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36 同盟軍の集結
しおりを挟むロディユ、ポセ、ミカエル、吸血鬼の三人(イリヤ、ブラッド、キャリー)は、ルシファーが用意した隠れ家——同盟軍総司令本部へ来ていた。
「——ポセイドン!」
ロディユたちが部屋に入るなり、奥から大きな声が響いた。
「ようやく顔が見れて嬉しいぞ!」
「我もだ!」
ポセは笑顔を浮かべながら、長テーブルの奥に座るオーディンの方へ転移した。
下座に座る数人のヴァルキリーたちはポセの変わり果てた姿を見て、驚きの表情を浮かべている。
オーディンは大きな拳を向けると、ポセは小さくなった拳を軽く当てた。
「それにしても、貧弱な体になったな」
「一度死んでしまったからな。戦い当日までは、この体の状態で神聖力を溜め込むつもりだ」
「そういうことか」
「オーディンこそ、少しは小さくなった方がいいのではないか? この小さな体は何かと便利だぞ」
「ふむ……、考えておこう」
オーディンは満更でもない表情を浮かべた。
「そうだ、我の仲間を紹介させてくれ。みんな、こちらへ」
入り口付近に立っていたロディユたちは、ポセの方へ急ぎ足で近寄った。
「左から、ミカエル、ロディユ、イリヤ、ブラッド、キャリーだ」
それぞれ、紹介されるたびに一礼した。
オーディンはブラッドとキャリーに視線を止める。
「『真祖』二人が仲間になってくれるとは、心強い」
黒の燕尾服を着たブラッドは胸に右手を添えて一礼し、隣にいたキャリーは真紅のドレスの裾を広げ、膝を軽く曲げた。
二人は吸血鬼の最も古い血筋——『真祖』と呼ばれており、イリヤはブラッドを師事している。
「皆の勇気に感謝する。空いた席に座ってくれ。打ち合わせに入ろう」
近くの席に全員が座った。
「では、早速打ち合わせに入ります」
一人のヴァルキリーがそう言うと、テーブルの上に立体映像を出現させた。
映像には同盟軍の編成内容が表示されており、どの角度からでもはっきり読めるようになっている。
<同盟軍編成内容>
総司令——ポセイドン
『第一部隊』
目的——希望の塔破壊、塔の犠牲になった魂を保護、アンデッドの無力化
指揮官——ルシファー
部隊兵——魔人、冥界人、アスガルドの巨人、竜人
『第二部隊』
目的——オリュンポス以外の神域制圧
指揮官——オーディン
隊員——ルシファー以外の七罪、魔人精鋭部隊、ヴァルキリー、竜、竜人、冥界人
『第三部隊』
目的——オリュンポス潜入、ゼウス・ヘラの討伐
指揮官——ハデス
隊員——ロディユ、ジーク、アレス、ミカエル、イリア、ブラッド、キャリー
モニターの上には二体の白蛇のような死精霊が浮いており、冥界のハデス、ルシファーと会話ができる状態になっていた。
最初に口を開いたのはポセだ。
「——まず、我から報告だ。すでに知らせているが、姉上のアテナから定期連絡が完全に途絶えた。それ以降、我の側にミネルバがいる」
ポセにしか見えない青いフクロウは、ポセの肩に止まっていた。
ミカエルはその話を聞いて、苦痛の表情を浮かべる。
「姉上から警告を受けていた。ミネルバが帰れなくなった場合、『守護の鍵を自分に使った』あるいは、『拘束された』ことを意味すると。そして、ミネルバの死は姉上の死だということも……。今は生きていることだけがわかっている状態だ」
「生きているのであれば、神域のどこか……オリュンポスにいる可能性が高いだろう。なら、第二部隊と第三部隊にアテナ捜索・救出の項目を追加するか?」
「頼む」
オーディンの指示でヴァルキリーが映像に追記した。
「姉上は予定していた役割——『ヘラを神界へ送り返すこと』ができなくなった。姉上に代わって、ロディユに担当してもらう」
すでに知っていたミカエル、イリヤは、ポセの発言を聞いて視線を落とした。
それ以外の者たちは、驚きの表情を浮かべてロディユを見つめる。
ロディユは不安を表情に出さないように口を開く。
