43 / 57
42 浮遊島3
しおりを挟む神域、第一浮遊島。
「音で攻撃なんて……素敵ね。でも、ベルゼブブの虫たちの方が嫌な音をだすのよ」
サタンはその言葉をヘルメスの耳元で囁いた。
その直後、ヘルメスの体は自由を奪われる。
気づかないうちに、サタンによって首や手足に呪いの輪が付けられていた。
サタンはヘルメスの首筋をひと舐めすると離れた上空へ転移し、ヘルメスの呪いの輪から伸びる紐を自分の方へ引っ張った。
「がはっ!」
苦痛の表情を浮かべながら、ヘルメスは猛スピードでサタンの方へ引っ張られていた。
ヘルメスは呪いの輪に振動波を送り込み、粉々に破壊してどうにか解放される。
「いいわね~。もっと楽しみましょう?」
サタンは嬉しそうに手から黒炎の鎖を数十本出し、ヘルメスを狙った。
ヘルメスは防御壁で体を覆い、飛行しながら回避。
それでも、どこまで逃げてもサタンの鎖は追ってくる。
逃げきれないと判断したヘルメスは、鎖とサタンに向かって水剣を無数に放った。
しかし、サタンの鎖はそれを全て吸収してしまう。
「残念ね。この鎖はあなたの神聖系魔力を吸収して、より強力になるのよ。まあ、操り人形に成り果てたあなたには、理解できないでしょうけど……」
ヘルメスはその後も飛行で避けながら、その他の属性の魔法で鎖を切断しようと試みる。
しかしサタンの言う通り、どれもサタンの鎖に吸収されてしまっていた。
「すごいわ。いろんな属性が使えるのね。でも、あなたの魔力では無理なのよ」
ヘルメスは島の外へ逃げることに。
「ダメよ~、外に出ちゃ。私が怒られるんだから。もう少し遊びましょう?」
サタンの鎖は一瞬で網のように広がり、ヘルメスを取り囲んだ。
同じように、第一浮遊島全体をその網で包み込む。
「さあ、また逃げていいわよ~? 私の作った籠の中で」
サタンはそう言うと、ヘルメスを囲んでいた網を消し去った。
どうしていいかわからなくなったヘルメスは口を開いたまま、その場で動きを止めてしまった。
*
神域、第三浮遊島。
「殲滅シテヤル!」
アスモデウスは、アルテミスが放つ怒涛の弓矢攻撃から楽しそうに逃げ回っていた。
「お嬢ちゃん、いいよ~。もっとくれ——」
「——ガゥ!!!」
アルテミスの眷属の鹿——ケリュネイアは、アルテミスの矢と同じくらいのスピードで動き回り、アスモデウスを牽制する。
「邪魔するなよ」
アスモデウスはケリュネイアの腹を蹴飛ばした。
「光ヨ!」
アルテミスはそう叫んだ後、日光を含ませた聖光矢を大量に放ち、アスモデウスの視界を奪った。
「ガウッ!」
目を覆うアスモデウスの背後から、ケリュネイアが大きな口を開いて襲いかかる。
「——邪魔するなといったはずだ。せめて無言で襲いかかればいいものを……」
アスモデウスは、自分の蛇尻尾をケリュネイアの口へ突き刺した後にそう言った。
ケリュネイアの喉を貫通していた蛇尻尾は、大きく口を開き、ケリュネイアの首元を噛み切る。
「ケリュネイア!!!」
尻尾の蛇はさらに大きな口を開け、バラバラになったケリュネイアの体を全て飲み込んだ。
怒りに満ちたアルテミスは、弓を巨大な剣に変えて上段に構えた。
周囲の光をその剣が吸い込んでいく。
「殲滅シテヤル……」
アルテミスは低い声でそう呟いた後、神々しく光る大剣をアスモデウスに向かって振り下ろした。
凄まじい爆音と破壊音が轟いた。
あまりの衝撃で辺りは煙に巻かれる。
アルテミスは無数の光矢を射ってその煙を消し去る。
おぞましい景色がアルテミスの眼下に広がっていた。
その斬撃痕は凄まじく、第三浮遊島は真っ二つに分断されていた。
残っている島は焼け野原で、自然豊かな景色は完全に消滅している。
アルテミスはその景色を気にもとめず、アスモデウスを探す。
「ガウ……」
背後から聞き覚えのある眷属の声が。
「ケリュネイア!」
アルテミスはケリュネイア思いきり抱きしめた。
本来のアルテミスなら、すぐに気づいたかもしれない。
死んだはずのケリュネイアが無傷だったことを。
ケリュネイアの体を覆う神聖光が消えていることを。
そして、聖獣らしからぬ卑しい表情を浮かべていたことを。
抱きしめているケリュネイアは偽物だった。
本当の正体は——。
ケリュネイアを吸収し、その姿に変身したアスモデウスだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる