エインクシェル

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「遅かったわね」
淑女の名が相応しい老齢の姫君はテーブルの向こうで笑った。
「申し訳ございません、スィフィダ姫」
ヴェルガは胸に手を当てると軽く礼をした。
「その呼び方をするのはもう貴方くらいよ」
「おや、姫はいつまでも姫ではありませんか?」
スィフィダはクスりと笑う。
「大人をからかうのはよしなさい」
「私も大人ですとも。からかっているわけではありません」
「貴方は本当に、昔とちっとも変わらないわね。不思議だわ。さぁ、座ってちょうだい」
軽口をたたきあい、二人は向かい合って座る。
「今日は中庭のお花が咲いたのよ。私がずっとお水をやっていたの」
「それはさぞ綺麗でしょうに。いつか私にも見せてくださいますか?」
「いつかだなんて。いやだわ」
スィフィダは笑った。
「花はすぐに枯れてしまうのよ。早く見に来てちょうだい」
「わかりました。では明日にでも出向いてみることにしましょう」
ヴェルガもまた、穏やかに笑う。
「そうだわ、今日は貴方のような雲を見かけたのよ」
「私のような?」
「とても大きくてふわふわとしていて。優しい雲だったわ」
スィフィダは遠くを見つめた。
「それは私に似ているのでしょうか」
「あら、貴方疑っているのね。本当に貴方のようだったのよ」
「疑ってなどおりません。ただ、私はそれほど大きくもないですし、ふわふわとしているわけでもありません」
ヴェルガのからかい文句にスィフィダはつんとした表情を浮かべて見せる。
「いいわ、今度お散歩に出たときにもう一度探してみましょう。貴方に見せてあげるわ」
「それは楽しみです。ではその時はクーボップさんにお弁当を用意してもらいましょう」
ヴェルガの言葉にスィフィダの澄まし顔はぱっと崩れる。
「あら素敵ね。ピクニックって言うのかしら? 一度してみたかったのよ」
スィフィダは窓の外を眺める。今朝の晴れた空は雲に覆われてしまっていた。
「またいつか天気のいい日に」
スィフィダは彼を見ずに呟いた。
「えぇ。晴れるのが楽しみです」
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