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6巻
6-2
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行くと決めたら、善は急げ。
領主の屋敷からギルドに戻った俺たちは、ウェイドに理由を説明。聞き耳を立てていたウサ耳受付嬢のアリアンナちゃんが、王都になんか行くことはないと怒ってくれた。ギルドの利益よりも、単純に俺たちを気に入ってくれているからだろう。
グリッドは、ここぞとばかりに王都で買ってきてもらいたいものリストを作成。こういうのは行商人に頼むと手数料が割高になるらしい。紙にみっちりと書かれたギルド職員たちの欲しいものに眩暈がしたが、お駄賃として5000レイブいただいてしまった。
必要なものは全て俺の鞄に入れ、残りは馬車にあるそれぞれの部屋へ。といっても、それぞれ気に入ってる菓子類や本など。
準備を全て終わらせてから再びギルドに集合。酒場のいつもの席に陣取って、最終打ち合わせ。
ベルカイムから続くドルト街道を延々と南下すればいつかは到着する、簡単な道のり。
いつか到着するって、馬車でどんくらいかかるんだよ。
「三月ほどか」
「遠いわ!」
クレイにしれっと言われ、軽く絶望。だがしかし、普通の馬車ならば、の話だ。プニさんが本気を出せば、王都なんてもっと早く着くだろう。
俺たちの馬車「リベルアリナ号(不本意)」は見た目こそ地味に作られているが、ちょこっとだけ空に浮いている快適無敵の乗り物だ。
と、そこへグリッドが忠告してくれた。
馬車を引くのが純白の美しい馬。美しい馬っていうのはそれだけで価値があるから、王都に近づくにつれ物騒な連中に絡まれるかもしれないと。
確かに、トルミ村に行ったときのように、そうとは気づかないけどめちゃくちゃ早いスピードで移動されたら目立つどころじゃない。あの馬はどこの馬だと噂になり……
「あの白馬は稀に見る美しさがあります。王都に入る前に、よこせと言われるかもしれません」
「あらー」
そんなこんなで、まさかの事態に。
グリッドも、俺の隣に座って俺が貸した手鏡を覗き込んで夢中になっているこの美女が、その白馬だとは思わないだろう。ベルカイムの皆にはプニさんの正体を内緒にしているからな。
領主の奥方に化粧をしてもらった上機嫌のプニさんを連れ出し、いつもの美しい白馬じゃなくてそこらへんでよく見るまだら模様の馬になれませんかと交渉。大瓶にたっぷり入った飴玉を添えて。
プニさんは大瓶を胸に抱えながら、不満げに頬を膨らませた。
「ぶるるっ、わたくしに駄馬となれと言うのですか」
「駄馬だなんて滅相もない。プニさんはどんな姿になっても綺麗なままのプニさんだと思うんです。だけどでもね、綺麗なプニさんだからこそ、悪いやつに目をつけられて盗まれるかもしれないんだって。怖いよねー?」
「わたくしは神ですよ? 神をかどわかす愚か者などおりますか」
「神様だからこそだって。その美しさを独占したいって、そういう輩がいるかもしれないんだ。盗まれたら美味いご飯食えないよ? 食えて飼い葉。草ですよ、草」
「まあ。それは困りますね。ひひん。わたくしは美しく完璧な馬ですから、わたくしを己のものにしたいと企む者はいるでしょう」
「そうですそうです」
そんなわけでプニさんは美しい白馬ではなく、ちょっとごついまだら模様の一角馬に変化してもらうことにした。
それでもまつ毛が長くて気品があって、他の馬となんか違うっていう感じがあるんだけど、これはもう仕方がない。
その次に問題なのがブロライト。
王都にもエルフが滞在しているが、ブロライトはハイエルフ。エルフ同士だとブロライトがハイエルフだと一発でわかるらしく、これもどうにかしないとならない。
「全身を黒く塗ればよいのじゃ!」
「臭くなるからやめなさい!」
泥水をひっかぶろうとしたブロライトを懸命に押さえ、幻惑の効果がある魔石を常に身に着けさせることとした。様子がおかしい普通のエルフに見えればいいだろう。
残りは栄誉の竜王だけども。
「俺は隠れなどせぬ。王都には顔見知りもおるからな、久方ぶりに顔を見せよう」
「王都にまで知り合いがいるの? どんな人?」
「竜騎士の幼子であったがな、今は息災にしておるだろうか」
「おお。竜騎士! そうか。王都って竜騎士がごろごろしているんだよな」
