俺は人間じゃなくて竜だった

香月 咲乃

文字の大きさ
41 / 57

40 浮遊島1

しおりを挟む
 サタン隊は、すでに結界が破壊された第一浮遊島に上陸していた。
 天空神殿の前に到着すると、サタンは笑みを浮かべる。

「あら~? 邪神は神域に入れないんじゃなかったかしら?」

 サタンが話しかけたのは、天空神殿の門の前に立っていた女神セクメトだ。
 鋭い目つきでサタンを睨んでいる。

「他の神は、ここにいないのかしら?」
「スベテ、コロセ」

 二人の会話は成立していなかった。
 天使同様に誰かに操られている、とサタンは確信する。

『各兵は隙を見て散開』

 サタンは、死精霊経由で背後にいる兵に密かに告げた。
 各兵は指示通り姿を消し、移動を開始する。

「——そうなる前に私が殺してあげるわ」

 セクメトは歯ぎしりをした。

「あー!!!」

 セクメトは言葉にならない声を発し、業火の檻でサタンを閉じ込めた。

「残念ね~。痛くもかゆくもないわ。炎は私も得意なのよ。しかも、あなたの炎よりも強力よ?」

 サタンは炎の中からそう告げると、業火の檻は漆黒の炎とともに崩れ落ちた。
 セクメトはすぐさま業火球を連続でサタンへ放つ。

「言葉が理解できないって大変ね。私には効かないのよ、その炎は」

 サタンはセクメトの放った炎を漆黒の炎で跳ね返し、そのままセクメトを狙う。
 セクメトはそれを振り払おうと、瞬時に炎の盾を出して対抗する。

「馬鹿ね……」

 その盾に当たる直前、サタンの漆黒の炎は広がり、セクメトを包み込んだ。

「あ゛ー!!!」

 セクメトは黒煙で皮膚を焼かれ、痛みで叫び声を上げる。

「あなた、正気だった頃の方が強かったと思うわ。じゃあね」

 その言葉を言い終わる頃、セクメトは焼き尽くされ、灰に変わり果ててしまった。


 その後、先に神殿へ攻め込んでいた小隊から、サタンへ連絡が入る。

『——サタン様、神のヘスティアー、ヘルメスと戦闘中なのですが、苦戦しています!』
「さすが十二神ね。いいわ、私が相手をする。到着するまで足止めしておいて」
『畏まりました!』

 サタンは口角を上げた。

「この島はやっぱり当たりだったわね。私って運がいいわ~!」





 第二浮遊島。

 ベルゼブブ隊もすでに上陸しており、立ちはだかる天使たちと兵が戦闘中だった。
 ベルゼブブは副隊長のベリアルとともにそれを退屈そうに眺めていると、上空から殺気を感じる。
 天使とは明らかに違う雰囲気をまとう者が、ゆっくりと降りてきた。

「ベルゼ、手強そうな奴が来たじゃない?」

 その者は、女神ネメシスだった。

「ベルゼ、こいつは私がやるわ」

 銀色の鎧をまとったベリアルは、舌なめずりをしながらそう言った。

「いいだろう、好きにしろ。だが、前みたいにヘマはするなよ?」
「いつまでも昔のことを言わないでよ!」

 昔の失態を掘り起こされたベルゼブブは、顔を真っ赤にしながら叫んだ。
 ベルゼブブはその反応に呆れている。

「わかっているのならそれでいい、私は他に神がいないか探しに行く」
「邪魔だから、早く行って!」

 ベルゼブブは「はい、はい」と言いながら、手が空いていた配下を連れて浮遊島の奥へ向かった。

「——悪ニハ神罰ヲ」

 ネメシスはそう言うと、右手に持っていた大剣をゆっくりと振りかぶった。

「——がはっ!」

 ネメシスは剣を振り下ろし、渾身の一撃を放つつもりだった。
 しかし、動きがあまりにも遅かった。
 気づいた時には、ベリアルの手がネメシスの胸を貫通していた。

「先制攻撃あるのみ~」

 ベリアルは笑みを浮かべながら、突き刺した手を抜き取る。

「さて、これで勝ったつもりはないよ。油断は禁物だからねー」

 ベリアルは、突き刺した手に握られていた神の魂を握り潰した。
 そして、念押しでネメシスに火を放つ。

「これをやっておかないと、ベルゼにまた何言われるかわからないからね……。さて、もっと強いやつをベルゼよりも先に見つけないと!」

 ベリアルは黒い翼を広げて飛び立った。





 第三浮遊島。

 この島には、アスモデウス隊が上陸していた。

「——ッチ、男ばかりじゃないか……。やる気がでねーな」

 この島は男系天使や神が多いため、アスモデウスはふてくされていた。

「お前ら、適当にやっとけよ!」

 アスモデウスは役に立たない指示を配下に出した後、木の上に飛び乗って寝転がった。

 日光の心地よさに、アスモデウスはうとうとしていると……。
 途中、何かを察知して目を瞑ったまま口角を上げる。

「——いい香りだぜ~」

 木から転移したアスモデウスは、女の背中から抱きつき、首筋の香りを嗅いでいた。

「殲滅シテヤル!」

 そう言ったのは、女神アルテミスだった。
 抱きつかれた腕を振り払い、アスモデウスに矢を連射する。

「そんな近距離で矢を放つな! 危ねーなー!」
「——殲滅シテヤル!」

 アスモデウスの言葉を遮るように、アルテミスは叫んだ。

「お嬢さん、しばらく楽しませてもらうぜ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...