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ルシューランにて
鉱山
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それは山というより少し高さのある丘のような場所。手前から線を引いて世界を分けたように小さな草花が地を飾り、乾いた土地は嘘のように終わりを告げていた。緑の丘には細い線路が敷かれ、少し延びたところで大きく歪み、先が地面へと埋まっている。山は他にも幾つかあるのか向こうにも同じようなものが二三見える。あちらの方が少し大きいようだ。線路はそちらへも延びている。
線路に沿って近づいてみると山の反対側へと回り込んだ。地面が削れ、山を囲むように植物が絶えている。山は抉れたように黒い山肌をのぞかせている。
「真っ黒だ」
サリュが呟いた。鮮やかな緑とは対照的な焦がしたような色。サリュのそれとはまた違う、冷たさの滲む色。
どうやら太陽の位置からは山を隔てて反対側にいるようで、影に入っているせいか余計に黒さが引き立ちどこか異様な雰囲気を醸し出している。
「いい魔鉱石が採れるわけだなぁ」
山壁に触れていた手を離しながらコーストは振り返った。
「どうして?」
「この土、黒いだろ。それも光を反射しないから中だともっと酷いだろうな」
手に着いた土を払ってコーストはサリュの向こうの方を指差した。振り返ると確かに、入口らしき木枠で補強された穴が見えた。線路もその付近で二手に別れ、一方は中へと続いている。
「おそらくこの土自体が何かしらの力を持ってるんだろう。これじゃ中は真っ暗だ。そして、光の魔鉱石は闇の中でよく育つ」
「なるほど」
サリュたちが話している間にもカルはすたすたとひとり入口へと近づいていく。
「おい、見てみろよ」
手招きするカルにつられ穴をのぞき込む。
「本当だ。真っ暗」
「おかしいだろ。鉱山の魔鉱石って光るんじゃねぇの? ここじゃないんじゃないか」
カルの言葉にコーストも入口へと近づいてきた。
「おっ、ほんとだ。、、そうだなぁ、それもあるかもしれないし、鉱山自体が特殊なのかもしれない」
「特殊?」
「この鉱山が光を吸収してるとかな」
何を言い出すのかと怪訝な顔をするカルにコーストは地面を指差して付け加える。
「ほら、太陽は真上にあるのに影の落ち方がやけに広いだろう。あり得ない話じゃない」
確かに実際に上を見ると、山の向こうにあると思っていた太陽があった。それも今は昼過ぎ、少し入口側に傾いている。いくら抉れた形をしているからといってこの程度ではこの場所に四人がすっぽり収まるほどの影が広がるのは妙だった。
「じゃあこの山が周りの光を吸い取ってるって言うのか」
「そういうこともあり得なくはないかなぁと」
この奇妙な光景を前にするとコーストの考えを撥ね付けるわけにもいかない。よく見てみてもやはりここに影が落ちるのはおかしいのだ。そして丁度影のかかった部分、植物が絶えているのがもし削れたためではなく光が当たらないからだとすると。
「あり得なくないかもしれないね」
サリュは地面を見つめる。足元は山が削れたのか同じ黒い土が覆っている。それは影の終わりまで続いて日向の始まる手前で途切れて。まるでそうだと言わんばかりだ。
「なぁ嬢ちゃん。こんな色の土見たことあるかい?」
コーストが相変わらずぴったりと後ろを取って離れない彼女を半身で振り返った。
「、、ない」
下を向いて小さな声で呟いた彼女に、コーストは満足げに頷く。
「だよなぁ。じゃあ俺の言ったことも可能性はあるってことだ。なぁカル、入ってみようぜ」
そう言いながら返事も待たずにさっさと歩き出す。
「えっ、ちょっと待てよ」
カルがその行く手を腕で遮った。
「何だ?」