雄々しい飛竜がたくさんいるのだろうか。甲冑を身に纏った騎士たちが、竜に跨って空を泳ぐ。そんな姿を見られたら最高だな。
「よし、それじゃあチーム蒼黒の団の次の目的地は、アルツェリオ王国の王都!」
「わたしは王都に赴くのは初めてなのじゃ! うううっ、楽しみじゃ!」
「ぶるるっ、今まで見たこともない食材があるのでしょう? タケル、美味しい料理を作るのですよ」
「ふふ、新たなる疑似餌をこさえても良いな」
「ピュピューイ!」
このメンツで行く王都だ。何もないはずがない。絶対に何か面倒なことになるに決まっている。妙なことに巻き込まれたりするんだろうな。絶対にそうだ。
だが、その面倒ごとさえ乗り越えてやる。
新たなる土地、新たなる町に行くことのほうがずっと楽しいんだ。
なかなか手に入らない調味料や香辛料を、山ほど仕入れてやる。
2 大瓶片手に飴をむさぼる
ベルカイムを出発したのは、陽も昇らない早朝のこと。
どうせ戻ってくるのだからと、ベルミナントとギルド以外には王都へ行くことを知らせなかった。土産買ってこい攻撃が怖いから。
滞在予定は半月くらいだけど、時と場合と状況に応じて短縮したり延びたりするだろう。
王都っていうくらいなんだから、俺の想像を超えた大都会なんだろうな。何があるんだろう。
ドルト街道は早朝にもかかわらず行商人の荷車が行き来している。これからベルカイムを目指す者、王都を目指す者と様々だ。
なかには物々しい装備を揃えた冒険者もちらほらいた。さすが王都への道。早朝にもかかわらず、様々な人が同じ方向を目指して歩いている。
俺たちは街道の途中まで、普通の一角馬が歩く普通の馬車の速度で進む。途中で大きな森を挟むため街道はぐるりと回り道をするのだが、それだとかなりの遠回りとなる。
回り道は面倒くさいとプニさんが言ったので、森の中に入り馬車で行けるところまで行き、途中からは馬車を俺の鞄の中にしまって巨大化プニさんの背へ。
森を抜けた後は馬車を出してゆっくり進むと思いきや、空を飛ばなけりゃなんでもいいと言ったばかりに、馬の神様は調子こいて四日で王都近くまで来てしまいました。
ほぼ人気のない獣道とか、入れば確実に迷うと言われているような森の中とか、時には馬車を引きながら橋のかかっていない崖をすいすい飛んでいったりしたそうです。
俺が部屋でぐーすか寝ている間に。
腹が減ったから何か食わせろと言ってきたプニさんのために、馬車を降りてここはどこだと聞いたらば、クレイがあそこに見えるのが王都だと言いましてね。
「……プニさんのことだから、三か月ゆっくり進むとは思っていなかったけども。けども」
「王都には珍しき食べ物があると聞いたのじゃ! プニ殿はいたく楽しみじゃと言うてな!」
「ああ、ちょっと本気が出ちゃったんですねー。はははーすごいなーさすがだなー」
「そうでしょう。ふふふひひん」
無邪気に喜ぶブロライトと胸を張るプニさんは置いておいて、地平線の先にうっすらと見えるきらきらとした建造物。
小高い丘から見えたそれが、アルツェリオ王国の首都エクサル。こんなに離れた場所からでも、その広さがわかる。山の中腹にある異様なほどテカッているのが、お城らしい。
はしゃぐブロライトとは裏腹に、なんだかちょっと残念な気分だ。道中もうちょっと景色を楽しむとかさ、初めて来た領で寄り道とかさ、そういうのあるじゃない。
なんだろう。新幹線で駅弁食おうとわくわくしていたらもう目的地に着きました、って言われた気分。
「ところでブロライト、その、プニ殿ってなにかな」
愉快な響きに畏まった呼び方。俺が眠っている間にプニさんへの呼び方が変わっていた。それは、ブロライトだけではない。
「王都でホーヴヴァルプニル神と口にすることはできぬ。故、プニ殿には失礼を承知ではあるが、呼び方を変えさせていただいたのだ」
「ひひん」
クレイ曰く、王都では様々な神を崇める宗教が混在しているらしい。
アルツェリオ王国の民や竜騎士の多くは、創世神と呼ばれる全知全能の神様を崇めている。
だが、種族によって祀る神様は違うし、人それぞれ信じているものもあるだろう。
創世神を崇めている人は、トルミ村にもいた。マデウスでは一番メジャーな神様らしい。
ふと、三途の川の近くで人のよさそうな笑みを浮かべていた、あの青年を思い出す。
俺が直接会った彼は地球がある宇宙の管理人。マデウスがある宇宙にはまた別の管理人がいて、その青年の知り合いとか友達とか?
