俺は人間じゃなくて竜だった

香月 咲乃

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39 第二・第三部隊

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 ポセイドンは、第二・第三部隊待機場結界内に到着していた。
 すでに全兵が集まっており、数カ所から小隊長の声が響いている。
 第一部隊と同様に死精霊が各兵に一体ずつ同伴しており、それを使って最終確認が行われているところだ。

 ポセイドンはわざと兵士たちの上空を飛行し、目が合った兵士には「頼んだぞ!」と声を掛ける。
 その掛け声に兵は拳を軽く上げ、さらなる士気を高めていた。

 ポセイドンはオーディンと第三部隊が集まっている天幕へ行き、背後からロディユの右肩に手を置いた。

「あ! ポセさん。これが本当のポセさんなんだね。格好いいよ!」

 ロディユはポセのたくましい外見に興奮し、少し頬を赤くしていた。

「はっはっはっ! 大きくなっただけだ」
「ポセさん……ちょっと怖くなってきたよ」

 ロディユの声はわずかに震えていた。

「ロディユ、恐怖を抱くことは恥ずかしいことではない。そんな状況でも、逃げ出さずにここにいるではないか? それだけでも勇気がある。自分を誇りに思え」
「うん……」

 ロディユはポセの言葉に胸を熱くさせる。

「いいか? ゼウスやヘラは言葉巧みにお前を誘惑してくるかもしれん。だから、決して耳を貸すな。自分だけを信じろ。お前が正しいと思うことを貫け」
「うん!」
「側にはいないが、我はいつもここにいる」

 ポセは拳をロディユの胸に軽く当てた。

「ポセさん、ありがとう! 本当にありがとう!」
「はっはっはっ!」

 ポセはロディユの頭に軽く手を乗せた。

「——準備は完了したようだな。そろそろ、出発するか」
「はい!」

 ハデスの掛け声にロディユは力強く返事をした。
 その表情は覚悟を決めた男らしいもので、先ほどとは別人のようだった。

「よし、我々も出陣だ」

 オーディンは天幕を消し去った後、第二部隊に指示を出す。

「第二部隊、出陣! 一気に神域へ攻め入るぞ!」

 兵は吠えるように返事をし、オーディンに続いて上昇を始めた。
 その先には、神域浮遊島近くに転移する巨大な魔法陣が配備されていた。
 隊列を崩さないよう、兵たちは次々にそこを通り抜けていく。

 第三部隊はロディユの力で姿を消し、第二部隊後方に転移した。





 神域。

 第二部隊の先陣が転移魔法陣を抜けると、天使軍の大群が待ち構えていた。

 新たな天使軍総司令ラファエルが指示を出す。

「放てー!!! 違う! 防御壁をさらに強化!!!」

 最初の指示から天使軍は混乱模様だった。
 原因は、オーディンが転移魔法陣を抜けた直後に巨大な嵐を引き起こしていたからだ。

 一足遅れて放たれた天使軍の攻撃は、その嵐で完全に無力化され、さらには強化防御壁も破壊されてしまった。
 天使軍の前衛は嵐に巻き込まれ、被害は深刻だ。

 後衛にいたラファエルとウリエルは、被害を受けた兵には目もくれず、急いで浮遊島防御壁強化の指示を出した。

 その隙に第二部隊中衛のヴァルキリーは、混乱している天使軍兵を殺すことなく、次々に無力化していく。
 また、第二部隊前衛の竜人小隊と竜は、一気に嵐の隙間を抜けて上昇し、オリュンポスの結界破壊に向かった。
 オーディンと残りの竜は大規模攻撃魔法を発動し、各浮遊島前に張られた防御壁と結界の破壊を開始した。

『——オーディン様、やはり天使軍は誰かに操られている様子。動きが単調です』

 死精霊を経由して、中衛のヴァルキリーからオーディンに報告が入った。

「了解。予定通り動いてくれ」





 第二部隊後衛待機場所。

 後衛の各小隊はまだ戦闘に参加せず、上空の戦闘風景を眺めていた。
 その先頭の列には、ルシファー以外の七罪が揃っている。

「派手ね……。嫌いじゃないわ」

 サタンは、オーディンを見ながら笑みを浮かべていた。

「そろそろ結界も限界のようだ。我々も行くぞ」

 サタンの横からベルゼブブが声をかけてきた。
 その言葉で七罪全員が狂気に満ちた笑顔を浮かべる。

 サタンは後衛兵へ向けて口を開く。

「私たちのかわいい部下たち、お聞きなさい。ヴァルキリーのように天使を無力化させることが優先だけど、誤って殺してしまっても咎めないわ。神はゼウスやヘラの生贄になる可能性があるから、確実に殺してちょうだい。じゃあ、行くわよ~!」

 サタンの言葉に魔人精鋭部隊は歓喜するように声を上げた。
 そして、六人の七罪は小隊をそれぞれ引き連れ、オリュンポス以外の六つの浮遊島へ向かった。

 一方の第三部隊は、オリュンポス近くの浮遊岩の上で待機していた。
 オリュンポスからの攻撃を想定し、すでにロディユの防御壁と完全不可視化魔法が各自に付与されている。

「——やけに大人しいな、怖いのか?」

 静かなアレスにハデスが冷やかしを入れた。

「馬鹿を言うな。俺は戦いに恐怖を感じたことはない」
「ならいい。余計なことを考え過ぎて、しくじられても困るからな。そう思わないか、ブラッド?」
「はっはっはっ。アレスは真面目ですからな。しかし、もう昔のことは克服していると思いますぞ? 我輩が保証しよう」
「私も保証してあげるわ」

 ブラッドとキャリーの発言で、アレスは顔を少し赤くして俯いた。

 その様子を並んで見ていたロディユとジークは、アレスと吸血鬼たちが知り合いだったことを初めて知り、驚きの表情を浮かべていた。
 それに気づいたイリヤは、ロディユとジークの後ろから小声で話しかける。

「アレスは神域から追放された後、ブラッドさんとキャリーさんから吸血鬼の術を教わったんだ。あんな破天荒な振る舞いだけど、根はものすごく真面目なんだぜ。俺とチームを組むことになったのは、一緒にブラッドさんに訓練してもらったことがあるからなんだ。俺たちの連携はバッチリだから、ロディユは心配しなくていいぞ」

 ロディユとジークは、意外感を示しながら頷いた。

 そんな談笑が行われている間、第三部隊で一番寡黙だったミカエルは、下の浮遊島の様子をじっと見ていた。

 ——天使軍の戦法はめちゃくちゃだ。ラファエルとウリエルは身勝手な動きばかり。大切な部下を無駄死にさせる気か……?


 何もできないミカエルは、悔しそうに歯ぎしりを鳴らした。
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