「神域にあるマスターエルダーの二つの聖石を手に入れた後、僕はそれを吸収して完全な神になります。その後、ヘラを神界へ連れて行くつもりです」
「残り二つの聖石を回収できなかった場合は、どうするつもりだ?」
「第二案は、残念ながらありません」
オーディンの質問に対し、ロディユはそう答えた。
「それなら、もう少し第三部隊に人員を……」
『——必要ない』
死精霊経由でハデスがオーディンの意見に反対した。
「なぜだ?」
『人員が増えた分、防御を担当するロディユの負担が増える。聖石の力はヘラ追放に残しておくべきだ。それに、我々を舐めてもらっては困るぞ。神域の中途半端な神よりも強いやつばかりだ』
「まあ、そうなんだが……」
オーディンはそう言いながら、腕を組んで考え込む。
『では、次は私から報告させてもらう——』
ハデスが話し始めた。
『——すでに知っているだろうが、ベルセポネがゼウスの仲間であることが判明した。冥界の専任部隊に地上をくまなく捜索させているが、見つかっていない。神域に雲隠れしている可能性が高いだろう。見つけ次第、奈落へ落とすつもりだから情報があれば知らせてほしい』
「了解だ。おそらく、お前自身がオリュンポスで見つけることになりそうだがな」
オーディンは、ハデスの声を出す死精霊へ向かってそう告げた。
しばらく間が空いた後、もう一体の死精霊からルシファーの声が。
『では、次は私から報告を。ボルックス大陸も含め、各街に結界展開部隊を配置済みです』
「ルシファー、お前の血で補強された結界だから絶対に死ぬなよ。我を庇って自ら盾になるなど、言語道断だ。世界の民の命を守ることに全力を尽くせ」
『……畏まりました、ポセイドン様』
ルシファーは少しためらいながら返事をした。
ポセの命は第一優先と考えているルシファーにとって、その命令はあまりにも辛い。
「——すまない。遅れた」
そう言って部屋に入ってきたのは、真っ赤な髪をした男——かつての十二神、アレスだった。
ポセとは違う種類の整った顔立ちで、色気がある。
緩い巻き髪を揺らしながら、ポセの方へまっすぐ向かい、立ち上がったポセと強く抱き合った。
「兄者、ご無事でなによりです」
「心配かけたな。我の呼びかけに応じてくれたこと、感謝する」
そう言葉を掛け合った後、アレスはポセの後ろの壁に寄りかかった。
「遅いぞ、アレス。どうせ遅れると思って先に始めていた」
「まあ、話し合いなんて退屈だからな。あの二人と戦えればそれでいい」
アレスは目をぎらつかせながら、オーディンに向かってそう答えた。
「相変わらずだな、アレス。だが、本来の目的を忘れるなよ?」
「そんなことはわかっている。あ~、早くゼウスとヘラに会いたいな~」
戦いのことしか頭にないような発言に、全員が困った表情を浮かべる。
『アレス、ついでにベルセポネも倒してくれて構わんぞ。もし、私の手が他のことで埋まっていれば、の話だがな』
死精霊から聞こえたハデスの言葉に、アレスは口角を上げる。
「ハデス、面白そうなことを言ってくれるじゃないか。どちらがベルセポネを倒すか、早い者勝ちだな?」
『そうではあるが、できればゼウスを優先してくれよ?』
「気分次第だ」
アレスは狂気に満ちた鋭い視線を死精霊に送った。
「あの……、アレスさん——」
アレスは、ポセの隣から話しかけてきたロディユを睨みつけた。
しかし、なぜかアレスはすぐに視線を逸らす。
あまりの純粋な瞳に耐えられなかった。
「アレスさんと同じチームのロディユです。僕がアテナさんの代わりになったので、できるだけ力を温存しないといけなくなりました。完全に防御主体になるのでよろしくお願いします」
「好きにしろ」
アレスは視線を逸らしたまま、素っ気なく言った。
その後、各部隊や神域の状況などを共有し、打ち合わせが終了した。
そして数時間後、沈黙は破られることになる。
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