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ルシューランにて
ルビアナ
しおりを挟む「、、、ふふっ、ふはははっ、あはははは」
自然と笑いがこみ上げてくる。やっと着いた喜びと、人の量に驚く心。そしてちょっぴりの罪悪感。この声にすべては含まれていた。
「やったな。やっと、着いた」
隣ではサリュ程ではないが、カルも口元が緩んでいる。
「うん、やっと。ローブを脱ごう。ほら、カルもその上着脱いで。色でばれちゃうかも」
「おっ、おう。そうだな」
路は人通りが多い。石畳の町並みは威勢の良い商売人たちの声で溢れている。
祭でもあるのだろうか、軽快な音楽が町の活気を示すかのように聞こえてくる。視線を移すと楽しそうに子供たちが大通りへと駆けていくのが見えた。
「すごいね、王都でもないのにここまで栄えるのは珍しい」
「前の村とは大違いだな」
「そうだね。あそこも静かで良いところだったけど。やっぱり町は賑やかだ」
人に流されるように大通りを離れると、緩い坂になったわりと細い路へ出た。露店が軒を連ねる。
サリュは再びローブを羽織った。
飛び交う声から目をそらし、ふと上を見ると青空の間に一本の高い建物が見えた。
「カル、あれ見て」
隣から感嘆の息が漏れる。
「すごいな、高い」
そこにあるのは空に溶けそうな程白い大きな塔。積み重ねられたレンガ、そこに周りをぐるぐると沿うように螺旋階段が通っている。シンプルな作りにやけに人を引き付ける魅力があった。
「何なんだろう」
「時計塔よ」
「えっ、」
カルの呟きに答える人の姿があった。振り返るとそこに丸いシルエットの女性が立っていた。
「え、、っと、」
「あんたたち旅の人だろう?」
「えっ、あぁそうだけど。おばちゃんは、この町の人?」
カルが受け答えする相手は、まさにおばちゃんという愛称がふさわしい。大根が似合いそうな、そんな人だった。
「あぁもちろん。産声あげてからずっと、この町だよ。それよりあんたたち、そんな格好で。さては来たばっかだね」
「あぁ、さっき着いたとこ」
カルの答えに女性は満足げに頷く。横で束ねた栗毛色の髪が揺れた。
「あの、お名前は」
二人の会話にやっと加わったサリュは尋ねた。
「ん、私かい。私はそこで宿屋をやってるルビアナさ」
宿屋の方角だろう。ルビアナは指差して言った。残念ながら人混みに隠れて宿は見えない。
「あんたたち、来たばっかってことはまだ宿も決まってないんだろう? まさか、そんなくたびれた格好で今日中に町を出るなんてこともないだろうし」
ルビアナの言いたいことは二人にもわかる。しかし調達しなくてはならない物品も多く、宿にそれほど金をかけたくはないのが本音だった。
「もちろん、何日かはここで過ごす予定だけど、、。先によりたいところがあるんだ。ごめん、おばちゃん」
カルが手刀を切る。しかしまぁ、ルビアナも伊達に宿屋をやっていない。ちゃんと切り札をもって近づいて来ていた。
「そんなこと言って。いいのかい、バラしても」
「えっ?」
「あんたたち検問をすり抜けてきただろ」
ルビアナが悪い顔で笑う。見られていたのか。知らないふりをするとは質が悪い。
「なんのことだよ。俺たちちゃんと、門番さんに挨拶してきたぜ」
カルの言い訳も
「今から門まで行って確認してこようか」
ルビアナには敵わない。
ふっと、優しい顔でルビアナは笑った。
「家においで。心配しなくても、そんな悪質な宿じゃないよ。ご飯は美味しいし、布団も清潔さ。町のことも色々と教えてあげられるし、この町の周辺だけでもよければ地図だって置いてあるよ。ただちょっとだけ。美味しい料理のスパイス料を貰うだけさ」
どうだい? と笑顔を向ける。けして悪人には見えなかった。
「どうする」
カルがこちらを向く。サリュにはわかりかねた。良いんじゃないだろうか。方法は少し強引だが悪い人ではなさそうだし。
「良いんじゃないかな、お金足りるなら」
カルが荷物の中から袋を取り出し残金を確認する。
「、、じゃあ、案内してよ。そのかわり、ちゃんと内緒にしててくれよ」
カルが口元で指を立てた。交渉は成立。
こっちだよ。と歩き出したルビアナの後をついて行く。
やれやれ。もしかすると靴を買うのは後回しになるかもしれないな。
そう考えながら歩いているとルビアナが急に立ち止まり、こちらを振り返った。
「ど、どうしたんだよ」
ぶつかりそうになったカルが慌てて尋ねる。
「そういえばあんたたち、名前なんていうんだい」
あぁ、そういえば。まだ名乗っていなかったっけ。
それはごく平凡で。あまりに平凡すぎて忘れてしまうこともあるけれど、それでいて、やはり大事な質問だった。
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