阿古屋

平坂 静音

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狭間にて 二

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 姫様は吐息をひとつ、こぼされました。
「わたしはね、死んで冥途にわたった母を見初めた閻魔大王が、こらえきれずに母に手をつけて生れた娘だそうよ。いったい冥途のことと、こちらの世のなかが、どこでどう繋がっているのか、わたしにもわからないけれど、父は母の骸から生まれ出たわたしを我が子と信じて疑わなかったの。それというのも、父はね、魂殿たまどののなかで母との別れを惜しんで、そこでわたしが出来たと思っているのよ」
 わたくしは言葉をうしないました。魂殿というのは、葬儀までのあいだ死者のむくろを安置する場所のはずでございます。顔色を変えたわたくしを、姫様はあきらめをふくんだ目でごらんになられました。
「墓所から赤子だったわたしの泣き声が聞こえてくるようになり、わたしは異変を聞きつけてかけつけた家司たちによって父のもとへはこばれたの。そういういきさつがあるため、この身体は、父と母の血と肉を受けついだものかもしれないけれど、わたしは本当は閻魔大王の眷属なのかもしれないわね。もし父が母の遺体と情を交わすことがなければ、わたしは黄泉の世界にとどまっていたかもしれない。あの世で母の魂が大王の情を受けたのと、現世での亡骸が父の情を受けたのがほぼ同時であったため、わたくしのように不思議な存在ができてしまったのよ」
 深窓の麗人の唇からもれる生々しい話にわたくしは内心おどろき、呆れ、どうこたえてよいものか見当もつかず、ただただ呆然と座りこんでいるしかありませんでした。
「後のことはおまえも知っていると思うけれど、夜泣きがひどいわたしの身を案じた父が陰陽師の言を信じて、この霊場へわたしをかくまい、命を永らえるために毎年生きた天児を川へ落としているのよ。陰陽師の言うことがどれだけあたっているのか、正直わたしにもわからないけれど、少なくともこのような異形の身でなんとかこの歳まで生きてこられたわ」 
 姫様は、またもあきらめを秘めた目をなされ、かすかに微笑まれました。
「姫様、わたくしは……」
「しっ」
 足音が響き、やわらかな声がひびいてまいりました。
「阿古屋はこちらにおりますか? まぁ、阿古屋、なにをしているのですか? はやく姫様のお手水ちょうずのしたくをなさい」
 のどかな声は山吹のものでございます。一瞬、背を強ばらせたわたくしに姫様が耳打ちされました。
「だいじょうぶよ、今の山吹はふつうだから。何事もなかったようにしているといいわ」
 けれども昨夜の浅ましい鬼の姿を見てしまったあとでは、何事もなかったような顔などできません。
「阿古屋、どうしたというのですか? そんな怖ろしいものでも見るような目でわたしを見て」
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