【完結】最愛の人 〜三年後、君が蘇るその日まで〜

雪則

文字の大きさ
68 / 87
第11章 過去と現在

11-5

しおりを挟む
そしてついに迎えた約束の日…。



俺は支度を済ませて家を出る。



向かう足取りはとても重い。



結菜はなんて言うだろうか…。



でもきっと…



今が悲しくても、すぐに俺のことなんか忘れて、



また幸せを見つけられるだろう。



結菜は強いから。



ダメダメな俺をいつも引っ張ってくれて…。



いつもいつも結菜には押されてばっかりだったな。



大丈夫…。



結菜のことなら話をきいたら怒って俺をひっぱたいて、



[こっちから別れてやる!!]



って言ってすぐに俺のことなんか忘れちゃうだろう。


あの日以来あの山には行っていなかった。



忘れてしまっていたのもあるが、



覚えていても来ることはなかっただろう。



到着したのは夕方前。



あまり明るい時間だと人がいると思ったからだ。



周りの景色が少しずつ記憶を呼び戻していく。



あの日の会話、



結菜のしぐさ、



懐かしい記憶がつぎつぎに思い浮かぶ。



目には涙が滲む。



思い出しての涙かもしれない。



でもこれはきっと違う。



この涙が流れるのは…、



結菜のしぐさや会話は思い出せるのに、



結菜の顔と声だけは、



どうしても思い出せなかったからだ。


顔や声を残したものがないというのは、



こんなにも記憶を曖昧にしてしまうんだと実感した。



忘れてしまった自分が信じられない。



いや、結菜の面影を重ねて見ていた恵の存在が、



さらに結菜の記憶を薄くしてしまったのかもしれない。



…あたりがだんだんと暗くなってきた。



記憶を頼りに山道を進んでいく。



すると奥のほうがぼんやりと光っている。



人気のない山の中、



すぐにそこが約束の場所だとわかった。



俺は緊張と不安の中でゆっくりと近づいていく。


たどり着いた俺が目にしたのは見覚えのあるローブのようなものを被った男。



そいつの足元には人の形をしたようなものが光り輝いていた。



「…遅かったな。」



聞き覚えのある声。



そいつはゆっくりと被っていた布を脱いだ。



体は見えないが顔は山羊そのもの。



あの日見たときはそれどころじゃなかったが、



よくよく見ると不気味だ。



「どうだ?

3年たったわけだが、

あの時の想いは変わってないんだろう?

もちろん、心変わりしててもお前の寿命は戻りはしないがな。」



そいつはニヤリと笑いながらそう言った。


「あぁ。

わかってるさ。」



「そうか。

じゃぁ契約は成立だ。

女は時期に目覚める。

そしてこの女のことを周りの人間も思い出す。

ただ周りの人間にはこの女は3年間普通に生活していたと思っている。

あとはお前が本人に事情を説明するがいい。

…では、さらばだ。」



そう言い残すとそいつは姿を消した。


残された俺の前には光輝くものがある。


その光は徐々に消えていき、だんだんと目がなれてくる。


完全に光が消えた時、


そこには結菜が横たわっていた。


忘れていた結菜の顔。


よみがえった記憶のままの姿だった。


俺は結菜の隣りに座り込んで、


じっと結菜が目覚めるのを待っていた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

処理中です...