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43 オリュンポス1
しおりを挟むオーディンは第三部隊が待機する浮遊岩に移動していた。
今は別の待機場所にいるポセイドン、ルシファーを含め、戦況や今後の方針を話し合っているところだ。
「——第四~第六浮遊島は、すでに第二部隊で制圧済みだ。どの島にもアテナはいないという報告も入っている。オリュンポスにいることは確実だろう。今は手があいている者をオリュンポス結界破壊に行かせている。残りの第一~第三浮遊島は神と交戦中のようだが、ほぼ制圧したということだ。その三つの島に行っている指揮官は、わざと戦いを長引かせて楽しんでいるようだが……」
オーディンは、第二部隊の状況説明を終えた。
『仲間の七罪が余計なことをしているようで、申し訳ありません』
ルシファーは死精霊を経由して謝罪した。
『まあ、今は目を瞑っておく。やりすぎたと判断した場合、やめるように指示を出せ。それでもダメなら我が処罰する』
ポセイドンは死精霊を経由してルシファーに警告した。
『畏まりました』
『さて、戦況について話を戻すが……、予想以上に神も天使もあまりに弱すぎる』
『ゼウスとヘラは新世界を作るため、双子星の崩壊を望んでいると聞いています。使えない天使や神は奴らにとってただのゴミ。私たちに掃除させただけではないでしょうか? または、何かをするための時間稼ぎにしかなっていないのかもしれん』
ポセイドンの発言にルシファーが意見を述べた。
「時間稼ぎ……。まさか、アテナ様が……?」
ミカエルは苦しい表情を浮かべる。
「現在、十神にあたるデメテル、ヘパイストス、アフロディテ、アテナの行方がわかっていない。おそらくオリュンポスに隔離されているか、それとも……ゼウスとヘラの生贄になっている可能性があるだろう」
「とにかく、ゼウスを先に倒せば問題ないだろ?」
オーディンの意見に対して、アレスはそう言った。
「それでいい……すまん、結界破壊分隊から連絡だ」
オーディンの一言で、その場にいた全員は口を閉じ、耳を傾ける。
『——オリュンポスを覆っている結界は、そろそろ限界の模様です』
「第二部隊隊長から命ずる。第二部隊、直ちに退却!」
オーディンは「後は任せた」と言いながら隣にいたハデスの肩を叩き、その場から離脱した。
第二部隊の兵たちは転移魔法陣を起動し、オリュンポスから急いで退却を始める。
その場を離れずにいたのは、青い竜のベルセルクだけだ。
目を瞑り、静かに時を待っている。
『——第二部隊退却は完了した。貴殿に結界破壊全権を譲渡する』
ベルセルクの首に巻き付いていた死精霊から、オーディンの声が届いた。
息を大きく吐いた後、ベルセルクはカッと目を開く。
ゆっくりと頭を下げ、ヒビが入ったオリュンポスの結界へ角を向けた。
角から、青白い光球が出現する。
その光球はオリュンポスを包み込むほどの大きさへ急速に拡大。
ベルセルクは咆哮した。
同時に、巨大な光球をオリュンポスへ放った。
その光球が結界に触れた瞬間、凄まじい爆発とともに爆音・衝撃波が発生する。
「すごい攻撃力ですね」
「そうだな」
イリヤはロディユの感想に頷いた。
第三部隊はすでに浮遊岩から離れ、空中でベルセルクの様子を見守っていた。
各自を襲う爆音と衝撃波はロディユの防御壁効果で完全に防がれ、眩しい光から目を背けているだけだ。
不気味なくらいの静寂に第三部隊は包まれていた。
ベルセルクの放った光がまだ消えない中、ハデスの元へ連絡が入る。
『——ベルセルクから連絡、結界の排除に成功。第三部隊の活躍に期待する』
「ベルセルク、ご苦労だった。あとは我々に任せてくれ」
ハデスは第三舞台全員に視線を送る。
「第三部隊、準備してくれ」
ハデスの掛け声で、全員が死精霊で口と耳を覆う。
ロディユはアクアを睡眠魔法で眠らせ、魔法カバンに収めた。
『アレスさん、いいですか?』
『構わない。防御は任せたぞ』
アレスは素っ気なく返事をし、ロディユに背中を向けた。
それでも、ロディユはその言葉が嬉しくて少し顔を赤くする。
アレスの背中に飛び乗ると、ロディユは鎖型防御壁で自分とアレスを強固に結びつけた。
『念のために確認しておくが、死精霊は声の出し方を分けられる。基本的には声が漏れないようにしてある。声を実際に発したい場合は、『声』と念じてから声を発してくれ。特に、アレス隊は使い分けに気をつけろよ』
アレス隊——アレス、イリヤ、ロディユはハデスの忠告に頷いた。
『問題ない。すでに三人で確認済みだ』
『ならいい。ではロディユ、アレス・ミカエル・ジークへ完全不可視化の解除を頼む』
『はい!』
『第三部隊、出動』
アレスはハデスの合図で真っ先に飛び出し、オリュンポスへ全速力で向かった。
*
オリュンポス。
『——全員の上陸を確認した。今からここは異界へ移動する』
第三部隊全員にそう告げたハデスは、オリュンポスを暗黒の異空間に閉じ込めた。
これは、ゼウスやヘラの逃亡や生贄確保を回避するための対策だ。
『わかっていると思うが、これで誰も逃げられない。外とは連絡も取れない。アレス、指示が出るまで待機だ』
『言われなくてもわかっている』
『ならいい。では吸血鬼の諸君、先に行って神殿探索を頼む』
『わかった』
『任せておきなさい』
『了解』
指示を受けた三人は、神殿の方へ向かった。
『ハデス、死精霊はベルセポネに見えるんじゃないのか?』
『心配性だな。私と契約している死精霊はベルセポネには見えない』
『ならいい』
アレスはそう言いながら首を回し、体をほぐしていた。
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