カルが示したのはリファーナだった。彼女は既に鉱山に半分入った彼の後ろを平然とついていこうとしていた。魔物が出ると言われる場所に少女を連れて入るわけにはいかないだろう、そうカルは彼に目で訴えた。
「あぁ、そうか。すまない」
そう言って振り返ったコーストは少し腰を折りリファーナと視線を会わせる。
「嬢ちゃんの意見を聞き忘れてたな。どうだ、行ける━━」
言い終わらないうちに彼女は勢いよく首を縦に振る。コーストもまたそれに頷き返した。
「よし、じゃあ改めて行く━━」
「えっ?」
「ん?」
「止めろよ、危ないだろ」
「何が?」
「何がって、彼女をつれていくつもりか」
呆けた顔で見つめてくるコーストに言葉は自然と強くなる。
「あぁ、そうだが」
当然の事とでも言うように答えるコーストに呆れて溜め息にもならない息が漏れる。
「何で止めないんだよ」
「ついてくるって言ってるし、外で待たせとくのもなぁ」
なぁ、とコーストがリファーナの方に顔を向けると、彼女の不思議そうな顔が首を傾げる。呑気なことだ。コーストは買い物にでも行くような調子で話を続ける。
「心配するな。俺が見てる」
「何が起こるか知れないんだぞ。魔物にでも囲まれたらどうするんだよ」
「一匹ずつ薙ぐ」
「リファーナを庇いながらか」
「もちろん。それにだな、もしかするとこの子の方が、、」
「なんだよ」
「、、なんでもねぇよ」
コーストは誤魔化して笑う。
「大丈夫だよ。何かあったらお前たちは先に行けばいい。足手まといにはならないさ」
「でもそれじゃ」
二人が危険だ。サリュの脳裏で聞いたことのないリファーナの叫びが反響する。その声に背を向けたら、それは、見捨てると言うことじゃないか。
「おいおい、勝手に変なシナリオ作らないでくれよ。やられたりしねぇよ」
「でも」
「なんなんだお前ら、信用ねぇなぁ」
「だって」
心配じゃないか。そう言おうとした。しかし言わせてはくれかった。
「はいはい、わかったから」
手を降りながらなぜかコーストは一歩足を引く。
「そんなに言うんだったらなぁ」
リファーナの手をとる。そして
「先行くぞ!」
次の瞬間、地面を蹴った二人の姿は闇に飲まれていた。
線路に沿って近づいてみると山の反対側へと回り込んだ。地面が削れ、山を囲むように植物が絶えている。山は抉れたように黒い山肌をのぞかせている。
「真っ黒だ」
サリュが呟いた。鮮やかな緑とは対照的な焦がしたような色。サリュのそれとはまた違う、冷たさの滲む色。
どうやら太陽の位置からは山を隔てて反対側にいるようで、影に入っているせいか余計に黒さが引き立ちどこか異様な雰囲気を醸し出している。
「いい魔鉱石が採れるわけだなぁ」
山壁に触れていた手を離しながらコーストは振り返った。
「どうして?」
「この土、黒いだろ。それも光を反射しないから中だともっと酷いだろうな」
手に着いた土を払ってコーストはサリュの向こうの方を指差した。振り返ると確かに、入口らしき木枠で補強された穴が見えた。線路もその付近で二手に別れ、一方は中へと続いている。
「おそらくこの土自体が何かしらの力を持ってるんだろう。これじゃ中は真っ暗だ。そして、光の魔鉱石は闇の中でよく育つ」
「なるほど」
サリュたちが話している間にもカルはすたすたとひとり入口へと近づいていく。
「おい、見てみろよ」
手招きするカルにつられ穴をのぞき込む。
「本当だ。真っ暗」
「おかしいだろ。鉱山の魔鉱石って光るんじゃねぇの? ここじゃないんじゃないか」
カルの言葉にコーストも入口へと近づいてきた。
「おっ、ほんとだ。、、そうだなぁ、それもあるかもしれないし、鉱山自体が特殊なのかもしれない」
「特殊?」
「この鉱山が光を吸収してるとかな」
何を言い出すのかと怪訝な顔をするカルにコーストは地面を指差して付け加える。
