22 / 210
二
しおりを挟む
そういえば最近は生活保護や奨学金にもいろいろ面倒なことがあり、スマートフォンのニュースへのコメントにはかなり厳しいものがあったことを美波は思い出した。
「美波はそれであたしのこと差別したりしないでしょ?」
「勿論よ。他の生徒だって、べつにそんなことあれこれ言ったりしないんじゃないの?」
とは言ったものの、しかし考えてみれば美波の通っていた私立校でも、やはり経済的な格差というのは生徒間でもちらちらと感じることがあった。
今日びは平均的な家庭の子でも私立に通うことは珍しくはないが、それでもその学校にはかなり富裕層の家庭の子女が多かったので、そんななかでは、無理をして通ってきている家の子というのは、どことなく浮いてしまうものだ。
美波自身はけっしてそういった生徒たちを差別したり色眼鏡で見たつもりはなかったが、彼女たちにしては肩身の狭いこともあったかもしれない。
(でも、この学院では違うかも)
美波はぼんやりと頭に浮かんだ考えを口にしていた。
「ここでは、知られても誰もそんなことで夕子を変な目で見たりしないんじゃない」
そのことには奇妙な確信がある。
「ん……」 夕子もそこで特になにも反論しない。
一瞬、二人のあいだに微妙な沈黙がおりた。
部屋の棚に置かれた支給品の目覚まし時計が六時を示そうとしていた。
広々とした食堂には長方形のテーブルが幾つも並んでおり、制服姿の少女たちが静かに座っている。
これだけの生徒が集まっているというのに私語がほとんど聞こえないのはいっそ見ていて壮観でさえある。美波はここでもまた落ち着かないものを感じながら夕子とならんで席につく。
テーブルうえのトレイには、味噌汁に、炒めた肉とキャベツ、沢庵二切れとご飯という日本食が、プラスチックの皿や椀に盛られて置かれてある。
「おかわりはありません。食べ残しも駄目です。必ずすべて食べるように」
席につく際に中年のシスターからかけられた声が耳につく。
前方にはシスターたちのテーブルが横向きに置かれ、そこで学院長はじめシスターたちがならんでおり、シスター・アグネスやシスター・マーガレットの姿も見える。
「今日から皆さんとともに学ぶことになった生徒を紹介します。美波、夕子、立ちなさい」
あわてて美波は立ち、夕子も面倒くさそうにつづく。
「美波はそれであたしのこと差別したりしないでしょ?」
「勿論よ。他の生徒だって、べつにそんなことあれこれ言ったりしないんじゃないの?」
とは言ったものの、しかし考えてみれば美波の通っていた私立校でも、やはり経済的な格差というのは生徒間でもちらちらと感じることがあった。
今日びは平均的な家庭の子でも私立に通うことは珍しくはないが、それでもその学校にはかなり富裕層の家庭の子女が多かったので、そんななかでは、無理をして通ってきている家の子というのは、どことなく浮いてしまうものだ。
美波自身はけっしてそういった生徒たちを差別したり色眼鏡で見たつもりはなかったが、彼女たちにしては肩身の狭いこともあったかもしれない。
(でも、この学院では違うかも)
美波はぼんやりと頭に浮かんだ考えを口にしていた。
「ここでは、知られても誰もそんなことで夕子を変な目で見たりしないんじゃない」
そのことには奇妙な確信がある。
「ん……」 夕子もそこで特になにも反論しない。
一瞬、二人のあいだに微妙な沈黙がおりた。
部屋の棚に置かれた支給品の目覚まし時計が六時を示そうとしていた。
広々とした食堂には長方形のテーブルが幾つも並んでおり、制服姿の少女たちが静かに座っている。
これだけの生徒が集まっているというのに私語がほとんど聞こえないのはいっそ見ていて壮観でさえある。美波はここでもまた落ち着かないものを感じながら夕子とならんで席につく。
テーブルうえのトレイには、味噌汁に、炒めた肉とキャベツ、沢庵二切れとご飯という日本食が、プラスチックの皿や椀に盛られて置かれてある。
「おかわりはありません。食べ残しも駄目です。必ずすべて食べるように」
席につく際に中年のシスターからかけられた声が耳につく。
前方にはシスターたちのテーブルが横向きに置かれ、そこで学院長はじめシスターたちがならんでおり、シスター・アグネスやシスター・マーガレットの姿も見える。
「今日から皆さんとともに学ぶことになった生徒を紹介します。美波、夕子、立ちなさい」
あわてて美波は立ち、夕子も面倒くさそうにつづく。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる