俺は人間じゃなくて竜だった

香月 咲乃

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41 浮遊島2

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 神域、第一浮遊島、天空神殿廊下。

「——サタン様!」

 女神ヘスティアー、神ヘルメスと交戦中の兵たちは疲弊した様子だった。
 数人は床に倒れ込んでいる。

「おまたせ~。この二人に邪魔させないようにするから、今すぐケガ人を連れて外へ退避しなさい」
「畏まりました!」

 サタンの指示を受けた兵たちは、急いで作業に入る。
 その動きに反応したヘスティアーは兵たちに手を向け、魔法を発動しようとしていた。

「あ……がっ」
「ゔっ……」

 ヘスティアーは魔法を発動できず、首に手を当てて苦しみ始めた。
 ヘルメスも同じくだ。
 その原因は二人の首にかけられた黒い輪——サタンの呪いの輪が取り付けられていた。

「ちょっと待っててね~」

 サタンは優しい声で二人に告げた。
 その間に兵たちは転移魔法陣を出し、ケガ人を外へ連れ出す。

「——がはっ!」

 その間にヘルメスは白目をむき、口から泡を吹く。
 さらに、美しい水色の髪と白い肌には、呪いの影響で黒い斑模様が浮かび上がっていた。

「あらま……色男が台無しね~。あまり動くと、余計に縛りがきつくなるわよ~」

 そう言いながらも、自分の呪いでヘルメスが汚れていく様子にサタンは興奮していた。

「——サタン様、作業完了しました!」
「ご苦労様~。あなたも退避してちょうだい。この建物は破壊するから」
「畏まりました!」

 最後に残っていた兵は一礼し、転移魔法陣で消えた。

「さーて……。一人は失神してしまったわね。残念だけど、あなたと一対一で戦いましょうか?」

 サタンは、ヘルメスに呪いの輪をつけたまま漆黒の檻に閉じ込めた。
 そして、壁を突き破りながらその檻を神殿の外へ放り投げる。

「さっそく、邪神の技を応用させてもらったわ」

 サタンはそう言った後、ヘスティアーの呪いの輪を消し去った。

「女との戦いは、すぐに終わらせるのが私の主義なの。よろしくね——」

 サタンが話している途中、ヘスティアーはすぐに攻撃体勢に入る。
 炎を纏った剣、矢、槍の数十本をサタンを囲むように出現させ、一度に放っていた。

「あなたも火を扱うの……それじゃつまらないのよね~」

 サタンは逃げることはなく、全ての武器を素手で回収した。

「この武器はとてもいいものばかりね。お持ち帰りするわ。部下たちへお土産として」

 サタンは収納魔法陣を展開し、手に持った武器をそこへ放り込んだ。

「ヘパイストスの……」

 ヘスティアーは小声で呟く。

「なーに? 聞こえないわ?」

 サタンはわざとらしく耳に手を当て、聞き返した。

「あ゛ーーーー!!!」

 大切な武器を奪われたヘスティアーは怒りを爆発させ、長い赤毛を逆立たせた。
 全身から炎が吹き出し、体から湯気のようなものが沸き立っている。

「怒らせちゃった? その調子よ~」

 サタンは笑みを浮かべ、右手で紐を引っ張るような仕草をした。

 すると——。

 ヘスティアーは首から前へ引っ張られ、床に激突してしまった。

「がっはっ!」
「ふふふっ。暴れる獣は調教しないとね~」

 サタンはクスクス笑いながら右手を左右上下に動かし、ヘスティアーはその動きに合わせて壁や天井、床に体を激しく打ち付ける。

「さて、神殿を壊すように言われているから、その道具になってもらうわ~」
「がはっ!!!」

 サタンは容赦なくヘスティアーを振り回し始め、そのまま前進しながら建物を破壊し始めた。

「道具としてはとても優秀よ~」

 神殿はサタンの移動に合わせて崩れていった。



 天空神殿が半分以上破壊された頃、サタンは異変に気づく。

「目を覚ましたみたいね」

 サタンは抜けた天井から見える空へ視線を向けた。

 そこには、空中で浮いているヘルメスがいた。
 呪いが広がり、ヘルメスの身体のほとんどが黒くなってしまっている。

 サタンは床で倒れているヘスティアーに視線を戻し、「もう、さよならよ」と呟いて漆黒の炎を放った。
 ヘスティアーは一瞬で魂ごと燃え尽くされてしまう。

 そして、愛おしそうにヘルメスを見上げる。

「さあ、いらっしゃい。檻から出るなんて、さすが万能神。ギリギリのところで呪いの輪も外せたみたいね——」

 ヘルメスは話しているサタンに向かって、強烈な音を発生させた。

 サタンはすぐさま死精霊で両耳を覆い、その音を軽減させる。
 そしてヘルメスの視界を奪うため、サタンは神殿を爆発させた。
 粉塵が舞い上がり、周りの景色は何も見えない状態へ。

 しかし——。
 ヘルメスは風魔法で粉塵を瞬時に追いやった。

「音で攻撃なんて……素敵ね。でも、ベルゼブブの虫たちの方が嫌な音をだすのよ」

 サタンはその言葉をヘルメスの耳元で囁いた。
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