聖白薔薇少女 

平坂 静音

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「危ねえな」

「す、すいません」

 田辺があわててひろってくれた煙草を受け取りながら、夕子は訊かずにいられなかった。

「な、なんで、戸籍無いんですか?」

 戸籍が無い人間なぞいるのだろうか。夕子は目をぱちくりさせていた。

「いるんだよ。そういう人間のことを、〝無戸籍者むこせきしゃ〟っていうんだ。借金や夫からのDVから逃げてた母親が子ども生んで、居場所がばれるのが怖くて出生届を出さなかったとか、いろいろ理由はあるが、俺の場合はたんに学院長が役所に届けなかったからさ」                          

 捨て子であっても市町村に届ければ、戸籍は作れることになっているという。

「な、なんで、学院長は出生届を出さなかったんですか?」

「出す理由がないからな」

 夕子は驚きっぱなしだ。

「そ、そんな……、あ、あの人、一応、教師で、……聖職者でしょう?」

 けっ、けっ、けっ……。

 ひどく下品な子どものような笑い方なのだが、不思議と夕子は田辺を嫌いに思えない。

「せ、聖職者か。まぁ、たしかにな。もう言ってしまおうか、」

 田辺は脚を組みかえた。何気ない仕草だが、そこに奇妙なものを感じて夕子はどぎまぎしてしまう。それは色気というものだ。男の色気というものを間近に見てしまったのだ。

「……あの学院は、本当のところ学院とか学校じゃないんだな」

「学校じゃ……ない?」

「学校としての認可を受けてないからな」

 夕子は自分が今どんな表情をしているかわからなくなっていた。そんな彼女の困惑をよそに田辺は言葉をつづける。

教護院きょうごいんていうのかな? 体裁良くいうと、大きなフリースクールみたいなもんだ」

 教護院。聞き慣れぬ言葉に夕子は眉をしかめた。

「き、教護院て……?」

「まぁ、わかりやすく言うと収容所なんだよ」

 収容所――。

 それもまた聞き慣れない言葉だ。少なくとも夕子の知識では、今の日本にはないはずだ。

「な、なんなんですか、それ?」

「つまり、おまえらみたいなのを集めて、更生させるんだとさ」

「はあ?」

 更生という言葉なら理解できるが……。

「そ、それじゃ、まるで鑑別所か少年院じゃないですか?」

「そうだよ」

「え?」

「まだ気づかないか? あそこは民間の少年院なんだよ」

 田辺の夕子を見る目には奇妙な哀れみが浮かんでいた。
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