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第11章 過去と現在
11-5
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そしてついに迎えた約束の日…。
俺は支度を済ませて家を出る。
向かう足取りはとても重い。
結菜はなんて言うだろうか…。
でもきっと…
今が悲しくても、すぐに俺のことなんか忘れて、
また幸せを見つけられるだろう。
結菜は強いから。
ダメダメな俺をいつも引っ張ってくれて…。
いつもいつも結菜には押されてばっかりだったな。
大丈夫…。
結菜のことなら話をきいたら怒って俺をひっぱたいて、
[こっちから別れてやる!!]
って言ってすぐに俺のことなんか忘れちゃうだろう。
あの日以来あの山には行っていなかった。
忘れてしまっていたのもあるが、
覚えていても来ることはなかっただろう。
到着したのは夕方前。
あまり明るい時間だと人がいると思ったからだ。
周りの景色が少しずつ記憶を呼び戻していく。
あの日の会話、
結菜のしぐさ、
懐かしい記憶がつぎつぎに思い浮かぶ。
目には涙が滲む。
思い出しての涙かもしれない。
でもこれはきっと違う。
この涙が流れるのは…、
結菜のしぐさや会話は思い出せるのに、
結菜の顔と声だけは、
どうしても思い出せなかったからだ。
顔や声を残したものがないというのは、
こんなにも記憶を曖昧にしてしまうんだと実感した。
忘れてしまった自分が信じられない。
いや、結菜の面影を重ねて見ていた恵の存在が、
さらに結菜の記憶を薄くしてしまったのかもしれない。
…あたりがだんだんと暗くなってきた。
記憶を頼りに山道を進んでいく。
すると奥のほうがぼんやりと光っている。
人気のない山の中、
すぐにそこが約束の場所だとわかった。
俺は緊張と不安の中でゆっくりと近づいていく。
たどり着いた俺が目にしたのは見覚えのあるローブのようなものを被った男。
そいつの足元には人の形をしたようなものが光り輝いていた。
「…遅かったな。」
聞き覚えのある声。
そいつはゆっくりと被っていた布を脱いだ。
体は見えないが顔は山羊そのもの。
あの日見たときはそれどころじゃなかったが、
よくよく見ると不気味だ。
「どうだ?
3年たったわけだが、
あの時の想いは変わってないんだろう?
もちろん、心変わりしててもお前の寿命は戻りはしないがな。」
そいつはニヤリと笑いながらそう言った。
「あぁ。
わかってるさ。」
「そうか。
じゃぁ契約は成立だ。
女は時期に目覚める。
そしてこの女のことを周りの人間も思い出す。
ただ周りの人間にはこの女は3年間普通に生活していたと思っている。
あとはお前が本人に事情を説明するがいい。
…では、さらばだ。」
そう言い残すとそいつは姿を消した。
残された俺の前には光輝くものがある。
その光は徐々に消えていき、だんだんと目がなれてくる。
完全に光が消えた時、
そこには結菜が横たわっていた。
忘れていた結菜の顔。
よみがえった記憶のままの姿だった。
俺は結菜の隣りに座り込んで、
じっと結菜が目覚めるのを待っていた。
俺は支度を済ませて家を出る。
向かう足取りはとても重い。
結菜はなんて言うだろうか…。
でもきっと…
今が悲しくても、すぐに俺のことなんか忘れて、
また幸せを見つけられるだろう。
結菜は強いから。
ダメダメな俺をいつも引っ張ってくれて…。
いつもいつも結菜には押されてばっかりだったな。
大丈夫…。
結菜のことなら話をきいたら怒って俺をひっぱたいて、
[こっちから別れてやる!!]
って言ってすぐに俺のことなんか忘れちゃうだろう。
あの日以来あの山には行っていなかった。
忘れてしまっていたのもあるが、
覚えていても来ることはなかっただろう。
到着したのは夕方前。
あまり明るい時間だと人がいると思ったからだ。
周りの景色が少しずつ記憶を呼び戻していく。
あの日の会話、
結菜のしぐさ、
懐かしい記憶がつぎつぎに思い浮かぶ。
目には涙が滲む。
思い出しての涙かもしれない。
でもこれはきっと違う。
この涙が流れるのは…、
結菜のしぐさや会話は思い出せるのに、
結菜の顔と声だけは、
どうしても思い出せなかったからだ。
顔や声を残したものがないというのは、
こんなにも記憶を曖昧にしてしまうんだと実感した。
忘れてしまった自分が信じられない。
いや、結菜の面影を重ねて見ていた恵の存在が、
さらに結菜の記憶を薄くしてしまったのかもしれない。
…あたりがだんだんと暗くなってきた。
記憶を頼りに山道を進んでいく。
すると奥のほうがぼんやりと光っている。
人気のない山の中、
すぐにそこが約束の場所だとわかった。
俺は緊張と不安の中でゆっくりと近づいていく。
たどり着いた俺が目にしたのは見覚えのあるローブのようなものを被った男。
そいつの足元には人の形をしたようなものが光り輝いていた。
「…遅かったな。」
聞き覚えのある声。
そいつはゆっくりと被っていた布を脱いだ。
体は見えないが顔は山羊そのもの。
あの日見たときはそれどころじゃなかったが、
よくよく見ると不気味だ。
「どうだ?
3年たったわけだが、
あの時の想いは変わってないんだろう?
もちろん、心変わりしててもお前の寿命は戻りはしないがな。」
そいつはニヤリと笑いながらそう言った。
「あぁ。
わかってるさ。」
「そうか。
じゃぁ契約は成立だ。
女は時期に目覚める。
そしてこの女のことを周りの人間も思い出す。
ただ周りの人間にはこの女は3年間普通に生活していたと思っている。
あとはお前が本人に事情を説明するがいい。
…では、さらばだ。」
そう言い残すとそいつは姿を消した。
残された俺の前には光輝くものがある。
その光は徐々に消えていき、だんだんと目がなれてくる。
完全に光が消えた時、
そこには結菜が横たわっていた。
忘れていた結菜の顔。
よみがえった記憶のままの姿だった。
俺は結菜の隣りに座り込んで、
じっと結菜が目覚めるのを待っていた。
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