俺は人間じゃなくて竜だった

香月 咲乃

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42 浮遊島3

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 神域、第一浮遊島。

「音で攻撃なんて……素敵ね。でも、ベルゼブブの虫たちの方が嫌な音をだすのよ」

 サタンはその言葉をヘルメスの耳元で囁いた。

 その直後、ヘルメスの体は自由を奪われる。
 気づかないうちに、サタンによって首や手足に呪いの輪が付けられていた。
 サタンはヘルメスの首筋をひと舐めすると離れた上空へ転移し、ヘルメスの呪いの輪から伸びる紐を自分の方へ引っ張った。

「がはっ!」

 苦痛の表情を浮かべながら、ヘルメスは猛スピードでサタンの方へ引っ張られていた。
 ヘルメスは呪いの輪に振動波を送り込み、粉々に破壊してどうにか解放される。

「いいわね~。もっと楽しみましょう?」

 サタンは嬉しそうに手から黒炎の鎖を数十本出し、ヘルメスを狙った。
 ヘルメスは防御壁で体を覆い、飛行しながら回避。
 それでも、どこまで逃げてもサタンの鎖は追ってくる。

 逃げきれないと判断したヘルメスは、鎖とサタンに向かって水剣を無数に放った。
 しかし、サタンの鎖はそれを全て吸収してしまう。

「残念ね。この鎖はあなたの神聖系魔力を吸収して、より強力になるのよ。まあ、操り人形に成り果てたあなたには、理解できないでしょうけど……」

 ヘルメスはその後も飛行で避けながら、その他の属性の魔法で鎖を切断しようと試みる。
 しかしサタンの言う通り、どれもサタンの鎖に吸収されてしまっていた。

「すごいわ。いろんな属性が使えるのね。でも、あなたの魔力では無理なのよ」

 ヘルメスは島の外へ逃げることに。

「ダメよ~、外に出ちゃ。私が怒られるんだから。もう少し遊びましょう?」

 サタンの鎖は一瞬で網のように広がり、ヘルメスを取り囲んだ。
 同じように、第一浮遊島全体をその網で包み込む。

「さあ、また逃げていいわよ~? 私の作った籠の中で」

 サタンはそう言うと、ヘルメスを囲んでいた網を消し去った。
 どうしていいかわからなくなったヘルメスは口を開いたまま、その場で動きを止めてしまった。





 神域、第三浮遊島。

「殲滅シテヤル!」

 アスモデウスは、アルテミスが放つ怒涛の弓矢攻撃から楽しそうに逃げ回っていた。

「お嬢ちゃん、いいよ~。もっとくれ——」
「——ガゥ!!!」

 アルテミスの眷属の鹿——ケリュネイアは、アルテミスの矢と同じくらいのスピードで動き回り、アスモデウスを牽制する。

「邪魔するなよ」

 アスモデウスはケリュネイアの腹を蹴飛ばした。

「光ヨ!」

 アルテミスはそう叫んだ後、日光を含ませた聖光矢を大量に放ち、アスモデウスの視界を奪った。

「ガウッ!」

 目を覆うアスモデウスの背後から、ケリュネイアが大きな口を開いて襲いかかる。

「——邪魔するなといったはずだ。せめて無言で襲いかかればいいものを……」

 アスモデウスは、自分の蛇尻尾をケリュネイアの口へ突き刺した後にそう言った。
 ケリュネイアの喉を貫通していた蛇尻尾は、大きく口を開き、ケリュネイアの首元を噛み切る。

「ケリュネイア!!!」

 尻尾の蛇はさらに大きな口を開け、バラバラになったケリュネイアの体を全て飲み込んだ。

 怒りに満ちたアルテミスは、弓を巨大な剣に変えて上段に構えた。
 周囲の光をその剣が吸い込んでいく。

「殲滅シテヤル……」

 アルテミスは低い声でそう呟いた後、神々しく光る大剣をアスモデウスに向かって振り下ろした。

 凄まじい爆音と破壊音が轟いた。

 あまりの衝撃で辺りは煙に巻かれる。

 アルテミスは無数の光矢を射ってその煙を消し去る。

 おぞましい景色がアルテミスの眼下に広がっていた。
 その斬撃痕は凄まじく、第三浮遊島は真っ二つに分断されていた。
 残っている島は焼け野原で、自然豊かな景色は完全に消滅している。

 アルテミスはその景色を気にもとめず、アスモデウスを探す。

「ガウ……」

 背後から聞き覚えのある眷属の声が。

「ケリュネイア!」

 アルテミスはケリュネイア思いきり抱きしめた。

 本来のアルテミスなら、すぐに気づいたかもしれない。

 死んだはずのケリュネイアが無傷だったことを。
 ケリュネイアの体を覆う神聖光が消えていることを。
 そして、聖獣らしからぬ卑しい表情を浮かべていたことを。

 抱きしめているケリュネイアは偽物だった。
 本当の正体は——。
 ケリュネイアを吸収し、その姿に変身したアスモデウスだった。
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