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双花競演 九 終わり
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……これ、本当は誰にも言っちゃいけないんだけれどね……《朝顔は》身ごもっていたのさ。旦那の子? ちがうよ。だったら何も毒を飲むことはないさ。
世間では毒を飲んで死んだと言われているけれど、発見がはやくて命はとりとめてね。けれどそのとき《朝顔》が身ごもっていることがわかって、大変だったんだよ。なんと言っても身請けが決まっている身だ。それが旦那とはべつの男の子を宿していたんだからね。
相手の男?
まぁ……言ってしまってもいいかね。《夕顔》だよ。
あら、そんなに意外かい?
楼主のちょっとした酔狂でね、顔だちの可愛い男の子を、三つの頃から女として育てあげて、洒落のわかる金持ちの好事家に売りこんで水揚げさせたんだよ。まぁ、いわば陰間でね。
勿論、最初の夜に《夕顔》が男だと相手にはわかったんだけれど、その人も楼主が見込んだだけあって物好きな人でね、大枚はたいて馴染みとして通って、他の客にはいっさい手を出させず面倒みた。男でありながら《夕顔》は楼一番の妓女として有名になったんだ。
その《夕顔》に敵意を持った《朝顔》は、なにかと《夕顔》につっかかる。周囲もそれをはやしたてた。妓楼じゃ妓女どうしの喧嘩も客寄せの種になるしね。
あるとき……《夕顔》に後に聞いた話だけれど、《朝顔》が室に怒鳴りこんできて、本当につかみあいの喧嘩になったそうだ。
たまたま側には誰もいなくて、室には二人だけだったそうで、二人がつかみあってもつれあっているうちに、《夕顔》の衣の胸元が乱れて、正体がばれてしまったと。
妙な話だけれど、《夕顔》が男だとわかったとたん、《朝顔》のなかで別の想いが暴れだしたらしい。二人はそのまま……情を交わしてしまったんだとさ。
もともと互いに競争相手として相手をひどく気にして嫌い合ってはいたけれど、それはそれだけ互いに相手に興味や執着を持っていたということだからね。激しい憎しみは、何かの拍子に激しい愛に変わることも稀にはあるようだ。勿論、逆の例もあるだろうけど。
子が宿ったとわかったとき、楼の遣り手婆は内密に子を始末することをせまった。
こういう商売の女にとっては仕方ない。けれど、《朝顔》はそれを厭うて腹の子といっしょに死ぬことを選んだんだ。情の激しい娘だった。情の激しさでは《夕顔》も負けていない。
《夕顔》はね、後追い自殺をしたんだよ。
例の旦那が、《夕顔》を身請けして楼から出してくれるはずなのに、それを拒んで、お詫びの遺書をのこして死んだのさ。
世間では背後から首を絞められて殺されたと噂されているけれど、実はそう見えるようにして自分で自分の首を絞めたのさ。
そんなこと出来るのか、と言うかもしれないけれど、それをやってのけるほど激しい気性の持ち主だったんだよ。遺書にちゃんと書いてあった。
「万が一にも旦那様の身請けを厭うて自害した、などという噂になっては申し訳ないので、必ずそうは言われないようにして死ぬ」と。
そうやって妓楼の内々の事情を知り、どちらの旦那にも贔屓にしてもらっていたあたしは、この歳になってもいろいろ良くしてもらってね。このお屋敷に置いてもらって、のんびり楽させてもらっているのもそのおかげさ。
ご推察のとおり、私の前職は《紫虹楼》の、その遣り手婆さ。そして……、
《昼顔》と名づけられて里子に出された赤子が今の清鳳先生さ。
あんた賢そうだから、この話聞いて気づいていると思うけれど、《夕顔》を身請けようとした酔狂な旦那こそ、このお屋敷の持ち主で、都で幅広く商売されている……そうさ、あんたの義理の叔父上にして沙蘭お嬢様のお父上さ。
そう、あの二人は腹ちがいの姉妹になるのさ。絶対、内緒だよ。
あんただけに言うのはね、死ぬまえに一人ぐらいには真実を知らせときたかったからさ。
《朝顔》と《夕顔》が憎みあっていて、《朝顔》が《夕顔》を呪い殺したなんてとんでもないって。二つの花の根っこにあったのは、常人には割り込めない深い絆と、生死を賭けてもつらぬき通した激しい想いだったんだと。
呆然として室にもどった春玉に、談笑していた沙蘭と清鳳が微笑みかけてきた。
清風が切れ長の美しい目を向ける。その目は、たしかに絵のなかの《夕顔》の目元と似ていることに春玉は気づいた。
世間では毒を飲んで死んだと言われているけれど、発見がはやくて命はとりとめてね。けれどそのとき《朝顔》が身ごもっていることがわかって、大変だったんだよ。なんと言っても身請けが決まっている身だ。それが旦那とはべつの男の子を宿していたんだからね。
相手の男?
