聖白薔薇少女 

平坂 静音

文字の大きさ
106 / 210

しおりを挟む
「昔、あんたみたいな馬鹿な娘がいたよ。神の教えを無視し、男を誘惑し罪をばらまき、とうとう神の怒りを受けて死んでしまった愚かな娘。この学院にはそういう愚か者がたくさん来るんだよ。そんな娘は死ぬんだよ。本当に死ぬんだからね……」

 夕子はちいさく息を飲んだ。

 言葉は過激だが、最後のほうは呟くような小声になってきている。それがいっそう怖ろしい。

 しかも学院長の目は、夕子を見ているようで見ていない。もはや正気とは思えない。

(狂ってるんだ……)

 生まれて初めて本物の狂人をまえにして、夕子は心底怖ろしくなってきた。自分の胸の動悸の音が聞こえそうだ。

「私はね、そういう愚かで堕落しきったあんたたちみたいなのを、一人でも救ってやろうとしているんだよ。それなのに、なんで解らないんだろうねぇ」

 もう、救ってくれなくてもいい、という反発の言葉は夕子の口から出ない。

「あんた、パトリックと淫らなことをしたかい?」

 夕子は心臓が止まりそうになった。

 話を聞いたあと、すっかり落ち込んでしまっていた夕子に、学院の正門前でパトリックが頬にキスしてくれたのだ。多分、慰めるためだろう。

「ひっ!」
 
 いきなり制服の胸あたりをひっぱられて、夕子は悲鳴をあげそうになった。街の不良ならともかく、僧服を着た聖職者、それも初老になろうという女性がすることだろうか。

「お言い! おまえ、パトリックと何をしたんだい?」

「な、何もしてません! ほ、ほっぺたにキスしてくれただけです」

「ふん、それだけかい?」

「そ、それだけです」

 全身ががくがくとふるえる。おぞましいことに、学院長の夕子をにらむ憎悪の目には、べつの意味の憎しみがまじっていることに十六の夕子は気づいてしまったのだ。

(いったい、なんなのよ、この人)

 怪物をまえにして、夕子は恐怖と嫌悪をかくせいないでいた。

「なんだい、その目は?」

 そこで目を伏せるなり、泣きだすなりしていれば、相手も少しはおさまったかもしれない。だが、夕子は目を伏せもせず、涙を流しもせず、そのアーモンド型の目ではっきりと相手を睨み返していた。

「ほう? この上まだそういう態度を取るのかい?」

 夕子はひるまなかった。ありったけの敵意と憎悪をこめて学院長を睨みつけていた。

「……おまえ、自分を可愛いと思っているんだろう? そうだろう?」

 質問のあまりの意外さが夕子を沈黙させる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...