偽世界で語る夜は

tokoto

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「こ、これは…」
影の吹き出す熱風が毛並みを乱す。僕の百倍か、いやもっとあるのだろうな。屋上を埋める大きな姿は呼吸の度に熱気を発した。その体の半分以上を占める大きな翼のようなものが対照的に小さな体を包み込み、落ち着いたように静かになった。
「鳩とはまた違うな。鳩はもっとモコモコしてる」
「そうだね」
「雀でもない。こんなに大きくはない」
「うん」
返事をする声は弾んでいる。影がじっと動かないのを見て息を漏らして笑う。あいつは影の存在を歓迎している。
「竜だよ」
僕の最初の質問にやっと答えたあいつは竜というやつに近づいた。
「そんなに恥ずかしがらなくてもここに君を笑うやつはいないよ」
穏やかな口調で語りかける様子を見て僕の時の記憶が頭を差した。どうやら僕は常套手段に乗せられていたようだ。
 竜は相変わらず翼で身を隠している。石のように動かなくなった竜は僕の視界を目一杯に塞いでいるから、まるで空が光を無くしたようだ。
「君が来るのをずっと待っていたんだ。僕たちは君を歓迎する」
それでも影は動かない。もはや生きているのかさえ怪しい。
 あいつはもう一度笑みを溢し、影の横を通り抜け屋上の入り口へと歩き出した。
「どこに行くんだ」
「寝る場所を探すよ。今日はもう疲れた」
そう言ってあいつは手を振った。
「竜はどうするんだよ」
「いいよ。言いたいことは言ったから。後は任せるよ」
…困る。

 猫も消えた屋上。残された巨大な影は微動だにせず浅く長い呼吸を繰り返す。まるで何かから隠れるように。潜んで潜んで、そして新しい日が翼を照らす頃、その姿は世界に溶けた。
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