明媚な狐の交換魂

tokoto

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 とても心地好い、体が浮くような軽やかな気分だ。
 暖かい風が頬を撫でる。目を開くとそこには見慣れない景色が広がっていた。
「えっ」
 何?
 月に照らされた薄暗がりに続く満開の桜並木。薄ピンクに色づいた桜が夜風に舞う。
 知らない場所だ。しかし不思議と焦りは感じない。ここは、どこなのだろう。
━━━ようこそ魂の都へ━━━
ふと後ろから声がしたような気がして振り返る。が、そこには桜が降るだけでそれらしい人物は見当たらない。
 前に向き直るといつ現れたのか人影が立っていた。和装の男。手には何やら本を持っている。
「今晩は」
「うわっ!」
喋った。…当たり前か。
「驚かせて申し訳ございません。わたくし、案内役の紺と申します」
紺と名乗った男は静かな笑みを浮かべた。優形な人だ。すらりとした体型に整った顔。しかしその容姿は明らかに人とは違う。
「耳…?」
ちょうどファンタジーに出てくる半獣のような。
男はその笑みを深くした。
「珍しいですよね。尻尾もありますよ」
体に隠れていた特徴のある尻尾をくねくねと振って見せる。
「狐?」
「正解です」
男はまた微笑んだ。尖った耳に太くてふわふわとした見た目の尻尾。切れ長の瞳さえ狐を彷彿とさせる。
「本物ですか」
「もちろんです」
驚いた。こんな人間を見たのは初めてだ。
「狐だから、コン?」
「覚えていただけるのであればそれでも構いません。……狐の紺。良い感じですね」
イケメンさんに誉められた頬は意識せずとも上がってしまう。
「ところで、あなたの名前も教えていただけますか」
「あっ、はい。なっ、なぁ……あれ?」
えっ、ちょっとまって。
「な、な、なー…ぁぁ」
そんなことって、まさかそんなことっ。
「どうかしましたか?」
紺が怪訝な顔でこちらをうかがっている。しかしいくら考えても出てこない。
「なっ、なぁ……えっ? えっ、うそっ」
「長谷爽音さん」
「ながや…さやね?」
わからない、名前、それ私の名前?
「思い出せませんでしたか?」
紺は手に持っていた小説サイズの本を開く。何事かを確認している様子で眉間にはシワがよっている。
「取り合えずこちらへ。夜も遅いので宿に案内いたします」
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