俺は人間じゃなくて竜だった

香月 咲乃

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38 第一部隊

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『——第一陣前衛、突撃!』

 死精霊を経由してルシファーから出撃の指示を受けた第一陣は、一斉に飛び出した。

 冥界人兵で構成された前衛は、敵兵に目もくれずトップスピードで希望の塔へ突っ込んでいく。
 塔壁の白い顔は、それを阻止しようと口からの光線攻撃を前衛に集中するが……。
 前衛はその光線を受けても全くダメージを受けず、それを吸収して後ろにいる中衛兵の防御負担を軽減していた。
 
 その後、前衛は塔に張り巡らされた結界を通り抜けて塔の中へ入り込んでしまったので、白い顔による光線攻撃は遅れて攻め込んできた第一陣中衛へ向けられる。
 第一陣の中層・上層中衛の魔人兵は、久しぶりの戦いに興奮し、光線を軽々と避けながら防御壁へ攻撃魔法を連射していた。
 中衛下層の巨人兵は分厚い鎧で体を覆っているため、光線攻撃は効かず、巨大な鎌や槍でアンデッドをなぎ倒しながら防御壁の破壊を試みていた。
 そして、中衛下層・中層の竜人兵は魔法障壁で攻撃を受け流し、斧・剣・魔法で防御壁破壊をしながらアンデッドを次々に倒していった。

 誰の目から見ても、第一陣の攻撃は塔の攻撃を圧倒していた。

 苦戦していた塔壁の白い顔は、攻撃パターンを変える。
 壁からその顔が次々に剥がれ落ち、防御壁の外側へ移動して攻撃を開始した。
 生首が攻撃しているその様子は、あまりにも不気味だ。
 顔が剥がれ落ちた後の壁の穴は、すぐに別の新しい顔が壁の内側から盛り上がり、口から同じように光線を吐き始めた。

 地上のアンデッドにも変化が。
 なぜか、半数が体を丸めるように苦しんでいた。

 しばらくして——。

 アンデッドの背中から二枚の白い翼が出現した。

 待機場所でその様子を見ていたルシファーは、一見すると冷静に見えるが……。
 目だけは怒りに満ちていた。

 ——あの羽持ちは……アンデッドと天使を融合させたのか。どこまでも天使を……いや、すべての生命を道具として愚弄するのだな……。

 翼を持つアンデッド——アンデッド天使は飛び立ち、上空にいる第一陣中衛へ攻撃を開始した。

「——どうなってる!? アンデッドのくせに、攻撃も防御も以上に高くなってるぞ!」

 中層の竜人が近くの仲間に叫んだ。

「くそっ! とにかく攻撃の手を止めるな!」

 アンデッド天使に攻撃は当たっているが、高い治癒力ですぐに傷は癒えてしまい、第一陣は動きを止められずにいた。
 先ほどまで余裕で戦っていたはずの中衛は、アンデッド天使の出現で押され始めていた。

 見かねたルシファーは、待機させていた第二陣を戦場へ転移させた。

『——首を狙えー!』

 第一陣、第二陣の各小隊隊長の指示は、兵にとって十分理解していることだった。
 首を切断すればアンデッドの動きは一時的に止まることは常識だからだ。
 実際、兵は首を切り取ろうとするが、アンデッド天使の首回りは防御が強固で、なかなか攻撃が通らない。

『第一部隊長から命じる。中衛の中層と上層の兵も先に羽なしアンデッドを狙え』

 地上にいたアンデッドの対処は容易いことに気づいたルシファーは、兵にそう指示を出した。

 中衛兵は指示を受けてすぐ、地上にいるアンデッドの首を魔法や武器で次々に切断し始めた。
 後衛の冥界人兵はすかさずその首を結界で包み込み、一時的にアンデッドの動きを封じていく。

 ——いい連携だ。だが、戦争がきっかけで種族間に絆ができるとは……。

 ルシファーは心中複雑な思いを抱えながら様子を見ていた。

『後衛、地上のアンデッド残骸を回収!』

 ルシファーの指示を受けた後衛の冥界人兵は、首と体を分けて結界で包み、そのまま地中へ引きずり込んでいった。
 目的地は神域が手出しできない冥界だ。

 ルシファーの素早い判断おかげで、羽なしアンデッドはすぐに制圧された。

『防御壁破壊に集中!』 

 ルシファーの指示でアンデット天使を適当に交わし、兵たちは怒涛の攻撃を塔の防御壁に仕掛けていく。
 そして徐々に、ヒビが入り始める。

 下層の巨人兵がダメ押しの攻撃をいれると——。

 一気にそこから崩れ落ちるように防御壁が破壊された。

 ルシファーはすかさず残りの待機兵を戦場へ送る。

 その直後——。

『——巨大砲注意!』

 巨大砲発射口が光を帯び始める。
 ルシファーは兵に注意を促した後、すぐに発射口を覆うように、五層分の防御壁を展開した。
 各兵も自分を防御壁で取り囲む。
 
 その後、発射口は光に満ち、巨大砲が放たれた——。

 凄まじい威力で発射口を覆っていたルシファーの防御壁の一・二層目は貫通してしまった。

 三層目は威力を三割減、四層目は五割減だ。

 そして——。

 五枚目の防御壁にヒビが入ったところで、巨大砲は完全に消失した。

 ——何度打っても同じこと。私を侮ってもらっては困る。

 ルシファーはそう思いながら、希望の塔へ冷たい視線を送る。
 何度も封じられた巨大砲は、ルシファーに太刀打ちできないことを完全に証明してしまった。

 ルシファーは冥界人以外の全ての兵の退去を指示。
 魔人たちは暴れ足りない表情を浮かべながら、ルシファーがいる待機結界へ戻った。

「リシア、回収を始めてくれ」

 兵が退却した後、ルシファーは後ろに控えていた魂使いの魔人の少女——リシアに指示を出した。

「はーい!」

 リシアは笑みを浮かべながら結界の外へ出ると、自分の背丈よりも高い杖を希望の塔へ向けた。

 そして、吸魂魔法を発動。

 その魔法で塔全体が包まれた。

 その後すぐ、希望の塔に潜入していた前衛の冥界人兵からルシファーへ連絡が入る。

『第一陣前衛より報告。中で待機していたアンデッドを一部回収しましたが、吸魂魔法が発動した直後、その場から吸収されるように消えてしまいました。また、巨大砲に充填されていた魂もその魔法に吸収されています』
「ご苦労。回収作業が済み次第、帰還してくれ」
『承知しました』
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