隊、移動準備に入る!」
ルシファーの言葉で、一気に第一部隊の緊張が高まった。
兵士たちは指定された転移魔法陣の上に移動し、それぞれの耳と口を通信手段の死精霊で覆う。
準備が整ったことを確認したルシファーは、次の指示を告げる。
「第一陣、移動開始!」
まずは魔人小隊一万人、竜人小隊千人、冥界人小隊千人、巨人小隊百人が転移魔法陣で希望の塔前に移動した。
第一陣の前衛と後衛は冥界人小隊が、中衛は残りの兵が担当している。
それぞれが希望の塔の下層、中層、上層に分かれた後、その場に静置した。
希望の塔はすぐに反応を示した。
塔の周りを囲むように、地面に転移魔法陣が出現。
そこから大量のアンデッドが溢れ出てきた。
ほとんどが人間由来の外見だ。
さらに塔の壁から、壁全体を覆うように白塗りの顔が盛り上がった。
『第一陣、前衛、突撃!』
死精霊を経由して、ルシファーは全兵士に攻撃指示を出した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
11
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる