僕の記憶に黒い影はない。

tokoto

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ルシューランにて

主様2.

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「あの人は年を取らない。ていうのも、俺にもよくはわかってないんだがあの人の中ではもうずいぶん前に時間が止まってるらしい」
「時間が止まってる?」
「あぁ、意味わかんねぇよなぁ。俺も最初はそうだった。でもまぁ、信じるしかないよなぁ八年も一緒にいると」
うんうんと頷いてコーストは空を仰ぐ。
「八年、考えてみると長いこと旅してんだなぁ」
しみじみといった雰囲気に包まれたコーストは一度話を手放した。
「俺はどんどん年取ってるのに、主様は全く変わらない、、なんだか切なくなるなぁ」
「どういうことだよ」
カルが我慢できずに尋ねた。
「だから、八年、ずっと変わってないんだよ姿がな」
顔が曇るカルに
「おっと、あり得ないとか言うなよ。俺がちゃんと見てたんだから」
言葉で制止をする。
「ほんとだよ。八年前からずっと、顔も身長も、髪型だって変わってない。本当に何も変わってねぇな」
「そんなことって、、何が起こってるんだよ」
止められた言葉が出そうになったのだろう。カルはふいに口をつぐむとコーストに続きを話すよう促した。
「リプラーって知ってるか」
「リプラー」
忘れていたところに顔を出した名前にカルの表情が変わる。
「あぁ」
「そうか。それならこいつも知ってるかもしれないがリプラーってのは人を飲むんだ」
そこでカルは一つの可能性に思い当たったようだった。はっとした顔でコーストを見つめる。
「まさか」
コーストは頷いた。
「主様はリプラーに飲まれたんだそうだ。そのときにまぁ色々と奪われちまったみたいで」
「リプラーに取り込まれると成長も止まるのか」
「さぁな、詳しくは知らないが。ところで、成長するってほど幼くもないぜあの人は。立派な大人だ。ただ年齢に即した変化が起こらないだけで」
「あぁ、悪い。変な意味はないんだ」
どこかサリュと重ねて考えていたようで年を重ねるというより成長という考え方になってしまっていた。カルは忘れていた。サリュも立派な大人なのだが。
「いや、まぁ大したことじゃあないけどな。まぁそれからだそうだ、あの人の中で時間が止まったのは」
「色々って、他にも何か?」
それまで黙って聞いていたサリュが口を開いた。リプラーの事というだけで無条件に二人の関心は高まっていた。
「他に、、か。色が、ないな」
少し考えた後どこか渋るように出た言葉は当然のように二人の想像を越えていた。
「それは無色ということでしょうか」
それでは見えないではないか。それともコーストは実態のない主人を崇めていると言うのだろうか。それもそれでないとは言えないが、どうもコーストの印象とそれとは違うような気がした。
「いや、さすがにそれは」
コーストは困ったように笑う。どう説明しようかと迷いながら頭をかいている。
「あの人はさ、白いんだ」
「白い?」
「肌も髪も。着てるものも含めて真っ白だ。雪って見たことあるか? あんな感じさ。色も盗られたんだ」
そこまで話してコーストは何かを思い出したようだった。わかりやすくあぁ、と声を漏らす。
「どうした」
「そういえば、魔力も減ってたな」
「魔力? あんたの主人は魔術師なのか」
「えっ、あぁうん」
事も無げに頷くコーストは話を続けるが、つい昨日まで存在さえ疑っていたカルにしてみればこの短期間に二度も術師の話題が出ることは新鮮だった。白い髪。昨日の青年が思い出される。確かに雪のように白かった。しかし瞳の色は━━
「なぁ、その主様ってのは目が青くないか?」
「お? よく知ってるなぁ。どこかで会ったのか?」
「やっぱりそうか。宿でちょっとな」
カルのその素振りにサリュが食いついた。
「えっ、カル会ったことあるの?」
「ひとりなのかと思ってたけどあんたもいたんだな」
サリュの質問を流しカルはコーストに尋ねる。
「ねー、何でカルだけぇ?」
「昼だよ、サリュ寝てたでしょ」
それでも食らいつくので素直に答えると
「あぁ、そっ、そうかぁ」
と少し残念そうに俯いた。
「昨日の昼なら時間がありそうだったから酒場にな。そしたら置いて行かれてたがな。ったく、三日はいるって言ってたのに。先行くなら一言くらい━━━」
コーストが話の流れからぶつぶつと小言を溢しだす。主人に言いたいことも溜まっているようだ。
「━━そもそもこんだけ一緒にいて認められてないってどうなの? 何がそんなに気にいらないってぇの。いつもいつも━━」
コーストは完全に自分の世界に入ってしまったようで次から次から流れるように溢れ出てくる言葉は今ここにいない主人へのものばかりだ。
「こ、コーストさん?」
「はい、はいはいストーップ。コースト、話ずれた。一回戻そう」
戸惑うサリュを見かねてカルがポンポンとコーストの背を叩く。
「おっ、あぁ、すまない。えっと、どこからずれた?」
「えっ? えー、、と、」
「主様が魔術師だってところ。魔力が半減したんですよね」
サリュが分岐点まで話を戻す。こういうことは記憶が消える度に行うので慣れていた。それを頼りにコーストが話の最後を反芻はんすうし、切れ目へと戻る。
「主様が言うにはリプラーに魔力の半分を奪われちまったそうだ。魔法使いってのは体の中に魔力を作り出す核を持つらしいんだがその核が機能しなくなったらしい」
魔力核、それは魔力の器。核の半減は魔術師としての力の半減だった。核によって生成される魔法は例え魔力を使いきったとしても時間さえ経てば再び核から魔力が供給され、年齢による多少の衰えはあるがほぼ永続的に使用が可能である。しかしその核が正常に作動しなくなった主人の体では以前よりも使える魔力が制限されていた。
 通常、核が減少するなどということはあり得ないのだが。リプラーであればそれも可能にしてしまうのだろうか。
「半分っていうのはなぜ?」
「そりゃあ全部奪われる前に抜け出したんじゃねぇの? もしくは、、」
コーストがにやりと笑った。
「奪いきれなかったっていうのもなくはないな。あの人、半減したって言う割には数百人相手にして指先で倒せるだけの力は持ってるから」
さも恐ろしそうに怖い怖いと大袈裟に肩を震わせる。
「何でそんなこと知ってるんだよ」
カルが怪しげに睨む。
「長いこと一緒にいれば色々あるんだよ。それにしても、あれの倍あるって考えると気味が悪いって程度の話じゃないぜ」
「そんなに?」
笑い顔で話し続けるコーストをどこまで信用してよいものかわからない。そんな化け物のような人間が本当にいるのだろうか。にわかには信じがたいが、主人の存在が青年として明らかとなった今、嘘をついているとも考えにくい。それではあの弱そうな青年は実は恐ろしいほどに強いのか。
「いやぁ、あれは本当に。やっぱり敵にしちゃいけないな。、、あっ、おい、あれじゃないか」
やっぱりというところに引っ掛かったが追求をする暇はなさそうだった。雑談の時間は終わりを迎えた。時間を潰すにはちょうどいい面白い話だったのではないだろうか。
 コーストの視線の先、もう指をさせる場所に小さな鉱山が見えていた。
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