6 / 9
5
しおりを挟む
「数日の我慢です」
「なんでそんなことわかるんですか」
「そんな気がするのです」
適当すぎる説得で丸め込み、二人はそそくさと退散して行った。
広い部屋。こんなにも広いと一人が際立つ。
部屋を出ると谷からの風が前髪を散らした。
「うぅ、さむぃ」
来ていた服は眠っている間に脱がされたようで柔らかいシャツとズボンに着替えさせられていた。
「どうされました?」
扉の脇の男がこちらを向いた。
「ちょっと外に出ようと思って。さっきの…ヴェルガさんはどこに行きましたか」
「あの方でしたら書斎にいらっしゃるかと」
広すぎる城内を彼に言われた通りに進んでいく。幸い、記憶力には自信があるので道には迷わない…はずだった。
「どなた? ここで何をしていらっしゃるの?」
どこをどう迷ったのか、寒さを避けて屋内の通路に入ったのが間違いだったのか、中庭のような場所に出た。花々が咲き誇る美しい庭は明るい日差しが差し込み、風も吹いてこない。そこに艶のある黒髪の少女がいた。
「迷っちゃったんだけど…ここ、どこかな?」
何が面白いのか少女は目を丸くした後クスクスと笑いだした。
「えっ、なに?」
「本当にそのような言葉を使う方がいるのね」
可憐な少女は色の深い星空のようなドレスを着ている。白い肌に映える宝石のように澄んだ青緑の瞳。とても美しく、とても繊細で。それはまるで…まさか、そんな───
「お姫様なんて、いるの…?」
「あら、それなら私は何に見えて?」
「だって、そんなのお話の中でっ」
童話の中しか見たことがない。
「貴方どこからいらしたの? 王女を知らないなんて…。そんな国あったかしら」
少女は困った様子で俺を見る。
「私はエルレイル国第一王女ソフィアです」
「王女…さま…」
絵本を捲ったような人だ。…思えばここは城ということだから王女がいても不思議ではないのか。
「そうよ、一国の王女が名乗ったのだからお名前を教えてくださらない?」
「…俺は坂木ジン」
「ジン…ジンね。どうしてこんなところに?」
「道に迷っちゃって…」
「どこに行きたいの?」
「図書館なんだけど…」
「いいわ、私が案内して差し上げます。ついていらして」
そう言うとソフィアは俺が来た道を戻り始めた。
「ちょっと、まってよ」
想像よりあまりに大胆なお姫様に俺は困惑していた。
「こういうことはよくあることなの」
先を行くソフィアに問いかける。
「まさか。王女に道案内をさせるなんて誰かに見られたら…」
「こ、ここでいい、ここでいいよ。その…ソフィア、…様は戻って」
ソフィアは愛らしいキョトンとした顔でこちらを見つめた。
「あら送ってくださらないの?」
「なんのために案内してきたの?」
っ、マズい、王女にこんなこと言ったらダメだっただろうか。
「あっ、いや、待って違うんだ」
慌てて訂正するがソフィアの表情は固まったように動かない。
「…ソフィア?」
止まってしまった彼女の前で手を振ってみる。
「ソフィ──」
「ふふっ」
動いたっ。笑ったっ。
「本当に面白いわ。なんにも知らないのね。まるで違う世界から来たみたいだわ」
「違う世界…」
「私本をよく読むの。哲学書だったかしら。魔法書? どっちでもいいわ。世界はエインクシェル以外にもたくさんあるって書いてあったの」
ソフィアは得意気に語りだした。エインクシェルはこの世界の名であり、その他多くの世界は我々のわからないところで隣接していて、その境はどこにでもあってどこにもないのだ、と。
「ヴェルガさんが…」
扉だ。
「ヴェルガがどうしたの?」
俺が通ってきた扉がその境だとしたら。
「あの人が俺をつれてきた。俺は…」
本当に別の世界に来てしまったのか。
「ヴェルガが? だから図書館なのね、今、図書館にいるのねっ?」
ソフィアは興奮した様子で俺に詰め寄る。
「あぁ、たぶん」
「いいわ、案内してあげます。私、たった今ヴェルガに用事ができたわ」
早く行きましょう、とまた歩き出したソフィアは先程より少し早足になった。
「なんでそんなことわかるんですか」
「そんな気がするのです」
適当すぎる説得で丸め込み、二人はそそくさと退散して行った。
広い部屋。こんなにも広いと一人が際立つ。
部屋を出ると谷からの風が前髪を散らした。