「ほら、太陽は真上にあるのに影の落ち方がやけに広いだろう。あり得ない話じゃない」
確かに実際に上を見ると、山の向こうにあると思っていた太陽があった。それも今は昼過ぎ、少し入口側に傾いている。いくら抉れた形をしているからといってこの程度ではこの場所に四人がすっぽり収まるほどの影が広がるのは妙だった。
「じゃあこの山が周りの光を吸い取ってるって言うのか」
「そういうこともあり得なくはないかなぁと」
この奇妙な光景を前にするとコーストの考えを撥ね付けるわけにもいかない。よく見てみてもやはりここに影が落ちるのはおかしいのだ。そして丁度影のかかった部分、植物が絶えているのがもし削れたためではなく光が当たらないからだとすると。
「あり得なくないかもしれないね」
サリュは地面を見つめる。足元は山が削れたのか同じ黒い土が覆っている。それは影の終わりまで続いて日向の始まる手前で途切れて。まるでそうだと言わんばかりだ。
「なぁ嬢ちゃん。こんな色の土見たことあるかい?」
コーストが相変わらずぴったりと後ろを取って離れない彼女を半身で振り返った。
「、、ない」
下を向いて小さな声で呟いた彼女に、コーストは満足げに頷く。
「だよなぁ。じゃあ俺の言ったことも可能性はあるってことだ。なぁカル、入ってみようぜ」
そう言いながら返事も待たずにさっさと歩き出す。
「えっ、ちょっと待てよ」
カルがその行く手を腕で遮った。
「何だ?」
カルが示したのはリファーナだった。彼女は既に鉱山に半分入った彼の後ろを平然とついていこうとしていた。魔物が出ると言われる場所に少女を連れて入るわけにはいかないだろう、そうカルは彼に目で訴えた。
「あぁ、そうか。すまない」
そう言って振り返ったコーストは少し腰を折りリファーナと視線を会わせる。
「嬢ちゃんの意見を聞き忘れてたな。どうだ、行ける━━」
言い終わらないうちに彼女は勢いよく首を縦に振る。コーストもまたそれに頷き返した。
「よし、じゃあ改めて行く━━」
「えっ?」
「ん?」
「止めろよ、危ないだろ」
「何が?」
「何がって、彼女をつれていくつもりか」
呆けた顔で見つめてくるコーストに言葉は自然と強くなる。
「あぁ、そうだが」
当然の事とでも言うように答えるコーストに呆れて溜め息にもならない息が漏れる。
「何で止めないんだよ」
「ついてくるって言ってるし、外で待たせとくのもなぁ」
なぁ、とコーストがリファーナの方に顔を向けると、彼女の不思議そうな顔が首を傾げる。呑気なことだ。コーストは買い物にでも行くような調子で話を続ける。
「心配するな。俺が見てる」
「何が起こるか知れないんだぞ。魔物にでも囲まれたらどうするんだよ」
「一匹ずつ薙ぐ」
「リファーナを庇いながらか」
「もちろん。それにだな、もしかするとこの子の方が、、」
「なんだよ」
「、、なんでもねぇよ」
コーストは誤魔化して笑う。
「大丈夫だよ。何かあったらお前たちは先に行けばいい。足手まといにはならないさ」
「でもそれじゃ」
二人が危険だ。サリュの脳裏で聞いたことのないリファーナの叫びが反響する。その声に背を向けたら、それは、見捨てると言うことじゃないか。
「おいおい、勝手に変なシナリオ作らないでくれよ。やられたりしねぇよ」
「でも」
「なんなんだお前ら、信用ねぇなぁ」
「だって」
心配じゃないか。そう言おうとした。しかし言わせてはくれかった。
「はいはい、わかったから」
手を降りながらなぜかコーストは一歩足を引く。
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リファーナの手をとる。そして
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