ともかく、俺をこの世界に呼んだ原因というか元凶。それが創世神なのかな。
「プニさんを崇めている人が王都にいるかもしれない、ってことか」
「左様。まさか神そのものが人の世に紛れているとは思うまい。尊き神の名を語る不届き者めと罰せられるかもしれぬのだ」
「なるほどな。それでプニ、殿」
駄目だ笑いそうになる。
この大食いなマイペース神様にも信者がいるんだからな。アシュスの村人だけではなく、馬を愛でる者なら誰しもが信仰する、馬の神様。
クレープ生地をミルフィーユ状に重ね、それをキャラメルでコーティングしたスティック状の甘味、通称「キャラメルミルクレープ」を大いに気に入ったプニさんは、カロリーを気にせず四本目を消化中。
ちなみにこれは俺が提案してチェルシーさんが開発した、ベルカイムで大好評のお菓子。
極甘だから俺は一本でじゅうぶんだが、皆は相変わらず一日の制限数である五個をぺろりと食べる。太るとか中性脂肪とか血圧とか気にしないんだよな、こいつら。俺はついつい気にしてしまうんだけど、それは前世で気をつけなさいよと言われるお年頃だったからだ。
ともあれ、プニさんやビーが神様だということは極秘としよう。特にビーだ。見た目は完全なドラゴンなんだから、いくら七色ウールで編んだリブさん特製レインボーシープ着ぐるみを着せたとしても、バレバレだろう。しかし、対策はしておくべきだ。
「ビー、王都に入ったら自由に飛べなくなるが、辛抱してくれるか?」
「ピュイ! ピュピュ、ピューィ」
「ああ、飯を食うときも気をつけてほしい。お前は賢くて可愛いんだから、お前を欲しがる連中が押し寄せるかもしれないぞ」
「ピュィィ……ピュー」
両手で顔を隠してぐねぐねと蠢くビーの頭を撫でつつ、ブロライトとプニさんにも改めて忠告。
「二人とも、自由行動は禁止だからな。プニさん、誰彼構わず貢がせるのは絶対にやめてくれ。いざとなったらちっちゃくなって、ブロライトのローブの下に避難すること」
「ぶるるっ、お前がそれを言うのは幾度目ですか。わたくしは一度聞けば理解できます。わたくしは神ですよ?」
「神はこのさい関係ないんだよ。目立つ行動はしないこと。ベルカイムやトルミ村とは違うんだから、本当に注意してくれ」
「むっ、わかっております」
ああああ不安だなあああ。
プニさんはぷっくりと頬を膨らませて拗ねた。
これ絶対に何かやらかす。地下墳墓の二の舞になる。
「タケル、プニ殿に手を出そうとする輩は潰して良いのじゃろう?」
「潰さない」
「ならば千切ろう」
「ちぎ……うかつに喧嘩買っちゃ駄目なの。それに、プニさんも絡まれるかもしれないが、ブロライトだってじゅうぶん目立つ存在だっていうことを自覚しなさい」
「ぬ?」
「ぬじゃねーよ。いいから、二人ともクレイの傍から離れないように」
俺はすっかり慣れてしまったが、ブロライトだってプニさんに負けず劣らずの美女に見えるのだ。黙っていれば。
王都には人さらいも人買いもゴロゴロいるとベルミナントから聞いているから、用心に用心を重ねても無駄にはならないだろう。
クレイは普通のリザードマンより大きいし、威圧感もある。顔も怖い。ただ立っているだけでオーラを感じるから、何か困ったことがあればクレイを頼ることにして。
俺も鞄を奪われないように気をつけないと。
【楽園都市エクサル】
アルツェリオ王国首都。
[国王]アレクサンテリ・オーギュスト・シュルヴェスタ・レットンヴァイアー5世。
[執政]シルト・ティン・パリュライ侯爵。
グラン・リオ大陸の南西部に位置する巨大都市。聖湖ルカニドを水源とし、周囲をグリロス山脈に囲まれた難攻不落の都市である。その土地は創世神の祝福を受けた大地と言われ、三千年間干ばつになったことは一度もない。聖湖ルカニドは創世神の産湯と言い伝えられているが、ただの湖です。