「うぅ、さむぃ」
来ていた服は眠っている間に脱がされたようで柔らかいシャツとズボンに着替えさせられていた。
「どうされました?」
扉の脇の男がこちらを向いた。
「ちょっと外に出ようと思って。さっきの…ヴェルガさんはどこに行きましたか」
「あの方でしたら書斎にいらっしゃるかと」
広すぎる城内を彼に言われた通りに進んでいく。幸い、記憶力には自信があるので道には迷わない…はずだった。
「どなた? ここで何をしていらっしゃるの?」
どこをどう迷ったのか、寒さを避けて屋内の通路に入ったのが間違いだったのか、中庭のような場所に出た。花々が咲き誇る美しい庭は明るい日差しが差し込み、風も吹いてこない。そこに艶のある黒髪の少女がいた。
「迷っちゃったんだけど…ここ、どこかな?」
何が面白いのか少女は目を丸くした後クスクスと笑いだした。
「えっ、なに?」
「本当にそのような言葉を使う方がいるのね」
可憐な少女は色の深い星空のようなドレスを着ている。白い肌に映える宝石のように澄んだ青緑の瞳。とても美しく、とても繊細で。それはまるで…まさか、そんな───
「お姫様なんて、いるの…?」
「あら、それなら私は何に見えて?」
「だって、そんなのお話の中でっ」
童話の中しか見たことがない。
「貴方どこからいらしたの? 王女を知らないなんて…。そんな国あったかしら」
少女は困った様子で俺を見る。
「私はエルレイル国第一王女ソフィアです」
「王女…さま…」
絵本を捲ったような人だ。…思えばここは城ということだから王女がいても不思議ではないのか。
「そうよ、一国の王女が名乗ったのだからお名前を教えてくださらない?」
「…俺は坂木ジン」
「ジン…ジンね。どうしてこんなところに?」
「道に迷っちゃって…」
「どこに行きたいの?」
「図書館なんだけど…」
「いいわ、私が案内して差し上げます。ついていらして」
そう言うとソフィアは俺が来た道を戻り始めた。
「ちょっと、まってよ」
想像よりあまりに大胆なお姫様に俺は困惑していた。
「こういうことはよくあることなの」
先を行くソフィアに問いかける。
「まさか。王女に道案内をさせるなんて誰かに見られたら…」
「こ、ここでいい、ここでいいよ。その…ソフィア、…様は戻って」
ソフィアは愛らしいキョトンとした顔でこちらを見つめた。
「あら送ってくださらないの?」
「なんのために案内してきたの?」
っ、マズい、王女にこんなこと言ったらダメだっただろうか。
「あっ、いや、待って違うんだ」
慌てて訂正するがソフィアの表情は固まったように動かない。
「…ソフィア?」
止まってしまった彼女の前で手を振ってみる。
「ソフィ──」
「ふふっ」
動いたっ。笑ったっ。
「本当に面白いわ。なんにも知らないのね。まるで違う世界から来たみたいだわ」
「違う世界…」
「私本をよく読むの。哲学書だったかしら。魔法書? どっちでもいいわ。世界はエインクシェル以外にもたくさんあるって書いてあったの」
ソフィアは得意気に語りだした。エインクシェルはこの世界の名であり、その他多くの世界は我々のわからないところで隣接していて、その境はどこにでもあってどこにもないのだ、と。
「ヴェルガさんが…」
扉だ。
「ヴェルガがどうしたの?」
俺が通ってきた扉がその境だとしたら。
「あの人が俺をつれてきた。俺は…」
本当に別の世界に来てしまったのか。
「ヴェルガが? だから図書館なのね、今、図書館にいるのねっ?」
ソフィアは興奮した様子で俺に詰め寄る。
「あぁ、たぶん」
「いいわ、案内してあげます。私、たった今ヴェルガに用事ができたわ」
早く行きましょう、とまた歩き出したソフィアは先程より少し早足になった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
招かれざる客を拒む店
篠月珪霞
ファンタジー
そこは、寂れた村のある一角。ひっそりとした佇いに気付く人間は少ない。通称「招かれざる客を拒む店」。正式名称が知られていないため、便宜上の店名だったが。
静寂と平穏を壊す騒々しさは、一定間隔でやってくる。今日もまた、一人。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる