悪魔がくれた体じゃ恋愛は難しすぎる!

香月 咲乃

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34 偶然の再会

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 アダムは話しかけてきた女性の指輪を見て、驚きの表情を浮かべていた。

「もしかして、光をくれた人ですか?」

 女性は帽子を脱ぎ、アダムに笑顔を見せた。

「こんにちは。エリーゼと言います」
「こんなところでお会いするなんて……よく僕だって気づきましたね」
「この光が呼び寄せてくれたようです。不思議な光ですから」

 アダムはネックレスを胸元から出し、光る石を見つめる。
 前よりも光が強くなっているかもしれない、とアダムは感じた。

「メールの返事がなかったので、もうお会いできないと思っていました。でも、会えましたね」

 アダムは軽く頭を下げる。

「申し訳ありません……。普段から仕事のメールが多いので、見逃していました……」
「いいんですよ。こうやってお会いできましたから。それで、あなたのお名前をお伺いしても?」
「あ、はい、僕はアダムと言います」
「アダムさん、突然ですが、これからおすすめの魔植物を一緒に見に行きませんか?」

 アダムは戸惑いの表情を浮かべた。
 エリーゼ——ケリーはそう反応するだろう、と予想していたので、補足情報をすぐに追加する。

「『フルート』という魔植物をご存知ですか? 30年に1度だけ、花を咲かせるんです。それが今日なんですよ。しかも、夕方になると歌うんです。それも今日だけです!」 
「え!? 今日だけですか!?」

 さすがのアダムでも興味を示した。

「そうです! 見に行きませんか?」
「行きます!」
「じゃあ、急ぎましょう!」

 ケリーはアダムの返事を聞くとすぐ、アダムの左手を強引に引っ張って駆け出した。

 ——エバもこんな風にするかもな……。

 アダムはエリーゼの後ろ姿にエバを投影し、懐かしむように見つめていた。

「——エリーゼさんは魔植物に詳しいようですが、その関係の仕事をしてるんですか?」
「いいえ。暇さえあれば図鑑を見ているので、詳しいだけです」
「でも、賭けで僕が問題にした魔植物は、魔法学院でしか発表されていないものですよ? 学院関係者だと思ったのですが……?」

 ケリーは意味ありげな笑みをアダムに向けた。

「いつか、そのことについてお話ししてあげますよ。これから仲良くしてくれるなら」

 アダムは眉根を寄せる。

「また賭けみたいなことを言うんですね。そのネックレス以外に取り上げるようなことはしないでくださいね。できればそれを返して欲しいくらいですから……」

 アダムはケリーの胸元で光るネックレスに視線を送る。
 
「人聞きが悪いことを言わないでくださいね。賭けに乗ったアダムさんが悪いんです。あ、見てください! フルートが見えてきましたよ!」

 ケリーが指差した先には、巨大な唇型の赤い花がそびえ立っていた。
 かなり高さがあるので、人混みの中でもよく見える。

「少し遠いですが、十分に声は聞こえるでしょう」
「間に合ってよかったです!」
「——しっ!」

 ケリーは口に人差し指を当て、アダムに静かにするよう促した。
 アダムは不思議に思っていると、周りの人たちも雑談をやめていることに気付く。

 しばらくすると、今までに聞いたことがない美しい声が響く——。

『ア~ア~アアア~——』

 アダムは自然と目を瞑った。
 フルートの声を全身で味わうために。

 美しい、という一言で片付けてはいけないくらいの美声。
 見た目は気持ち悪い魔植物なのに、繊細なメロディ。

 アダムはその美声で、心が浄化されるような感覚に陥っていた。

 ——エバも聴きたかっただろうな……。


 数分後。

 歌が終わると、花の色は徐々に黒くなっていった。
 歌で魔力を使い果たした結果だ。
 最後には黒ずんだ花はしおれ、地面に落ちてしまう。

 観客は無言でその様子をしばらく見ていたが、その1人が拍手をする。 
 間をおいて、周りの人たちも一斉に拍手を始めた。

「——アダム、すごかったね!」
「うん!」

 2人は拍手が鳴り止むまで、フルートに賞賛の拍手を送った。

 拍手が止み、フルートの観客がほとんどいなくなった頃。
 ケリーとアダムはまだ余韻に浸り、フルートを黙って見つめていた。

「——数分間しか花が咲かないなんて、もったいないね」

 アダムの言葉にケリーは頷く。

「そうだね。歌のために30年も魔力を貯めてるんだよ。気の遠くなる時間……」

 アダムはそれを聞いて感慨に耽る。

 ——この魔植物と比べたら、僕は数年間しか苦しんでいなかったんだな……。

「あ~、もっと聞きたかったなー! あ!? 録音しておけばよかったー!!! せめて写真を撮るべきだった!!!」

 アダムはその様子に笑みをこぼす。

「本当だね。急なことだったから僕も思いつかなかったよ。でも、図鑑とかで動画が見られるよね?」 
「そうなんだけど……。でも、やっぱり自分で見たものがいいでしょー? あーあ、この国にはこの1株しかないから、30年待たないといけないのかー」

 ケリーは項垂れた。
 きっとエバもこんな感じの反応を見せるんだろうな、とアダムは思わず吹き出しそうになる。

「ちゃんと調べてるんだね」
「もちろん! って……、ごめんなさい、興奮しすぎて馴れ馴れしくなってた……」

 ケリーの顔は真っ赤に染まっていた。

「いいよ。そっちの方が話しやすいから」
「そう言ってもらえると助かります……」
「そうだ、改めてお礼を言うよ。こんな貴重な体験をさせてくれてありがとう」

 ケリーは満面の笑みを浮かべた。

「言ったでしょ? そのネックレスの光は幸運をもたらすって。これからも幸運に出会えるから楽しみにしてて」
「僕は信じてなかったけどね……」

 アダムは視線を下げた。

「アダムはどんな幸運を求めてる?」
「うーん。内緒」
「もっと仲良くなったら教えてくれる?」
「考えておくよ」
「楽しみにしてる。あ! 私、そろそろ帰らなきゃ。今度はアダムから連絡してねー」
「わかったよ。気をつけて」
「ありがとう。じゃーねっ!」

 ケリーは急いで出口の方へ向かった。

 アダムはケリーの背中を眺めながら、あることに気づく。
 今日はエバを思い出しても辛くなかったことを。
 久しぶりに心が温まったことを。
 それらは、エバを失ってから初めての感情だった。

 アダムはその後すぐ、決意したことをサラに伝えた。
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