まぁ……言ってしまってもいいかね。《夕顔》だよ。
あら、そんなに意外かい?
楼主のちょっとした酔狂でね、顔だちの可愛い男の子を、三つの頃から女として育てあげて、洒落のわかる金持ちの好事家に売りこんで水揚げさせたんだよ。まぁ、いわば陰間でね。
勿論、最初の夜に《夕顔》が男だと相手にはわかったんだけれど、その人も楼主が見込んだだけあって物好きな人でね、大枚はたいて馴染みとして通って、他の客にはいっさい手を出させず面倒みた。男でありながら《夕顔》は楼一番の妓女として有名になったんだ。
その《夕顔》に敵意を持った《朝顔》は、なにかと《夕顔》につっかかる。周囲もそれをはやしたてた。妓楼じゃ妓女どうしの喧嘩も客寄せの種になるしね。
あるとき……《夕顔》に後に聞いた話だけれど、《朝顔》が室に怒鳴りこんできて、本当につかみあいの喧嘩になったそうだ。
たまたま側には誰もいなくて、室には二人だけだったそうで、二人がつかみあってもつれあっているうちに、《夕顔》の衣の胸元が乱れて、正体がばれてしまったと。
妙な話だけれど、《夕顔》が男だとわかったとたん、《朝顔》のなかで別の想いが暴れだしたらしい。二人はそのまま……情を交わしてしまったんだとさ。
もともと互いに競争相手として相手をひどく気にして嫌い合ってはいたけれど、それはそれだけ互いに相手に興味や執着を持っていたということだからね。激しい憎しみは、何かの拍子に激しい愛に変わることも稀にはあるようだ。勿論、逆の例もあるだろうけど。
子が宿ったとわかったとき、楼の遣り手婆は内密に子を始末することをせまった。
こういう商売の女にとっては仕方ない。けれど、《朝顔》はそれを厭うて腹の子といっしょに死ぬことを選んだんだ。情の激しい娘だった。情の激しさでは《夕顔》も負けていない。
《夕顔》はね、後追い自殺をしたんだよ。
例の旦那が、《夕顔》を身請けして楼から出してくれるはずなのに、それを拒んで、お詫びの遺書をのこして死んだのさ。
世間では背後から首を絞められて殺されたと噂されているけれど、実はそう見えるようにして自分で自分の首を絞めたのさ。
そんなこと出来るのか、と言うかもしれないけれど、それをやってのけるほど激しい気性の持ち主だったんだよ。遺書にちゃんと書いてあった。
「万が一にも旦那様の身請けを厭うて自害した、などという噂になっては申し訳ないので、必ずそうは言われないようにして死ぬ」と。
そうやって妓楼の内々の事情を知り、どちらの旦那にも贔屓にしてもらっていたあたしは、この歳になってもいろいろ良くしてもらってね。このお屋敷に置いてもらって、のんびり楽させてもらっているのもそのおかげさ。
ご推察のとおり、私の前職は《紫虹楼》の、その遣り手婆さ。そして……、
《昼顔》と名づけられて里子に出された赤子が今の清鳳先生さ。
あんた賢そうだから、この話聞いて気づいていると思うけれど、《夕顔》を身請けようとした酔狂な旦那こそ、このお屋敷の持ち主で、都で幅広く商売されている……そうさ、あんたの義理の叔父上にして沙蘭お嬢様のお父上さ。
そう、あの二人は腹ちがいの姉妹になるのさ。絶対、内緒だよ。
あんただけに言うのはね、死ぬまえに一人ぐらいには真実を知らせときたかったからさ。
《朝顔》と《夕顔》が憎みあっていて、《朝顔》が《夕顔》を呪い殺したなんてとんでもないって。二つの花の根っこにあったのは、常人には割り込めない深い絆と、生死を賭けてもつらぬき通した激しい想いだったんだと。
呆然として室にもどった春玉に、談笑していた沙蘭と清鳳が微笑みかけてきた。
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