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五
しおりを挟む「学院長、大変です! 火事です」
まさに最初の鞭が美波の頬に下ろされようとした瞬間、廊下からシスター・アグネスの声がひびいてきた。
「なんだって?」
次の瞬間、建物じゅうにに警報器が鳴った。
耳をつんざくその音は、聞く者の気を削ぐ。
「別館で火が出て……大変です、早く消防車を」
「そんな、外部の人間を呼ぶなんて」
いつになく学院長はうろたえた顔を見せる。こんなときだが、ほんのすこし美波は小気味よく思えた。
「で、でもあそこにはスプリングクーラーもないんです。大事になったら」
「と、とにかくすぐ消火器を……。おまえ、ここにいるんだよ! 逃げるんじゃないよ、鍵をしていくからね」
そう言い捨てると、学院長はあたふたとシスター・アグネスとつれだって出ていく。別館へ向かうのだろう。
その間もけたたましく恐ろしいサイレンは鳴りつづけている。おそらく建物の敷地内ので煙にたいして感知器が作動しているのだろう。
美波はとりあえず鞭の恐怖から逃れたことに安堵の溜息をつく。
(そうだ……このあいだに)
カーペットの上に膝をつくと、学院長の重々しい机の下を覗き見るようにして、目当てのものを探った。
「いったい、どうしたというの!」
「ああ、学院長」
シスター・マーガレットは真っ青だ。手には消火器があるが、持っているだけでも精一杯というふうで、なにもしていないようだ。
「火事はどこだというの?」
別館の前では生徒たちが集まっている。とりあえずシスター・マーガレットが全員外に出るように指示したのだろう。杉が人数を数えている。
「二階の端あたりからすごい煙が……」
「水、早く水を。守衛たちを呼んでおいで、水をかけるのよ! はやく!」
「消防車を呼びましょう」
シスター・マーガレットの懇願に学院長は首を振る。
「駄目だよ、とんでもない、この建物に外部の人間を入れるなんて。ここは神の館だよ」
「で、でも」
シスター・マーガレットが言いつのろうとした瞬間、杉の声がひびいてきた。
「大変です、雪葉がいません。あの子、まだ中にいるんだわ」
雪葉は今朝も朝食を取らず部屋にいたままで、まだベッドで寝ているのかもしれない。
学院長は複雑な顔をした。
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