人間の王が統治する国であるが、様々な種族が暮らしており、その人口は五十万を超える。農業、林業、水産業、鉱業と多様な産業を有する。竜騎士の育成と各種教育機関があり、様々な魔法研究機関も存在する。
名物料理は白粥、燻製肉など。
七番街の「鮭皮亭」に宿泊することを勧める。風呂があります。
あ……
ありがとう、調査先生……
クレイに質問する前にいろいろと知ることができたのは有り難いが、まさか宿泊先まで教えてくれるとは。やりますな、先生。
俺たちは一角馬に変化したプニさんに馬車を引いてもらい、ドルト街道を更に南下。普通の速度で進み、馬車をしまってから王都の入門検査の列に並んだ。
監察官の召喚状とルセウヴァッハ領主の各種紹介状を持っているから、それを見せるだけで優先的に通してもらえるはずだった。しかし、優先的に通してもらえるだろう場所ですら、長蛇の列なのだ。
ベルカイムの入門検査のようだったが、あれの何百倍も人が並んでいる。初めて見る種族がちらほらといて、内心ではものすごく興奮。ベルカイムを初めて訪れたときの気持ちを思い出すことができた。
王都をぐるりと囲む巨大な壁も、ベルカイムの比じゃない。空に突き刺すくらい大きく、そして頑丈そうだ。見た目では。
うなじにちりちりと感じる魔法の力は、この壁に結界機能があることを示す。だが、俺の作ったトルミ村の結界のほうがこれの何十倍も強い力を感じるんだよな……
「やっちまった」
「何がじゃ?」
「いえなんでも」
ついつい独り言。
聞き返したブロライトに引きつった笑いを返し、改めて門を見上げる。門や壁は立派ですよ。巨大な岩で組み上げられ、鉄で補強された壁。分厚い扉は簡単に壊すことなどできないだろう。
はい。
俺、自分がやらかした意味をやっと知ることができたようです。
だってトルミ村にいた頃はあの村が基準だった。常識やら何やらも知らないまま、ただただ村を守りたいって気持ちで作った結界魔道具。
それがまさか、王都の結界より強かったなんて思わないだろう。
いや、ベルカイムの結界機能を見たときから薄々やらかしたことを感じていたが、それでもほら、トルミ村の安全のためだからと言い訳。
新トルミ村の防御壁を眺めながら雑貨屋の店主ジェロムが呟いた言葉、「もういい」の意味がわかりました。
あれは全てを諦めた、「もういい」だったのだ。
はい。
終わったことはもういいや。
「ピュー?」
「気をつけろビー、お前は突然変異のレインボーシープなんだから」
「ピュ、ムムームーピュー」
ローブの下からもそりと顔を出した、黒い顔のレインボーシープ。
改め、レインボーシープの着ぐるみを着た、ビー。レインボーシープの鳴き真似は下手くそだが、それも可愛い。
うかつに飛ばないよう翼は収納されているのでビーにとっては窮屈で可哀想だが、それもこれもビーを取り上げられないためだ。盗まれでもしたら、俺が何をしでかすかわからないぞ。
「宿に行ったら、それ脱いでもいいからな」
「ピュム」
窮屈だけど着心地はいいらしい。
ビーはレインボーシープにしては異常に長い尻尾をふりふりしながら、再度ローブの下へと隠れた。
俺もフードを深々と被り、目立たないようにしている。
プニさんには王都に着くぎりぎり手前の、人気のない場所で人になってもらった。入門検査の列に並ぶ前からナンパされていたが、それを全て無表情で無視。今は大瓶を脇に抱えながら大人しく飴玉を食っている。
ブロライトは落ち着きなくきょろきょろとあちこちを見つつ、はぐれないようクレイのマントの裾を握っていた。
列は少しずつしか進まず、このままでは日が暮れてしまうかもしれない。
「それにしてもすごい行列だな。祭りでもあるの?」
「俺が訪れたときよりも多少増えたような気はするが、いつもこのくらい並んでおるな」
「うへえ」
クレイの言葉に軽い眩暈を覚えた。
これはあれか。平日の原宿みたいなものか。催し物があるわけでもないのに、常に混んでいるイメージ。それだけ王都の中に入りたい人たちが多いのだろう。
