34 / 46
34 偶然の再会
しおりを挟むアダムは話しかけてきた女性の指輪を見て、驚きの表情を浮かべていた。
「もしかして、光をくれた人ですか?」
女性は帽子を脱ぎ、アダムに笑顔を見せた。
「こんにちは。エリーゼと言います」
「こんなところでお会いするなんて……よく僕だって気づきましたね」
「この光が呼び寄せてくれたようです。不思議な光ですから」
アダムはネックレスを胸元から出し、光る石を見つめる。
前よりも光が強くなっているかもしれない、とアダムは感じた。
「メールの返事がなかったので、もうお会いできないと思っていました。でも、会えましたね」
アダムは軽く頭を下げる。
「申し訳ありません……。普段から仕事のメールが多いので、見逃していました……」
「いいんですよ。こうやってお会いできましたから。それで、あなたのお名前をお伺いしても?」
「あ、はい、僕はアダムと言います」
「アダムさん、突然ですが、これからおすすめの魔植物を一緒に見に行きませんか?」
アダムは戸惑いの表情を浮かべた。
エリーゼ——ケリーはそう反応するだろう、と予想していたので、補足情報をすぐに追加する。
「『フルート』という魔植物をご存知ですか? 30年に1度だけ、花を咲かせるんです。それが今日なんですよ。しかも、夕方になると歌うんです。それも今日だけです!」
「え!? 今日だけですか!?」
さすがのアダムでも興味を示した。
「そうです! 見に行きませんか?」
「行きます!」
「じゃあ、急ぎましょう!」
ケリーはアダムの返事を聞くとすぐ、アダムの左手を強引に引っ張って駆け出した。
——エバもこんな風にするかもな……。
アダムはエリーゼの後ろ姿にエバを投影し、懐かしむように見つめていた。
「——エリーゼさんは魔植物に詳しいようですが、その関係の仕事をしてるんですか?」
「いいえ。暇さえあれば図鑑を見ているので、詳しいだけです」
「でも、賭けで僕が問題にした魔植物は、魔法学院でしか発表されていないものですよ? 学院関係者だと思ったのですが……?」
ケリーは意味ありげな笑みをアダムに向けた。
「いつか、そのことについてお話ししてあげますよ。これから仲良くしてくれるなら」
アダムは眉根を寄せる。
「また賭けみたいなことを言うんですね。そのネックレス以外に取り上げるようなことはしないでくださいね。できればそれを返して欲しいくらいですから……」
アダムはケリーの胸元で光るネックレスに視線を送る。
「人聞きが悪いことを言わないでくださいね。賭けに乗ったアダムさんが悪いんです。あ、見てください! フルートが見えてきましたよ!」
ケリーが指差した先には、巨大な唇型の赤い花がそびえ立っていた。
かなり高さがあるので、人混みの中でもよく見える。
「少し遠いですが、十分に声は聞こえるでしょう」
「間に合ってよかったです!」
「——しっ!」
ケリーは口に人差し指を当て、アダムに静かにするよう促した。
アダムは不思議に思っていると、周りの人たちも雑談をやめていることに気付く。
しばらくすると、今までに聞いたことがない美しい声が響く——。
『ア~ア~アアア~——』
アダムは自然と目を瞑った。
フルートの声を全身で味わうために。
美しい、という一言で片付けてはいけないくらいの美声。
見た目は気持ち悪い魔植物なのに、繊細なメロディ。
アダムはその美声で、心が浄化されるような感覚に陥っていた。
——エバも聴きたかっただろうな……。
数分後。
歌が終わると、花の色は徐々に黒くなっていった。
歌で魔力を使い果たした結果だ。
最後には黒ずんだ花はしおれ、地面に落ちてしまう。
観客は無言でその様子をしばらく見ていたが、その1人が拍手をする。
間をおいて、周りの人たちも一斉に拍手を始めた。
「——アダム、すごかったね!」
「うん!」
2人は拍手が鳴り止むまで、フルートに賞賛の拍手を送った。
拍手が止み、フルートの観客がほとんどいなくなった頃。
ケリーとアダムはまだ余韻に浸り、フルートを黙って見つめていた。
「——数分間しか花が咲かないなんて、もったいないね」
アダムの言葉にケリーは頷く。
「そうだね。歌のために30年も魔力を貯めてるんだよ。気の遠くなる時間……」
アダムはそれを聞いて感慨に耽る。
——この魔植物と比べたら、僕は数年間しか苦しんでいなかったんだな……。
「あ~、もっと聞きたかったなー! あ!? 録音しておけばよかったー!!! せめて写真を撮るべきだった!!!」
アダムはその様子に笑みをこぼす。
「本当だね。急なことだったから僕も思いつかなかったよ。でも、図鑑とかで動画が見られるよね?」
「そうなんだけど……。でも、やっぱり自分で見たものがいいでしょー? あーあ、この国にはこの1株しかないから、30年待たないといけないのかー」
ケリーは項垂れた。
きっとエバもこんな感じの反応を見せるんだろうな、とアダムは思わず吹き出しそうになる。
「ちゃんと調べてるんだね」
「もちろん! って……、ごめんなさい、興奮しすぎて馴れ馴れしくなってた……」
ケリーの顔は真っ赤に染まっていた。
「いいよ。そっちの方が話しやすいから」
「そう言ってもらえると助かります……」
「そうだ、改めてお礼を言うよ。こんな貴重な体験をさせてくれてありがとう」
ケリーは満面の笑みを浮かべた。
「言ったでしょ? そのネックレスの光は幸運をもたらすって。これからも幸運に出会えるから楽しみにしてて」
「僕は信じてなかったけどね……」
アダムは視線を下げた。
「アダムはどんな幸運を求めてる?」
「うーん。内緒」
「もっと仲良くなったら教えてくれる?」
「考えておくよ」
「楽しみにしてる。あ! 私、そろそろ帰らなきゃ。今度はアダムから連絡してねー」
「わかったよ。気をつけて」
「ありがとう。じゃーねっ!」
ケリーは急いで出口の方へ向かった。
アダムはケリーの背中を眺めながら、あることに気づく。
今日はエバを思い出しても辛くなかったことを。
久しぶりに心が温まったことを。
それらは、エバを失ってから初めての感情だった。
アダムはその後すぐ、決意したことをサラに伝えた。
0
あなたにおすすめの小説
人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら
渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!?
このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!!
前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡
「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」
※※※
現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。
今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました!
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる