【本編完結・R18】苦手だった元婚約者にドロドロに甘やかされています

堀川ぼり

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タイムリミット

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 待っているという約束を破って家を出て、遠目からは男の人と二人でお茶しているように見えたのかもしれない。
 私が知らない男の人と居たら結人が警戒するのは当然で、ピリピリした空気を纏って近付いてきたのも分かる。
 だけどそんなの誤解が解けるまでのことだろうと、そう思っていたのは間違いだったのだろうか。
 私と一緒にいるのが弟だと気付いてからも結人は冷めた目のままで、表面的に繕ってはいるものの、まだ少しだけ不機嫌そうに見える。

「……翔とは久し振りだね。元気だった?」
「元気だったよ。結人くんも元気そうじゃん。姉ちゃんと一緒にいるとか思ってなかったから、話聞いてびっくりしたけど」
「へえ、どんな話?」
「んー? 結人くん怪しいなーって話。今もさ、連絡もらったわけでもないのに何で場所分かんの? 姉ちゃんに何かつけてる?」

 最悪な話の切り出し方をする翔を見て、まだ誤解が解けていなかった事を思い出す。
 慌てて止めようと口を開いたが、私よりも結人の方が声を出したのは先だった。

「別に何もつけてないよ。和音に渡してる合鍵に紛失防止のタグついてたから分かっただけ」
「ホントに? やってること全部怪しくて正直信じらんないんだけど。一緒のマンションに住んでるのとかも、どうせただの偶然じゃないでしょ?」
「翔待って、だから違うって……」
「姉ちゃんは親切で部屋貸してくれてたとか言ってるけど、そんなワケないだろ。学生の頃は毎日呼んで何回もヤッてたのに、大人になったから変わったとか言われても信じられな、」
「ち、違う! 翔誤解してる! 毎日はしてない!」
「は……?」
「本当に数回だけで、今までに最後までしたのって五回だけだから、本当に何回もはしてない。ほとんど毎日泊まってたから勘違いしてるかもしれないけど、いつもただ」
「和音ストップ。人前で回数まで話すのやめて」
「え……? あ、ごめ……」

 おかしな暴露をした事に今更気付いて恥ずかしくなる。結人が止めてくれなかったら、五回目は昨日したなんて余計な事まで口走っていたかもしれない。
 自分を落ち着かせるように一度大きく息を吐き、これ以上変な事を言わないように頭の中を整理する。
 思い掛けず結人と合流してしまったけれど、今ここで翔の誤解を解くのは私の役目だ。

「……とにかく、昔だって頻繁にしてたわけじゃないし、今は全然そういう関係じゃないから疑うのやめて」

 言った瞬間に横から「は……?」と声が聞こえたけれど、それは翔にも聞こえてしまったらしい。
 じとりと呆れたような視線を結人に向けて、ソファの背凭れに翔が背を預ける。
 
「たとえ頻繁じゃなくても、色々されてた事に変わりないよな。同じ事される可能性だって全然あると思うけど、結人くんはマジでただ親切で泊めてるだけ? 一緒にいて何もしてねぇの?」

 そのピンポイントな質問に、昨日の今日で、流石に何もしていないとは言えなかったのだろう。
 一瞬間を置いてから「……それは」と不自然に言葉を止めた結人に、私の事は置き去りにしたまま翔が突っかかる。

「ほら、やっぱ変わってないじゃん。今も隙見せたら同じ事するつもりなのに引き止めて自分の近くに置いて、どうせまた昔みたいに、」
「ねえ、本当に違うから。私はただお世話になってる身だし、大人になって再会してからは結人に嫌なことなんて一回もされてない。お願いだから変なこと言うのやめて」

 私が結人との婚約を辞めたいと直接伝えたのは父に対してだけで、その時でさえ細かい理由の説明はしていなかった。
 だけど詳しいことを言わなかったからこそ、色々と誤解をさせてしまったのだろう。
 結人の家に頻繁に泊まらされていた事を翔も知っているし、もう会いたくないと言う私は怯えているように見えたのかもしれない。
 そのせいで、毎日のように性処理に使われていたと思われていたのだとしたら、これだけ心配するのにも納得がいく。
 思い返せば、翔が結人に対して敵意を向けるようになったのは私が婚約者を辞めた頃からだった気がする。子供の頃は翔も含めて三人で遊んだことだって何度もあったし、普通に仲のいいお兄さんとして慕っているように見えた。
 結人に対して嫌悪感を抱かせてしまったのだとしたら、それは説明不足だった私のせいだ。

「……ごめん。その、翔には色々と誤解させるようなことばっかりしちゃったと思うけど」
「別に誤解なんてしてねぇと思うよ。今だってこんな」

 こんな……の後に何が続く予定だったのかは、最後まで聞くことができなかった。
 横から伸びてきた手に腕を掴まれ軽く引かれると、そっちに意識を持っていかれてしまう。
 
「結人……?」
「和音、ごめん。一旦二人で話したい。部屋戻ろう」
「え……?」
「もともとちゃんと話そうって約束だったし、部屋で待っててって言ったよね。二人で話したいから、一度帰ろうか」

 私の返事を聞く前に、それだけ言った結人は、今度は翔の方に視線を移す。

「翔とも喧嘩したいわけじゃないし、また改めて話しに行くから今日はもういい? 今日は一度帰って欲しい」
「はぁ? そんなんで帰るワケ」
「や、あ、翔待って。あのね、本当に翔が心配するような事ないし、私も結人と二人で話さなきゃいけない事があるの。だから今日は」

 だから今日は一旦帰って大丈夫だよ、と。それを言い切る前に、翔の吐き出した盛大な溜息によって一度言葉が止まる。

「あー……話って何? どのくらいで終わんの?」
「へ……?」
「同じマンションなんだっけ? 部屋だけ教えてよ。一時間ここで時間潰してからまた行く」

 話す時間が欲しいだけならそれでいいだろと続けられ、その言葉に含まれた意味を察してしまう。
 一時間じゃ何も出来ないだろうと、そういう意味。
 どうやら翔は、私が何を言っても結人を疑うことを止めないらしい。

「分かった。1502だから、後で来て。お茶くらい出すよ」
「え、ゆい……」
「じゃあ行こうか。和音」

 かなり失礼な言い方をした翔を気にする事もなく、そのまま私の手を引く結人と一緒に店を出る形になった。
 辿々しく「何かあったら連絡するから」とだけ翔に伝えて席を立ったけれど、「何かあってからじゃ遅いだろ」と言われて何も言えなくなってしまう。
 翔が想像した何かは、もうすでに昨夜の時点で済んでしまっている。
 同意の上での行為だし私から誘ったと言っても、付き合ってないと宣言してしまった後だ。話したら余計に拗れて誤解を深めそうな気がして、とりあえず今は黙っておくという選択をした。

 翔よりも先に、結人と話をする事になるのだからちゃんと考えなくてはいけない。
 とりあえず店を出てから家に戻るまでの短い道中で、弟が言った色々な発言に対しての謝罪と、会計を任せてしまった事へのお礼を結人に伝えた。
「気にしてないから別にいいよ」と言ってはくれたけど、会話らしい会話が出来たのはそれだけだ。
 部屋に戻ってからじゃないと話したくないと思われているのか、ほとんど会話もしないままで結人が何を考えているのか分からない。
 肝心な話はほとんど出来ないままマンションに到着し、二人でエレベーターに乗り込む。
 人気がないエレベーターの中に入った瞬間、繋がれていた手に力が入り、恋人のように指が絡んだ。


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