皆出稼ぎに来ているのかな。働き口はベルカイムにもあるのに。
まだかなまだかなと辛抱強く待っていると、大門にいくつか設けられている通用口から警備兵が一人出てきた。
いや、あの姿は警備兵ではない。警備兵より佇まいが凛としているし、装備している甲冑も手入れが行き届いている。わざわざ兜なんて被っちゃって。
「ほう。出迎えが来たようだ」
目を細めながら言うクレイは、あの人物が誰なのか知っているようだった。
「タケル、あれが竜騎士じゃ」
ブロライトがぼそりと小さな声で教えてくれた。
あれが、竜騎士。
ゲームとか映画とかで出てくる、ドラゴンに乗ったエリート騎士。
竜騎士が姿を現すと、列から数人がするりと離れた。行列に耐えきれずイライラして叫んでいた連中も、一斉に黙ってしまった。
もしかしたら竜騎士というのは、警察官のようなものなのかもしれないな。取り締まりをせずともその権威に恐れをなして、やましい人らはなぜか逃げてしまうんだ。そこにいるだけで抑止力になるのだろう。
しかし。
「……意外と普通だな」
「何を想像しておったのじゃ。竜騎士の半数は人族じゃぞ?」
「いや、あのさ、もっとこう……すんごい大きなドラゴンにまたがってバッサー登場するのかと思ったんだよ」
「このような場に飛竜で降りることはないじゃろう」
あらー。
なんていうかガッカリだー。
翼竜じゃなくても、ラプトルみたいなドラゴンに乗っているのかなと想像していたんだけどな。
ベルカイムの図書館で竜騎士について書かれた文献もあったが、あえて読まないようにしていたのだ。それで、実際に会ったときの驚きが半減しないよう、楽しみにしていた。
通用口から出てきた竜騎士は、真っすぐに俺たちに向かって小走り。
クレイの前まで来ると、踵を合わせて直立不動。独特の敬礼と共に叫んだ。
「おおっ、お、お久しぶりで、ございます! 大門警備から青龍卿のお姿を目撃したとの報告がありまして、慌てて参りました!」
声、でかいって。
列に並んでいた人が一斉にこちらを見ているじゃないか。せっかく目立たないようにしれっと列に紛れ込んだっていうのに。
クレイは片手を上げて竜騎士の敬礼をやめさせた。
「俺はもう竜騎士を辞した者だ。そう畏まられては困る」
「いえっ、卿が職を辞されたとしても、卿は我らが師であり、我らが目指すべき騎士であります!」
「ふふふふ、相変わらずだな、エイルファイラス」
「はああいっ! このマルス・ディタ・エイルファイラス! お会いしとうございましたーっ!」
あれっ?
この竜騎士さん、もしかして女性??
ごっつい甲冑にマントをしていたから、体形なんてわからなかった。騎士っていうのだから、男だとばかり。
「卿がグラン・リオにおられていることは聞いておりました! ですから、もしかしたら王都にも参られるかもしれぬと、警備の者たちに命じていたのです! それらしき御仁が現れたら、何を置いても報告せよと!」
興奮し声を弾ませながら騎士はゆっくりと兜を脱いだ。
「あ」
思わず声が漏れ出たのは許してもらいたい。
兜の中からさらりと落ちてきたのは、美しい漆黒の髪。
戻れないあの故郷でよく見た、懐かしい色。
3 異国情緒のその中で、興奮しきりの屋台旅
「おわああーーーーーーっ!」
思わず叫んでしまった。
これが叫ばずにいられるだろうか。
小さな通用門のその先の、質素な小部屋の扉を開けた瞬間。
飛び込んできたのは光の洪水。眩い太陽の光が一気に溢れ出した。
思わず目を瞑った瞬間、聞こえてきた喧騒。鼻を襲う匂いの渦。
うるさくて再度目を開けると、そこには俺の想像を遥かに超えた世界。
「ふおおおおおっ! これはすごいぞ!」
「ピュイイイィッ!」
ブロライトもビーも心底驚き、その素晴らしい光景に目を見張っていた。
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