聖白薔薇少女 

平坂 静音

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墜ちた女 一

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 さらによく見ると、その目が青いことに気づいた。髪はダークブラウン。彼もまた日本人ではないらしい。夕子の凝視に相手は苦笑を浮かべた。

「親父か祖父が外国人だったらしいんだ。一応、名前は日本名で田辺たなべというがな」

「た、田辺さん……?」

「田辺けんだ。学院長たちはパトリックって呼ぶがな」

「それが英語名なんですか?」

 なんとなく興味をひかれて夕子は訊いていた。

「学院長が勝手につけた名前だ」

 状況がよくわからず目をぱちくりさせている夕子に、田辺は煙草をすすめる。いいのだろうか、と差し出された煙草をまじまじと見ている夕子に田辺は笑った。

「あそこに入ったらなかなか吸えないだろう?」

 おそるおそる夕子は煙草を手に取る。田辺がライターで火を付けてくれた。

「捨て子だったんだよ。あの学院のことを教会だとでも思ったのか、俺を生んだ女が門の前へ捨てていったそうだ。聞いた話だがな」

「あの学院の正門に、ですか……?」

 夕子はおどおどとした口調になってしまう。田辺が大人の男性ということもあるが、妙に迫力があるのだ。

「ああ。多分相手の男、つまり俺の父親が外国人……欧米人か、そのハーフなんだろうな。だから俺はハーフかもしくはクォーターなんだろ」

 自分の髪をめんどくさそうに引っぱりながら田辺が脚を組んで説明する。

 その黒いスラックスにつつまれた脚も、日本人ばなれしてすらりと伸びている。これほどのルックスなら、あんな田舎の学院で守衛の仕事なぞしなくとも、本人がのぞめばモデルなりホストなどになって都会で華々しく生きれたかもしれない。

 十六歳の夕子からすれば、田舎での人生というのはわびしく思えて仕方ないのだ。煙草を吸ってしまうと、妙に夕子もくだけた気分になって、思っていたことを言ってしまった。

「あの、あんな辺鄙へんぴなところじゃなくて、都会でモデルとかやってみようとか思わなかったんですか?」

 そう問わずにいられないほど、田辺のルックスはあの僻地では浮いている気がする。東京や横浜の街のほうがずっと住みやすい気がするのだが。

「ないな」 ふーっと、白い煙を吐きだし田辺はあっさり言う。

「モデルとか、水商売なんて向いてないしな。俺、愛想ないし、口下手だしな」

 そうだろうか。両親のまえで見せた紳士然とした態度からするとそうも思えない。

「第一、俺、都会に出て就職しようにも、戸籍が無いからな。あ、おい!」

 夕子はくわえていた煙草を落としていた。
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