コスメの話は聞き飽きた

山田輝

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コスメの話は聞き飽きた

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 彼女がコスメの話を延々としている。もうそろそろ寝てもいい時間帯だと言うのに。

「最近欲しいのは、この辺かなーーー」

 そう言うと、彼女は5、6枚のコスメの写真を見せてきた。私は、薄目でそれを覗き込む。どれどれ、これはリップで、こっちはアイシャドウだろう。ん、これは何だ、リップオイル? 最近の女の子はリップの上にオイルも塗るっていうのか!? そして、こっちは何だ。そもそも名称すらわからん!

 そんな困惑した私の表情は彼女には見えていないのだろうか。彼女は、コスメの話を続行する。

「とにかく可愛いんだよ! 見た目が可愛いでしょ、このケースのデザイン。ケースも期間限定のものがあって、それを手に入れたいって思いも強いかも!」

 ケースが欲しいというのは、盲点だろう。ここに気付けていない男子は二流である。こういう情報は、夜更かししてでも、彼女の話に付き合わなければ手に入れることは出来ない。つまり、努力の賜物なのである。

「でも、やっぱ大事なのは中身でしょ? どれも同じ色に見えるけど?」

 私は彼女にそう返した。

「何言ってんの!!! 全然違う色だよ! というか、どのブランドをとって見ても、同じ色のコスメなんてないんだから! この微妙な色味の違いで、合わせるお洋服とか髪の感じとかも変わってくるんだよ!」

 なるほど、どうやらさっきの返しは、不正解だったらしい。皆さんは、"禁忌肢"というものをご存知だろうか。医師国家試験において、どんなに高得点を叩き出していようと、この"禁忌肢"を選んでしまったら、その時点で不合格になってしまうという、恐ろしい選択肢である。私は、恋人とコスメの話をするという状況において、この"禁忌肢"を選んでしまったのかもしれない。私は、もうゲームオーバーなのか? チャンスはまだあるのだろうか?

「そう云えばさっき、期間限定のケースが欲しいって言ってたけど、なんかオシャレになったりするの?」

 これでどうだ。彼女の顔色を窺う。

「なるよー! 例えば、バレンタインシーズンだったら、チョコみたいなパッケージになったり、クリスマスだったらクリスマスコフレって言って、予約しないと買えないようなゴージャスな感じになる! 中身も限定色だし、逃したら二度と手に入らないんだよねーーー。だから、転売する人もいっぱい!」

 ふうーー、正解だったらしい。逆転の一手だ。何となく掴めてきた。次の質問も外さないだろう。

「コスメって使ったら無くなっちゃうから、悲しくなるよね?」

 うん、ならないわけがない。きっとこの質問は、女性心理を突いた、いい質問に違いない。

「いやー、全然ならないかな。そもそも、コスメってそう簡単には無くならないよ! まあ、悲しい人はストックとか買っとくんじゃない?」

 ええ!? これは当たったと思ったのに。引き下がれない私は、咄嗟に返す。

「無くなっても、限定のケースって取っておくもん?」

「だーかーらー、無くなったらとか言うけど、コスメはほぼ無くならないと思っていいよ!」

 駄目だ、完全敗北だ。コスメのことは、わからない。

「まあでもーー、特に最近欲しいのはこれかなーー」

 まーた、何か写真を見せてきた。これは、ああ、リップか。

「色味がめっちゃ可愛いし、マスクでも落ちにくい成分になってるんだよ! 絶対、欲しいよね!」

 確かに、このご時世、マスクで落ちにくいってのは重要なことだろう。色味に関しては、よくわからないーー。というか、眠くなってきた。なんだろう、とにかく眠い。

「あーー、こーも欲しーかー。ーも、ーーと高ーんーよね。ーー思う?」

 気付いたら目を瞑っていた。彼女の話を聞き取れなくなってゆく。

「ーとは、ーれーーーいーも。でー、ちょーーいーだーー。どうーー?」

 私が半分寝ているにも関わらず、話を続けている辺り、彼女らしい。まったく、君のコスメの話は聞き飽きた。でも、たまにはこういう寝落ちの仕方もいいな。今度のプレゼントは、さっき言ってたコスメにしよう。そうだ、きっとそうしようーー。

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