偽世界で語る夜は

tokoto

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あの日

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「ねぇ、どう思う?」

月明かりを受けたコンクリートが昼間の無機質な質感を嘘のように取っ払いキラキラと優しく、どこか冷たいひかりを反射している。

「何が」

あいつはいつもの場所にいた。いつかは学校と呼ばれ、皆が消えてからはもはやただのコンクリートの塊と化したここは、なぜかあいつの住みかとなることで今現在意味をなしている。取り分けこの屋上は夜の気紛れな夢想の場として、フェンスはソファとして、テレビ代わりに星空を眺め、気が向けば来ることのない未来について僕らは語り合う。
 向こうのフェンスの上、腰かけた逆光のシルエットは他に類いもなくあいつのもので間違いはない。扉を押すとび付いた蝶番ちょうつがいが無音の空間に音をたてた。

「開けたままでいいよ」
「そうか」
「うん」

少し距離のあるあいつのところへ歩いて行くと、何を問いたかったのかはすぐにわかった。

「危ない」

丁度あいつと並ぶとよく見える。一見すると、一人の少女の命の危機。斜め向かいに立つ校舎の一角、人が上る予定のなかった、ここより一階分高いもうひとつの屋上に、何者にも邪魔されず月の光を存分に受けた少女がいる。そこに彼女を遮る安全柵はない。
「そうだね」
彼女をまっすぐに見つめる横顔はどことなく笑っている。不気味な笑顔なんていう趣味の悪いものではなく、ただ純粋に子供がおもちゃを見るような。月さえもその希望を照らしたくなるような、そんな顔で。

「死ぬ」

どうやってあそこまで上ったのかは知らないが、正規ルートがないのだから建物の間を飛び越えでもしたのだろう。わずかに競りだした縁に立つ彼女は寒気を覚えるほどに白く、太陽を忘れていた。

「かもね」

あいつは目を閉じた。その表情を僕は二度見たことがある。何を考えているのか定かではないが、その瞬間は世界があいつの見方をする。なぜかすべてがあいつの物になってしまって動かせない。そんな気分になる。僕はその意味を知らない。

「それでも、助けない?」



「うん」

 少女の体が傾いてゆく。残念ながらその影が月と重なるほど、この国の月は大きくはなかったけれど、それでも幻想的で、なぜか心地よく空気が揺れて、彼女のスカートはふわりと舞った。



 落ちた音は聞こえない。ここでは命がついえる音はしない。命を捨てるに相当する行為をしたとき、その存在は消えるのだ。まるで瞼を閉じてしまったように。
 落ちた彼女はどこへ行ったか、恐らくそれを知ることもないだろうに。僕らは知らないふりをして話をする。






その日、世界人口推定三人から一人が消えた。
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